タイ政府「新型肺炎、エイズ・インフル薬で治癒」と発表
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ロピナビルは抗HIV薬の中の、プロテアーゼ阻害薬というジャンルのものです。ウイルスが増えていく過程で、ウイルスの組み立てに必要なタンパク質を細胞に作らせるのですが、つくられた大きなタンパク質を、プロテアーゼという酵素が小さく切断していき、適切な大きさのものにします。ロピナビルはこのプロテアーゼの働きを阻害し、結果的にウイルスの産生を抑制ができる、というメカニズムです。コロナウイルスもプロテアーゼを持っているため、このロピナビルが有効なのではないか、というのが基本となる考え方のようです。SARSの時には既にこれらの抗HIV薬は注目されていました。
1つの症例だけでは、本当にその薬の効果があるかは検証が不可能です。たまたまそのタイミングで治っただけかもしれません。「ランダム化比較試験」を行い、治療を行った群とプラセボ(偽薬)を投与した群で比較してはじめて、本当にその薬がどれほど効果があるのかわかります。中国では1月の早い段階で、ロピナビルとリトナビルを併用する無作為化対照試験を開始しています。倫理委員会の承認や同意書取得の手続きがあるにも関わらず、驚きの早さです。今後はその結果をまず待つべきだと思います。
既存の薬を治療薬に用いるのは、安全性(すでに副作用が知られている)、アクセス(すでに市場に出回っているため手に入りやすい)の面でも有利かと思うので、有効性が示せれば治療薬の希望の光になるかもしれません。解釈に注意が必要です。正確には、「重症のコロナウイルス肺炎患者にHIV治療薬・インフルエンザ治療薬の混合薬を投与したら2日後に改善が得られた」です。
1人の患者が「薬投与後に改善した」からといって、その薬のおかげなのか(因果関係があるのか)はわかりません。なぜなら、仮に薬を投与しなかった時のアウトカムがわからないから。だから製薬会社は数億円かけて、一つの薬のために臨床試験(ランダム化試験)を行います。
「その薬がコロナウイルス肺炎に効く」という因果関係の信頼度は、次のようなヒエラルキーで確かめられます。
Expert opinion (専門家の意見) < case study (この報告) < case series (このような複数の報告) < cohort study (観察研究) < ランダム化試験 <メタ解析
こういう状況でメタ解析やcohort studyが組まれる事は無いと思うので、ランダム化試験の結果待ちということになります。ロピナビルとリトナビルという抗HIV薬に関しては、既に中国で走っています(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2820%2930183-5/fulltext)。
現場では、おそらくインフルエンザとの合併感染を疑って投与したのだと思います。この症例報告だけを理由に、HIV薬とインフル薬の合剤に関してもランダム化試験を行う事は普通考えられません。