iPS細胞分化時に異常 がん化関連も 容器、機関で差
コメント
選択しているユーザー
注目のコメント
これは大きなニュースです。
医師としてはある程度予想されていた事です。細胞は分化(機能的に成熟し役割が決まっている)しているのが正常なものであり、未分化なものは一部の臓器や胎児にのみ認めます。
成人でこの分化に異常が生じて、無規律に増殖するものが「がん」と呼ばれます。がんの中でも分化の度合いが低いものは未分化がんと呼ばれ、悪性度が高いものが多くなります。
iPS細胞は人為的にこの分化をリセットしています。このリセットが上手くいけば良いですが、少しでも狂いがあればそれはがんのリスクとなる可能性があり、これがiPS細胞最大の課題とも考えられます。
医学のみならず科学においては「再現性」は非常に重要です。この記事にあるように、ある株でも腫瘍化したりしなかったり、遺伝子変異があったりなかったりでは安全性が担保できません。全ての株でこの様な「揺らぎ」があった訳ではありませんが、一部でもこの様な事があったとなると、それらの株を的確に排除する術がなくては臨床応用は厳しいものとなるでしょう。
最近のトレンドは徐々に他の多能性幹細胞に移って来ています。以前からあるES細胞は、不妊治療の広まりにより供給も増えています。またiPSまで行かずとも、神経幹細胞の様に、神経になるまでは決まっていてもそこから決まってない、などの様な、分化度がiPS細胞などよりは高いものによる幹細胞治療も進んできています。こちらは質の安定化も容易で、臨床試験が着実に進んでいるものもあります。
iPSの技術は代替できるものではありませんが、今の医学には「それよりも安定して早く利用できる再生医療を」というトレンドがあるのも、否定し難い事実です。リスクのない治療、万能な治療というのは存在しません。
どんな治療も、有益性と有害性の天秤の中で行われます。
まして、このiPS細胞に関しては、まだ日常診療に応用されておらず、基礎研究や臨床試験のステージにある新規の治療法です。リスクとベネフィットのあらゆる可能性、知見を蓄積していく必要があり、このようなリスク報告が出てくるのは当然で健全なことです。
広く臨床応用される前に、新たに(といっても完全に予想の範囲外という事象ではないと思いますが)リスクに関わる現象が明らかとなり、対策を講じられることは、「良いこと」であり「悪いニュース」ではないと思います。書きました。
ぜひ、下記の2本の解説記事も併せて読んで頂ければ幸いです。
一つ目は、分化細胞で見つかった遺伝子異常の内容や、容器(チューブ)ごと、配布機関ごとに試験結果が異なることに関する専門家の見方について。
https://mainichi.jp/articles/20200108/ddm/012/040/070000c
二つ目は、ストック事業にこれまで費やした額や概要、再生医療に対する政府の支援策について。
https://mainichi.jp/articles/20200107/k00/00m/040/436000c
今回の記事のポイントは、
・分化細胞での重要ながん化関連遺伝子の異常
・同じ種類の細胞に同じ手法で分化させたにもかかわらず、容器ごと、配布先ごとに試験結果が異なったこと
の2点です。
一口に遺伝子異常といっても、その深刻さは、変異が入ったのはどの遺伝子かや、変異の入る位置やパターンによって異なります。取材では、遺伝子変異の詳しい内容のデータを入手し、専門家に見解を聞きました。
また後者については、記事でも書いたように、安全性の担保に懸念が生じます。ある容器に入ったiPS細胞を使った試験で安全性が確認できても、同じ提供者から同時に作製された同じ名前の「株」で、常に同じ結果が出るとは言えないからです。
京都大学iPS細胞研究所の臨床用ストックのiPS細胞は、細心の注意を払って作製され、全ゲノム解析をはじめとする厳しい検査をくぐり抜けて出荷された細胞です。
幹細胞は培養を重ねるほど異常が起こりやすくなるのはよく知られていますが、今回の細胞は長年、継代培養を重ねてきたわけではありません。
もちろん、異常の原因は、元のiPS細胞の性質ではなく、分化誘導の手法や環境にある可能性もありますが、もしも、ちょっとした条件の違いで異常が出やすくなるとすれば、それも心配です。
最も「高品質」なはずのストックのiPS細胞でなぜ、こういう現象が起こるのか。
安全な再生医療の実現のために、公的支援の継続を求めるならばなおさら、こうしたデータを開示した上での検証と議論が必要なのではないでしょうか。
(最初のコメントに加筆しました)