幡野広志「がん患者より貴重な若者に、僕が伝えたいこと」
2019/11/29
2017年、34歳で多発性骨髄腫を発病、その後ブログで「余命3年」と公表した写真家・幡野広志さん。しかし彼は、以後も意欲的に作品を撮り、本を書き、Webの人生相談で厳しくも温かい回答を返し続けています。
そのすべてが、受け手の心をゆさぶってくる。そんな幡野さんなら、社会に出る直前の悩み多き若者たちに、どんな言葉を投げかけるのだろう。
11月某日、それがどうしても聞きたくて、貴重な時間をいただいた。
大人の言葉は、素直に受け取らなくていい。
──社会に出る直前に、不安を抱く学生たちに真正面から向き合ってくれる“良き大人“の言葉を届けたい。そんな思いで立ち上げたメディアなので、ぜひ幡野さんにお話を伺いたかったんですよ。
ありがとうございます。ならば、まず僕から若い方々にお伝えしたいのは「大人の言うことはそんなに聞かなくていいよ」、ですね。
──(笑)。その理由は?
先日、就活生と話して漠然とした大手志向で驚いたんです。「大手商社を狙っています」「電通か博報堂に入りたい」と。けれど「商社で何をしたいの?」などと尋ねても答えられない。
聞けば、親やその世代がつくった「大手なら間違いない」「あの会社なら安定しているよ」みたいな風評に従っていたからです。
いまの時代に安定なんてあまりないですよね。むしろ大手こそ変化に対応できず、あがいている。しかし、今の大学生の親世代はバブルの頃の印象が強く、今のリアルなビジネスや経済状況が見えていないんです。良かれと思って、古い価値観を押し付けてしまっている。
──素直に聞くと、間違った判断につながると。
先日も15年前に中退した写真専門学校に行く機会がありました。なんと僕を教えた先生が、15年前と同じ授業をしていたんです。
これ、恐ろしいことなんですよ。この15年でフィルムからデジタルになり、現場の技術も大きく変わった。なのに当時と同様のやり方を教え込むわけだから。
問題は若い人ほどスポンジのように吸収力が高いこと。時代遅れの技術が、素直に根付く。
「違う」と気づいたときは遅い。進路や就職についても同じこと。僕はがんになったことで、なおその怖さを実感しています。
歩いてきた道の延長線上にしか、未来はない。
──どういうことですか?
自分がガン患者になり、余命3年と告げられてからたくさんの病床の人たちに会うようになりました。気づくのが、余命宣告をされると、それまでの生き方を急に変えようとする人が多いことです。
家族をかえりみずに働いてきた人は「家族との時間をつくればよかった」と悔いる。急に「死ぬまでに世界一周したい!」などと思いつく。
でも現実は厳しい。ガンになって余命宣告されるほどになったら、もう体力もメンタルも落ちていますからね。
──突然、生き方を変えようと思っても、そのパワーが出ない。
そう。死に際にやりたいことが見つかっても遅い。未来って結局、それまで歩いてきた道の延長線上にしかないんだと思います。
僕もたまに「写真や文章がとても響きました! 病気になったことで表現が変わったからでしょうか」と聞かれることがある。残念ながらありえません。病気なったくらいで写真や文章がうまくなるなら、もうちょっと早く病気になっていたよ! とすら思う。
病気になったら写真はむしろ下手になるんですよ。文章だってうまくなることはない。体力もメンタルも前より落ちますから。これまで積み上げてきた時間によって磨かれてきただけ、ということ。
──では、就職を考える学生は、どうしたら「やりたいこと」が見つかるんでしょうか。
スマホがあれば、うまく見つかると思いますけどね。
苦労は買うな、万引きしよう。
──スマホ、ですか?
僕はどこで働くかより「誰と働くか」が幸せを左右すると思っています。仕事がら、いろんな会社とつきあっていますが、社長がいい人であるほど、やっぱり社員の方々が働きやすそうだからです。
環境が人をつくる。他人に厳しく、理不尽ばかり言う社長の下にいたら、当然似てきます。貴重な人生の時間を、いやな人と過ごすことはない。同じ時間を学ぶべき、良き大人を探す時間にあてたほうがいい。スマホでね。
──SNSを使って出会うとか?
それでもいいですが「誰がどんな意見か」は、Webのインタビューを読めば分かります。それこそNewsPicksでも、BLOGOSでもいい。スマホでそうした企業のトップの記事を読み焦るんです。「この人の意見は共感できる」と思ったら会社を調べて、アプローチすればいい。
大学生は意外とこれをしない。以前、大学での講演の前に、後ろからちょこっと、学生たちがスマホで何を見ているのか覗いてみたんです。そしたらSNSやゲームばかり。もったいない。
──古い価値観を押し付ける大人は避けながら、「共感できる大人」はこちらから探せばいいと。
そうした人のインタビューには、彼らが苦労してようやく得た知見がたくさん含まれている。「温故知新」で若い人たちがうまく刈り取って、いいとこ取りすればいい。余計な苦労を省くために、おじさんたちが歩んできた苦労を“万引き”すればいいんです。
──おもしろい。「苦労は買ってでもしろ」ではなくて。
「苦労は買ってでもしろ」なんて、売る側の言葉です。真に受けではダメ(笑)。
そもそも今、若い人はいま日本でとても貴重な存在です。今年生まれた子供の数って、90万人程度なんですね。一方、僕のようなガン患者は、年間100万人生まれている。
──ガンに罹患される方より、若者のほうが貴重なわけですね。
金の卵どころじゃない。大人が押し付ける価値観から逃げて、さっさと好きなことを始めたほうがいい。あなたという貴重な存在をムダにしないほうがいいですよ。
──ただ「好きなこと」が見つからないという学生も多いですよね。
それもスマホです。カメラロールをみればいいんですよ。
──どういうことでしょう?
次回「根拠のない希望にだまされ、絶望する前に」は11/30更新予定
(編集:中島洋一 構成:箱田高樹 撮影:幡野広志・幡野由香里 デザイン:岩城ユリエ)
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