仕事も家庭もハイパフォーマンスの秘訣は。「新時代の親」の姿

2019/11/29
「家庭はパートナーに任せ、自分は仕事だけに打ち込めばいい」――そんな考えはもう時代遅れだ。求められるのは、ビジネスで高いパフォーマンスを出しながら、家庭でもパフォーマンスを発揮する「新時代の親」

仕事で成果を出し続けながら、3人の子どもを育てるZOZO執行役員の田端信太郎氏は、「自分たちがやりたいことをやるための物理的な拠点が家で、精神的に支えるのが家族だ」と語る。これからの時代の親論、そして家族のあり方について聞いた。
朝食は毎日家族と食べ、土日は仕事を入れない
──田端さんはビジネスパーソンとして知られるだけでなく、「家庭」に関するスタンスでも話題を呼んでいます。今回は「夫・父親」としての田端さんにフォーカスしたいんですが、まず普段の1日のスケジュールから聞かせてください。
僕、太陽が上がると目が覚めるんです。だから日の出が早い季節は朝4時起き。無理をしているのではなく、特に子どもが生まれてからは習慣になりましたね。
子どもが起きてくると、どうしてもいろいろと構う必要があるので、それまでの2時間ほどをニュースチェックや集中して仕事する時間に充てています。
朝起きてしばらくは一番頭が冴えているので、その時間を有効に使わないともったいないんですよ。
──目が覚めてからすぐ仕事が始まる。
家に仕事を持ち込まないのは一つのスタイルだと思うけれど、僕は「公私一体」で融合しているんです。
早朝に2時間くらい仕事をして、7時になったら小学4年、小学1年、年中組の3人の子どもと妻と一緒に朝食を食べ、8時ころには下の子を幼稚園に連れて行って、僕も出勤
夜オフィスを出るのは18時や19時ころですが、週に3〜4日は会食やセミナーなどがあるので、ウィークデーに家で晩ご飯を食べることは少ないです。
妻に予定があるときは早く帰宅しますが、僕は料理を一切しないので、夕飯はUber eatsで出前を取ることがほとんど。
土日は基本的に仕事を入れませんが、それでも地方講演などの依頼がある場合は、家族で一緒に行くようにしています。
海外で講演したときも、休みを使って家族旅行を兼ねて行ったり。子どもの頃からいろいろな大人たちを見せた方がいいと思っているので、いい機会ですね。
30歳を過ぎて仕事だけをしているのは現実逃避
──土日に仕事を入れないのは、家族のためですか?
というより、仕事とはそれくらいの距離感を保つ方がいいと思うんですよ。
以前、岡田斗司夫さんとの会話で「30歳になったら、仕事に全力投入をしている方が現実逃避だ」という忘れられない一言があって。
たしかに、30歳を過ぎて「自分の仕事だけ」に自分のリソースをすべてつぎ込むのって、ハッキリ言って現実逃避的だなと思うんです。
20代は経験を積むために全力投球でガムシャラに仕事をした方がいい。
でも、30歳を超えてくると、仕事ってある意味で「楽なこと」に変わっていくんですよね。簡単ではないけど、楽なんです。
なぜかというと、ビジネスの世界って、そこまで理不尽なことは起きない。大人同士が業界のルールや常識を共有して、共通認識の元でコミュニケーションをとる。
そうやってビジネスライクに物事を進めていけるじゃないですか。何よりも自分自身がそのルールに慣れ親しんでいる。
でも、仕事以外の世界は、また別のルールで動いていますからね。例えば、生まれたての赤ん坊にいくら理屈を説いても、夜泣きはやみません(笑)。
それに向き合うのはかなり大変なことです。
──仕事以外の世界には、それぞれ別のルールがある。そこにコミットするかどうか。
ビジネスは部下や上司、顧客など、すべて人間と人間の関係で成り立ちますが、子どもは“おぎゃあ”と生まれて言葉を話せるようになって、人間らしい意思を持つまで何年もかかります。
一方で、そうやって子どもが育つ過程で、だんだん興味のあることや得意なこと、自分と似ている部分が見えてくるなど、たくさんの発見があります。
それは仕事だけをしていたら体験できないこと。
最近、長男が友達と一緒にSwitchで遊んでいるのをよく見るんですが、たしかに僕も小学生の頃は、友達とワーワー言いながらファミコンで遊んでいたなあ、と追体験ができるのも純粋に面白いんですよね。
家族それぞれが、やりたいことができる環境を作る
──ご自身の「家庭」における役割をどう考えていますか?
僕は、家族って面白いなと思うんです。家族というのは会社のような機能体ではなく、共同体です。利益や売り上げ、時価総額といった目標があって集まっている組織ではない。
自分という存在のベースになる一番小さいコミュニティなんです。
そのコミュニティにおいて、何がどうなったら成功かはわかりません。ただ、そこでの僕の役割は、“家族それぞれがやりたいことができる環境を整えること”だと思ってますね。
──お子さんへの教育方針などはありますか?
ないですね。基本的に好きに生きてほしいんです。僕が子どもの頃にそうだったけど、親がよかれと思って押し付けるのが嫌。
百歩譲って、何かに興味を持つきっかけは用意したとしても、あれをやれ、これをやれと指示はしません。本人がやりたいことを応援したい。
だから、仮に成績が悪いならそれは子どもの問題。
塾に行きたいけれど行けない、夜働いていて宿題ができないような経済状況だったら僕の責任ですが、環境が整っているのに勉強しないのであれば、それは子どもの責任です。
勉強は親のためではなく、自分のためにやるものですから、自分の幸せのためにやらない選択を取るならそれでいいと思っています。
よく長男が「宿題をやるとSwitchをする時間がない」と言うので「Switchで遊びたいなら遊んだらいい。e-Sportsの選手やユーチューバーを目指してもいい。でも、それは東京大学に進学するよりも難しいと思うよ」と話しています(笑)。
物理的拠点が家で、精神面が家族
──それぞれがやりたいことをできる状態が、家族にとって理想的な状態。
僕が一番ダサいなと思うのは「家族がいるから自分のやりたいことができない」と言い訳することなんですよ。
逆に自分がやりたいことだけをやって、家族を顧みないのもどうかと思いますけど。
各自がやりたいことをするための物理的な拠点が「家」であり、精神的に支えるのが「家族」だと思います。
それなのに、家族のために自分の時間を全部犠牲にしていたのでは意味がない。それは僕だけでなく、家族全員に言えることです。
たとえば、僕が働かないのんだくれで、揚げ句の果てには家族に暴力を振るっていたら、家族はやりたいことができませんよね。
極端な話、子どもの貯金箱を持ってギャンブルに行くような親だったら、むしろ親子の縁を切った方がいい。
家庭における「親のパフォーマンス」を定義するなら、自分がいることで、家族全員がそれぞれにやりたいことができる状態をいかに作れるかではないかと。
「早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたければみんなで行け」という言葉がありますが、後者がまさに家族だと思うんですね。
みんなで遠くまで行くために、僕は父親として恥ずかしくない環境を用意して、大きな地図を描きたい。
昔のいわゆる家長のように「父親が絶対」ではないし、「ああしろ、こうしろ」などを言う気は一ミリもない。
自分がいい父親だと自慢する気もないですが、家族それぞれがやりたいことをできる環境を作り続けたいと思って、僕なりに頑張っているつもりです。
家族の理不尽な時間や不便さをなくす
──奥さんも仕事をされていますが、田端さんは家事をしていますか?
日常的には、だいたい8:2の割合で妻が家事をしています。僕の担当はゴミ出しと子どもの送り、それと風呂掃除ですかね。決して妻に押し付けているわけじゃないですよ(笑)。
家事が大変で時間がかかるというなら、僕は時間を捻出するために使えるテクノロジーやサービスはどんどん使った方がいいと思います。
それで家族が「やりたいこと」に時間を使えるなら、環境に投資すべきですよね。
たとえば、掃除が大変なら掃除ロボットを使えばいいし、ペットの見守りならWebカメラがある。そのうち完全なスマートホームになったら、人間が手を動かす家事はほとんどなくなるかもしれない。
──スマートホーム関連では、さまざまなIoTデバイスが登場しています。玄関の鍵をリモートで開閉できる「スマートロック」をご自宅に導入したら、どんなメリットがあると思いますか?
たまにマンションの共用部の点検などで「ご在宅をお願いします」という日がありますけど、スマートキーで玄関のロックを遠隔操作できたら便利ですよね。
わずか数分の作業のために、家族の誰かが時間を捻出して家で待機しないといけないって無駄じゃないですか。
いまでは随分一般的になった「宅配ロッカー」が存在しなかった頃は、荷物を受け取るために必ず家にいる必要があった。
同じようにスマートキーが当たり前の世界になったら「あの時間はなんだったんだろう」と思うでしょうね。
それから、遠隔で家族の出入り状況がわかるのはいいですね。
例えば子どもが学校から帰ってから塾に行くタイミングで、「今日はあの提出物を持って行きなよ」とリマインドを送れたら、忘れ物を防げるじゃないですか。
──ほかにも、家事代行やペットシッターなど、今まで合鍵を渡していたサービスも遠隔で鍵の開け閉めができれば、安心して利用しやすくなります。
物理的な「鍵」の制限がなくなることで、さまざまなメリットがある。
なんなら離れて暮らす親の家もスマートキーにしたいですね。急病で倒れて救急車を呼んだとき、救急隊の人に部屋に入ってもらうためにも鍵が要りますからね。
これまで「家」って100%プライベートな空間でしたけど、それが徐々に変化してくる気がするんですよ。
一昔前の田舎の家って、玄関に鍵がかかっていなくて、近所の人が勝手に上がってくるのも普通みたいな空気だったわけですよね。
同じことは都会ではできない。でも、最近あらゆる場所で見かけるシェアカーの利用データによると「1メートルも動かさずに利用している人」が結構いるんです。
仮説ですが、密室で仕事に集中したい人や、出先で電話会議をしたいときに使っている人が一定数いるんじゃないかと。
こういう「パブリックとプライベートの中間」的な空間のニーズは、シェアリングの普及に従って増えていっていると思います。
スマートキーが当たり前になると、都会においてもそういうコミュニティが実現できる。誰がいつ出入りしたかわかるから、複数人が集まるようなサードプレイス的な場所や同じ趣味を持つ人が集まる秘密基地みたいな場所にも使える。
パブリックとプライベートがグラデーションを描くようになったら、「家族」を取り巻く環境も大きく変化すると思います。
(取材:呉琢磨、文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:堤香奈)