【ドラフト戦略】佐々木、奥川に指名集中で盲点、里崎智也の視点

2019/10/17
ドラフト戦略。チームにとってもっとも重要な「編成力」が問われる場である。今季は2人の高卒投手が注目されるが、それは編成上、本当に正しいのだろうか。里崎智也氏に聞く。

ドラフトは編成戦略の99%である

いよいよドラフト会議です。
短中長期的にチームをどう作っていくか、という各チームの方針に対し、平等に戦力を獲得するチャンスがあるのがドラフトです。
その点でチームの補強戦略の99パーセントを占めると言っても過言ではないと思います(FAは資金力がものを言いますし、外国人選手の獲得はあくまで選手を並べてみて「足りないところ」を埋める役割であるべきです)。
ただ、その補強戦略が各チームしっかりと意識されているか、というと毎年、疑問に思うことも確かです。
今回は、その点に着目しつつ、私なりのポイントを紹介したいと思います。
今ドラフトの注目選手は、高卒の2人の投手、佐々木朗希選手と奥川恭伸選手を中心に、明治大学の森下暢仁投手がドラフト1位の対抗馬というのがもっぱらの見方です。
確かにいずれも非常に高いポテンシャルを持った投手であることに疑いの余地はありませんし、実際、彼らは1位で獲得球団が決まるでしょう。
しかし、もし高卒の2人に指名が集中するとすれば、チームの補強戦略として疑問符をつけざるを得ない状況だと思います。短期、中期、長期、いずれで考えても優先順位がそこにない球団があるはずだからです。
投手は毎年レベルの高い選手が現れるものです。
笑い話のようですが、「10年に1人の逸材」と評される投手が毎年のように現れるのはその証です。例えば本当に高卒10年に1人の投手が今年いるとしたら、大谷翔平以上ということになりますし、もし20年に1人となれば、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大を超えるということになります。
そう考えると、わざわざ高卒の2人を「是が非でも取りたい」という方針の球団がなぜ多いのか、真意を測りかねるところがあります。
そのスピードと高い潜在能力で注目が集まる佐々木朗希投手。写真:YONHAP NEWS/アフロ

2人の投手より希少な2人の逸材

実は今ドラフトには、捕手で上位指名候補(1〜2位)の評価を得ている選手が2人います。
東洋大学の佐藤都志也、東海大学の海野隆司の両選手です。佐藤選手は実際に見ることができたのですが、バランスが良く非常に期待が持てる選手でした。確かに、ドラフト1位で指名されてもおかしくない選手だと思います。少なくとも2位までで球団が決まると思っています。
今回のドラフトで佐々木、奥川両投手と同じように注目すべきところはここにあると思います。
というのも、ドラフト1位候補になり得る捕手が複数いる年は、珍しいからです。
きっとドラフトをよく見ている方なら、捕手が上位に指名されることが相対的に少ないことをご存じでしょう。
繰り返しになりますが、投手は来年も同じように注目される選手が出てくると思います。しかし、捕手に関しては違うのです。
12球団を見渡してみると、規定打席をクリアした捕手は、埼玉西武ライオンズ・森友哉、福岡ソフトバンクホークス・甲斐拓也、広島東洋カープ・會澤翼、阪神タイガース・梅野隆太郎、東京ヤクルトスワローズ・中村悠平ですが、絶対的な存在として5年以上活躍したのは甲斐、會澤、中村くらいです。
つまり、扇の要でありチームの頭脳とも言える重要なポジションを長く任せられる存在は、どの球団も喉から手が出るほど欲しいはずなのです。
その現実を見たとき、今シーズンはチャンスと言えます。
こんなデータがあります。
長きに渡ってチームを支えた捕手は、入団時ドラフト1位か2位で指名されている。
「試合出場数が多いほど長く活躍をした捕手である」と定義すると、試合出場数が多い上位10人の捕手のうち、古田敦也さん以外の全員がドラフト1位での入団です(ドラフト制以前の選手は除く)。
(注:捕手登録があった選手の試合出場数)
プロ野球史上最多試合出場記録保持者で、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)、中日ドラゴンズで活躍した谷繁元信さんを筆頭に、伊東勤さん、阿部慎之助、中村武志さん、城島健司と、いずれも最高評価を得て入団しているわけです。唯一である例外の古田さんにしてもドラフト2位です。
その他、阪神タイガースの現監督である矢野燿大さんは2位、読売ジャイアンツの捕手2人、炭谷銀仁朗、小林誠司や今後、西武ライオンズで長きにわたりチームを支えることが期待される森友哉も1位指名でした。ちなみに僕もドラフト2位です。
つまり、どのチームも喉から手が出るほど欲しい正捕手候補というのは、そもそもアマチュア時代に高い評価を得た人から出やすい、というのが歴史的な事実です。
もちろん、高い評価を得ながら活躍できなかった捕手もいます。しかし、ドラフト1、2位候補に上がる捕手は、長く活躍できる可能性が高い、というのはチーム編成戦略上、検討に値する要素だと思います。もし、僕が編成にいたら、それを検討します。
だとすれば、チーム編成戦略上、この2人に焦点を当てる球団があってもおかしくありません。そうならずに、もし高卒の2人の投手に指名が集中されたとすると……果たして、その意図がどこにあるのか、知りたいところです。

高卒1年目にかける過度の期待

もう一つ、ドラフト戦略で考えておきたいのが「即戦力」という評価です。
果たして1年目から活躍を期待できる選手はどのくらいいるのでしょう。最近は、高卒の選手に対しても「即戦力」という評価をされることがありますが、はっきり言ってそれはほぼ不可能です。
過去を振り返ってみても高卒1年目にレギュラーとして活躍した選手は、ほとんどいません。野手で言えば、立浪和義さん、松井秀喜さん、清原和博さん。松井さんにしてもシーズン途中からの活躍でした。
ピッチャーは、藤浪晋太郎、田中将大そして松坂大輔くらいです。高校で圧倒的な活躍をした桑田真澄さんですら、1年目はふるいませんでした。
複数球団から指名されたからと言って、高卒1年目の選手を「即戦力」として期待している、というのは無理があると思います。もし、そうであるとすれば、チーム編成戦略として、かなりの博打を打っていると言わざるを得ません。
それは、例えれば「東京大学卒業だから社会人1年目から、会社の屋台骨を支えてください」と言っているようなものですから。
いくら評価が高い選手でも、チーム編成上、欠けている「端っこ」のピースを埋める存在として期待するのはわかりますが、ど真ん中のピースを期待している、そういう編成をしていたとしたら、それはマネジメントとしては、かなり危ういわけです。
実際、僕自身もたくさんの複数指名された「即戦力」候補を目にし、対戦してきましたが、彼らが活躍できたかと言えば、そうではありませんでした。
そのくらい、プロの世界は厳しいのです。

アマ時代の「通信簿」はプロとは違う

そもそもドラフトの指名順位というのは、「アマチュア時代の通信簿」です。プロの評価とは別物だと分けて考えた上で戦略を取れているかが、ドラフトのうまい、下手を分けるポイントになるのだと思います。
厳しいことを言うようですが、これがプロとアマの差です。
いくらMAX163キロを投げたことがあろうと、甲子園で準優勝をしていようと、それがプロの活躍を保証するわけではありません。
高校卒業1年目の投手には、特にそれを理解した上で評価する必要があると思います。
私が投手に関してみているのは、数字の再現性です。
MAX 150キロと言われる投手がプロで150キロを必ずしも投げないことを何度も経験してきました。これは、球場によってスピードガンの差が大きいことなどが関係していると思います。
いずれにせよ、私はアマチュア時代のMAXのマイナス5キロがプロのMAX。平均はそのマイナス10キロをイメージして考え、特に後者の平均である「再現性のある球速」に着目していました。
実際、これが妥当なラインだと思います。
球速が入団前より出ない理由は、先のスピードガンに加え、プロにおけるプレー環境の変化も影響しています。
プロはキャンプを含めると10ヶ月に渡ってチーム内外で競争をしながらプレーをしなければいけません。これは肉体的にも精神的にもとてもハードです。一方、アマチュアの場合、毎日試合があるわけではないので、極端な話、大会やリーグ戦の期間だけに照準を合わせればいい。フルパワーでそこに臨めます。
ですから、僕はアマチュア時代のMAXがプロではあてにならないと考えてきました。
それよりも、再現性のある球速がどのくらいかを見極める方が、よっぽどその投手を正しく評価できると思います。
もちろん、入る球団によってその選手が育つか、育たないかというのは大きく分かれます。
それでもこの大事なチーム編成について、球団としてビジョンを持っているか。
例えば、捕手が足りないチームは何位でその捕手を指名するのか。即戦力評価にチーム編成戦略を依存していないか。
このあたりに着目してもらえると、球団の編成力などがよくわかるはずです。
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(執筆:黒田俊、デザイン:九喜洋介)