2018年と19年のノーベル文学賞、トカルチュク氏とハントケ氏に
コメント
注目のコメント
今回のノーベル文学賞2回分は、「中央ヨーロッパ(中欧)」が重視されたといえます。これは、西ヨーロッパとロシアに挟まれた中欧という地域が、今非常に微妙な政治的状況に陥りつつある、という状況を意識したものでしょう。
ノーベル文学賞は、文学が政治や社会を動かす強い力になりうる、ということを重視します(政治的イデオロギーを持つ作家が評価されるということではありません)。
今回特に問題視されているのは、ペーター・ハントケの受賞です。冷戦下の引き裂かれたドイツを詩的に描いたヴェム・ベンダース監督の映画『ベルリンの上の空』(邦題『ベルリン 天使の詩』)の脚本作家としても知られているように、単なる文芸作家ではなく、社会的現象をも引き起こした人です。
ハントケは、1942年の「ドイツ」生まれです。オーストリアやチェコスロヴァキアを併合し、フランスからソ連までも占領下に置いていたドイツです。戦後はオーストリア人になりましたが、作家としての活動は、ハプスブルク時代のオーストリア、広義のドイツを意識したものでした。特に、ユーゴスラビア内戦について、セルビア民族主義に同情を示し、ミロシェビッチ元大統領の葬儀で演説したことが批判を受けました。複雑な「中欧」を象徴するような文学をつくりだし続けています。
第二次世界大戦後、ソ連の勢力下として「東欧」になった中央ヨーロッパ地域は、冷戦後、EUに加盟し、「普通のヨーロッパ」の一員になれると思われました。しかし、現在は経済の低迷、難民の流入と自国民の国外脱出、ロシアの介入などが重なり、ポーランドやハンガリーでも排外的な政権が定着しています。ノーベル文学賞選考委員会には、そこにメッセージを送る、という意図もあるでしょう。こういうところのコメントこそ、今回の人がどういう作家か、というコメントが欲しいですね。受賞していないひとの話ではなく。
(追記)塩崎プロ、有り難うございます。