【要注目】山本由伸「全てをコントロールしたい、できる」

2019/10/13
21歳にして防御率のタイトルを獲得。オリックス・バファローズの最年少記録であるばかりか、高卒3年目21歳以下でこのタイトルを手にしたのは史上6人目である。

「尊敬する人は多くない」
「15年ローテーションを守りたい」
「目指すピッチャー像はない」

そう語った前回に続き、その哲学に肉薄する。

ピッチャーを始めたきっかけ

──山本投手は中学時代、セカンドが本職でしたよね。小・中学校のチームには、他にいい投手がいたのですか。
山本 小学生のときはキャッチャーとかをしていて、ただピッチャーをしていなかったというくらいです。
──高校1年の秋にピッチャーを始めたきっかけは?
山本  中学生のときも、ピッチャーをやっていたことはやっていました。中学生って1日2試合あるので、ピッチャーがいっぱい必要じゃないですか。だから中学校のチームでも2、3、4番手くらいで、2試合目とかに投げるというピッチャーでした。
高校に入ったときも一応ピッチャーをやっていたんですけど、野手の練習をして、試合ではピッチャーもやるという感じで。1年生の夏の大会もピッチャーで出ているんですよ。でも、ピッチャーの練習はしていませんでした。
2年生で1個上の人がチームのエースで、3年生たちが引退して、監督が他にもピッチャーを探していました。
「山本にもピッチャーの練習やらせようか」という話になって、夏の大会が終わって夏休みの練習に行ったら、監督に呼ばれて、「今日からピッチャーの練習に入って」と言われて。
ピッチャーと野手は、練習がまったく別でした。ピッチャーはめっちゃ走って、最初は嫌だなと思っていました。走るばかりだったので。
──野手のほうが楽しかったですか。
山本 バッティング練習している周りを、ずっとグルグル走っているんですよ。いいなあって見ながら、トロトロトロトロ、周りをゆっくり走っていました(笑)。

筒香嘉智から受けた薫陶

──それでも投手をやったら、試合で抑えられた?
山本 そうですね。そのときから、球はもう速かったです。そこからピッチャーの練習を本格的に始めたことで、ピッチャーの技術やスタミナ面などを徐々に学んで、試合でもいっぱい投げたので、技術もちょっとついて、何とかプロ野球に入れたという感じです。
──それで入団1年目のオフに飛躍のきっかけがあったわけですね。プロ野球選手としていいキャリアを築くには、どんなことが大事だと考えていますか。
山本 自分がすごく大事にしている考えがあって、筒香(嘉智)さんに教えてもらったものです。
例えば、「こうなりたい」という一番大きい目標があるとします。次に自分が行動するにあたり、例えば「今日練習しよう」となったら、簡単に言ったら適当にメニューをこなすのか、しっかり考えてやるのか。
自分の目標が「20勝ピッチャー」だとしたら、そうなるためにはどっちの選択が正しいか。最善の選択を考えて一つずつやっていくことで、目標に近づいていくと筒香さんに教えてもらいました。
例えば1日の中でも「起きる」とか「歩く」とか、何万回も決断しているんですよ。だから「1日100回でも最善の決断をすることで、理想の自分に近づく」と筒香さんが言っていました。それはすごく大事だなと思って、今でもめちゃめちゃ心がけています。
──1日の中で何度も決断しているのですか。
山本 そうです。ダイエットするんだったら、今日の夜ご飯をサラダにするか、焼肉にするか。それはサラダしかないじゃないですか。その連続だと思います。
──我慢をしている感覚とは違いますか。
山本 全然我慢ではないです。目標を達成するためなので。求めているほうに行っているだけです。
──自分へのご褒美はありますか。
山本 いや、別に苦がないので。我慢してないので。野球も楽しいし、別にストレスがないので。だから、ご褒美とかはないです。
ただ休みの日に買い物に行ったとして、「買い物したから頑張ろう」と、何かと野球に結びつけたりはします。ご褒美とは思ってないですね。
例えばシーズンを1年間頑張った後、地元の友だちや自分の大切な人と美味しいご飯を食べに行ったりするのは、ご褒美に近いかな。
でもシーズン中に、「最近頑張っているから、これをしよう」というのはないですね。我慢もしてないし、求めてもないというか。普通の日々です。

ドミニカで知った野球への取り組み

──2018年シーズンが終わった後、中南米のドミニカ共和国に現地の野球を見に行きましたね。どんなことを感じましたか。
山本 向こうの人は純粋というか、すごく心がきれいというか、素直というか、自然というか。日本を悪く言うわけではないですけど、野球に取り組む姿勢も違いました。
みんな、もともとスポーツって楽しくて始めたはずなのに、日本では指導者の大人が勝つことを求めすぎたり、息子さんの活躍を求めすぎたりして、本当は「楽しい」という気持ちでやるべきところを、違うものが占めているというか。例えば大人の「勝ちたい」という、純粋な子どもにとって邪魔な要素が加わりすぎていると思います。
自分もそういう環境でやっていたので、それが当たり前だと思っていました。勝ちを求めてやるのがいいものだと思っていたんですけど、ドミニカを見に行くと、スポーツの本当の良さというか、自分が野球を始めて好きになったときの気持ちをすごく思い出させてくれました。
向こうの人は逆に、その気持ちだけでやっているので、自然と「野球がうまくなりたい」という気持ちがすごくて。ドミニカの小学生とスポーツ広場みたいなところで野球をしたんですけど、勢いが違うというか、みんな、本当に野球をやりたいんだなという気持ちがすごく伝わってきて。本当に大事なものが、全部あそこにあったというか。
自分は日本の環境で育ってきて、忘れていたものがありました。自分自身も周りの環境で徐々に変わっていくものなので。それで自然と忘れていたものや、自分が気づいていなかったことも含めて、ドミニカが思い出させてくれたというか。「これやな」と、ピンときました。
【注目の世界基準】山本由伸「理想のピッチャー像はない」
──今シーズンの活躍の裏には、そういうことを感じた影響はありますか。
山本 やっぱり技術とか以上に、精神面ですね。ドミニカを見に行って考えが変わったことで、取り組む姿勢も自然と変われたというか。「こうあるべきだったな」というのも、たくさん思い出せたので。
例えば野球で練習するのも、吸収する力が全然変わったり、一つのことをやっても二つのことを得られたり。オフシーズンにしっかり、ひとつのメンタルトレーニングをやったように感じました。
ドミニカに行ったことでメンタル的なところを整えてもらったというか、自然と整えられたという感じですね。行ってこそ感じるものがあると思うので、本当に行って良かったです。
プレミア12の侍ジャパンにも選出。東京五輪で中心選手としての活躍が期待される。
──そうして迎えた今季、防御率1点台と安定した投球を続けた一方、勝ち星には恵まれませんでした。勝ち負けは投手にコントロールできない部分もある反面、世間の評価は勝ち星で語られることが多いです。「勝ち星」という指標をどう考えていますか。
山本 自分は今年勝てていなくて(20戦8勝6敗)、みんなによく「野手が打ってないから、大変だな」と言われるんですけど、別に自分はそうは思っていなくて。自分のミスで勝てていないことが何試合もありました。自分がちゃんとしていれば、今年も絶対10勝に行けたと思っています。
だから本当に、来年は勝てるようになりたい。もちろんコントロールできない試合もあるんですけど、それが野球なので。どのバッターにも自分でコントロールできない部分はあると思うし、ピッチャーにもあるし。そこは仕方ないとしても、それ以外でもっと勝てる試合もあったので。
だから別に誰かのせいとかまったく思ってないし、逆に自分のせいだと思っています。

すごい人にはすごい理由がある

──究極的に言うと、全部コントロールしたいですか。
山本 まあ、そうですね。できると思っています。
──投球内容を見ていると、できそうですね。
山本 前に千賀(滉大/ソフトバンク)さんとオールスターで話す機会があったんですけど、千賀さんもすごく先のことを考えていて。まさかそう考えている人とは思っていなくて、尊敬できるポイントが多いなと思いました。
もちろん技術もすごいのでめちゃめちゃ尊敬していますけど、考え方がすごいから、あの技術なんだなと納得できました。
──考え方が根底にあるから、技術や体をこうしようとなる?
山本 はい。すごい人は絶対、すごい理由があるんだなと思いました。
──山本投手は野球人生で挫折したことはありますか。
山本 ないですね。挫折とか、落ちたことは感じてないです。後から見れば落ちているときもあったと思うんですけど、あまりくじけたりしないタイプです(笑)。
──性格的にも強さがあると思いますか。
山本 勉強とかまったくできなくて、ちょっと頑張ろうと思ったことが人生で何度かあるんですけど、それでもできないんですよね。だから、センスないんやろうなと思ってショックは受けるんですけど、それでも、いい意味で開き直るのは上手かもしれないです。
人差し指と中指にできたマメ。この手から「世界基準」のピッチングは生み出される。
──投手として難しさを感じるのはどういう場合ですか。
山本 毎回マックスを出せるわけではないので。コンディション、技術などを全部、試合に調整して持っていくのが難しいですね。
例えば前日まではいい感じで行っていても、その日に気合が入りすぎたりして、力が入ったり。毎日状況が違うので、それが難しいですね。
──本番のグラウンドで力を発揮するために、いろいろやっていかないといけないわけですか。
山本 そうです。その日だけが勝負ではないので。1週間の行いが、丸々出ると思うので。だから、大変と言ったらおかしいですけど……。
──プロ野球の先発投手は大変な仕事ですよね。
山本 大変じゃないけど、大変……みたいな(笑)。考えれば考えるほど、難しいなって思います。
──考えてやるものですか。
試合中は、こう動いて、こう動いてと考えてやるものではないと思いますけど、私生活の面は考えていかないといけない。思ったままに動いていたら、やっぱりダメだと思うので。
──今年春、侍ジャパン(日本代表)に選ばれました。今後も選ばれることがあると思います(※インタビュー後、プレミア12に選出)。世界で戦っていくことへの興味はありますか。
山本 すごく向上心があると思うので、より上の舞台でというか、より高いレベルで野球をしたいなという気持ちはあります。
──東京オリンピックは興味ありますか。
山本 もちろん。
──その理由は?
山本 やっぱり注目度がまったく違いますよね。野球に興味がない人も見ますし。若いとか、おじいちゃんとか、おばあちゃんとか年齢層も関係なく、小さい子から見るじゃないですか。
注目度が違うということは、野球の魅力を知ってもらうチャンスなので。そこで「野球ってすごいな」「野球選手、すごいな」って思っていただけるチャンスなので、ぜひその場で自分が活躍したいです。
(執筆:中島大輔、写真:浅尾祐心、1Getty:Masterpress - Samurai Japan)