鎮痛剤「オピオイド」で5万人死亡 約600億円の賠償命令
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オピオイドの処方は、日米の医療の差が最も大きい点の1つです。
日本ではオピオイドはモルヒネのイメージが強く、患者側も処方されることに抵抗があり、ほとんどががんの患者さんに処方されます。一方で米国ではオピオイドで痛みを取るのが当然と考えられており、日本ではロキソニンや湿布が処方されるような痛みにもオピオイドが処方されます。医師側も疼痛が管理できていなければ質の低い医療を提供したということで低評価を受けるため、処方せざるを得ない事情もあります。
最近は米国でも処方を減らす傾向になっています。米国の内科の学会にいくと、オピオイド危機の話題でいつも持ち切りで、いかにして自分の患者のオピオイドを減らすかを話し合うワークショップもありました。
オピオイド危機の責任は、過剰な宣伝を行った製薬会社、処方した医師、オピオイド処方を要求する患者のいずれにもあると思います。日本は二の舞にならないように注意しなければと思います。2014年にWHOの麻薬適正使用量と各国の医療用麻薬使用量の比較が報告されていますが、米国は2.3倍も使用しており、本邦では0.15倍と非常に少ない使用にとどまっています。
日本では医療者側にも患者側にも十分な理解がえられておらず、不要に痛みを我慢させられている可能性はあって、データは持ち合わせていませんが、多くの方が適切なオピオイド導入でQOLが明らかに向上するということはしばしば経験します。
ただし、国内においては非癌性疼痛に適応のある強オピオイドは塩酸モルヒネとフェンタニル貼付剤のみです。短時間作用のモルヒネを慢性疼痛に使用する道理はなく(硫酸モルヒネは効果が持続するので使えますが癌性疼痛のみの適応)、またモルヒネは消化器系の嘔気など副作用も多いので、結果的にフェンタニルしかほとんど使われません。
貼付剤の処方にあたっては講習を受ける必要があり、患者側にも様々な規制があります。
一方アメリカでは鎮痛薬として適応が拡大した際に一気に処方量が増加しました。特に内服可能で長時間に作用するオキシコドンの処方が増えました。メーカーも販売チャンス、処方する医療者も同様で、さらに患者側の転売など、、、日本では抗不安薬が気軽に処方されることから同様なことが生じていますが、精神依存を形成し、過量服薬(オーバードーズ)という問題を生じています。
オーバードーズによる死亡例のほとんどがオピオイド(麻薬)だということがわかり社会的問題となっています。
2017年10月に保健福祉省(HHS)がこのオピオイド問題について「Nationwide Public Health Emergency」と位置付けることを宣言しました。
日本でも生じうる問題ではあるものの、日本のオピオイドの「現状」とは大きく違うと言えるのかと思います。米国における薬物中毒による死亡者数は、ここ15年で4倍に増加したと報告されており、その過半数の原因を担うのがオピオイドです。
少し不思議だったのは、オクラホマ州でオピオイドのJ&Jのシェアは1%程度のようですが、結果としてJ&Jだけが訴訟という形になっているところです。これは、元々オクラホマ州は3社を相手に訴訟を起こし、他2社は早々に和解金による訴訟の取り下げを図った結果のようです。
また、J&Jはベビーパウダーなど他の薬剤でも訴訟が進行しており、「戦う準備ができていた」という事情もあったかもしれません。
オピオイドのパンデミックは、政策としてコントロールできなかったという政府側の問題、医師による不適切使用の問題、一般市民の売買の問題など、問題の根っこをあげればキリがなく、ただ製薬会社が不適切な広告を取り下げればいいというものではありません。
オクラホマを筆頭に、20近くの企業が現在進行形で州や市といった地方自治体に訴訟を起こされていますので、このような報道は引き続き出てくるものと思いますが、企業が悪かったと安直に結論づけることはできない事例です。
一方で、レギュレーションが急速に強まっていることにより、例えば強い痛みに苦しむがん患者さんに十分なオピオイドの供給ができないなど、必要な人に届かない反動が起こってしまっていることからも目を背けることはできません。一方的な批判的姿勢がそのような歪みを生み始めていることもまた、同時に知っておいていただきたいことです。