“夢の物質” 炭素素材の製造技術の開発に成功 名古屋大学
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ナノリボンについて本文では雑な説明がなされていますが、従来知られるシート状のグラフェンの幅が数ナノメートルと制御された物質となります。
これは、従来2次元のグラフェンシートを擬1次元の帯(リボン)として扱うことを目的としています。その構造(幅やアスペクト比)を制御することでグラフェンのバンドギャップ制御、つまり、その電気伝導や発光色(吸収される光の波長)を調整できるようになります。
そのため、従来であればLED研究などに見られるような物質探索によるバンドギャップ制御を、グラフェンナノリボンの構造・スケール調整による簡単かつ連続的なバンドギャップ制御に転換できるという革新性を有しています。ボトムアップ法の一つであるこの有機合成に期待される技術が、今回最も良い形で現れたのではないかと思います。
また、個人的興味となりますが、先日グラフェンシートと同じ構造を持ち、その炭素が同族の鉛Pbに置き換えられた「プランベン」が報告されてました。別の物質でも同様な構造を形成できることに驚きです。
https://newspicks.com/news/3894171
この他にも、炭素をシリコンSiに置き換えた「シリセン」、ゲルマニウムGeでできた「ゲルマネン」、スズでできた「スタネン」も過去報告されており、それぞれで優位な物性値が異なります。これらの合成にも本手法が適用できれば、この研究成果の意義がどんどん広がっていくことかと思います。伊丹研のホームページめちゃ分かりやすいです。
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/publication/livingapex
元論文こちら。
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1331-z
ついにリビング重合で作れるようになったんですね。面白すぎる。
グラフェンがどう有用かは多分どなたかのコメントに書いてあるとして、今回のリビング重合の面白さを書いてみます。
一般にグラフェンは好きな大きさなコントロールして作ることはできません。グチャっと大量に作るしかない。有名な作り方に、黒鉛からセロハンテープでペリッと剥がす、というものがありますが、これじゃあいろんな大きさのものが取れてきてしまう。
ナノメートルよりも、小さい領域では、大きさと性能が深く結びついているので、特性を調べる研究の上でも、実用上の特性を向上させるためにも、狙った大きさのものをたくさん作れることにはとても価値があると考えられていました。
そして、従来から、伊丹研はグラフェンの精密合成で目覚ましい成果を上げているグループで、そもそも、炭素の六角形の環を辺を2,3個合わせて繋いでいく(日本語で表現しきれない)ことでも、すごい成果だ、として注目されていました。
たまに、有機化学はレゴブロックを繋ぐように炭素を繋いでいく、という喩えが使われますが、この喩えだと、繋ぐのがいかに大変かが表現できていないからもどかしい。
で、今回の成果は、そもそも2,3個を精密に結合させるのも大変だったというのに、一挙に何十個も繋いでしまおうというもの。しかも、大きさを揃えたまま。
大きさを揃えて炭素を何十個も何万個も繋げる、というのは、グラフェンのような構造でなければ、それなりに一般的な手法ですが、それがグラフェンにも適用できるなんて。
うーん、無理だ、いい喩えが思い浮かばないからこれ以上の説明はできない。伊丹先生!!!以前に東進ハイスクールのメディアで取材させて頂きましたが、とても気さくで、朗らかな方でした。
伊丹さんは、高校時代は化学が大嫌い。大学に入ったら落ちこぼれ。でもそんな過去は関係なく、合成化学は誰でも産業に革命を起こすような分子を発見できる可能性がある夢のある分野だと語っていたのが印象的でした。
↓
【僕は「分子は世界を変える」と信じていて、「世界を変える分子をつくる」という夢を持っています。人類の課題を解決したり、生活が豊かになるような分子や、新しいサイエンスを拓くような分子をつくるのがゴールです。
そしてもうひとつ、僕がいつも考えているのは、人類の栄光のため、化学者の栄光のため、ということ。何の役に立つかはわからないけれど、世界中の化学者が夢見ているまったく新しい分子をつくり出して、人類と化学に貢献したいと思っています。】
合成化学について、高校生でもわかるように記事にしています。よかったらご一読ください!
「“究極のものづくり”で世界を変える!分子が持つ無限大の可能性」
http://toshin-sekai.com/interview/10/