課題は、定量データとお客様の声の“同時検証”からひも解く

2019/4/17
2013年に販売を開始し、右肩上がりの成長を続けているミールキットの「Kit Oisix」。これは単に「あったら売れそう」といった漠然としたアイデアから生まれた商品ではない。定量・定性の両データを同時に検証を重ねることで明らかになった課題に対して誕生した事業だ。

では具体的に、オイシックス・ラ・大地ではどのように新規事業の芽を探して事業化につなげているのだろうか。Kit Oisixを立ち上げたサービス進化室・室長の菅美沙季氏に話を聞いた。

事業課題を解くために、定量・定性データを取る

オイシックス・ラ・大地は定量データと定性的なお客様の声の両方を同時に見ることを、とても大切にする会社です。
その両方を掛け合わせて、お客様のニーズや兆しを見つけていく。そうして生まれたのが20分で簡単においしい料理を2品作れるミールキットの「Kit Oisix」でした。
Kit Oisix誕生のきっかけとなったのが、定期購入をやめたり、購入頻度が下がったりしたお客様のデータやヒアリングからでした。
理由を探るために直接お話を聞きに行くと、「時間がなくて料理ができない」「料理スキルがなくて野菜を使いこなせない」という理由から、サブスクリプション式の買い物システムを続けづらいお客様が一定数いることがわかったのです。
さらに、アンケート調査を行った結果、もっとも時短したい家事は料理で、時短調理をすると野菜が不足するなどの不満があること。
夕食では5種類以上の野菜を摂取したいけれど実際に準備するのは大変であること。さらに「忙しくて時間がないけれど、冷凍食品やお総菜、外食に頼ることに後ろめたさを感じる」ことなどがわかりました。
時短調理ができて、野菜がたっぷりとれて、後ろめたさのない食事を作るにはどうしたらいいのか。
過去に、3日分の献立ができる「うれシピセット」という商品を休止した際、一部のお客様から熱狂的に支持されていたことがわかったこともあり、「20分で2品作れる献立キット」を作ったらどうだろうと考えました。

前のめりの熱量を知るために、お客様に直接会う

この商品によって事業課題を解決できるかを探るべく、まずはメニューや作る工程を考えて試作品をつくり、オイシックスでの購入頻度が減っているお客様や解約されたお客様、オイシックスを知らないお客様に直接会ってヒアリングを繰り返しました。
「無いよりあったほうがいい」を5〜6点、「すごくいい、絶対買う」を9〜10点として、実際に9点10点と感じてくれるお客様は1人でもいらっしゃるのか、いる場合はどんな人なのかを確認。
すると、「すごくいいですね! 買いたいです」と高い熱量で言ってくださるお客様が一定数いらっしゃったんです。
この“前のめり”な熱量を細かく拾いながら、どんな訴求や説明をすれば理解してもらえるのかを知るため、Webだけでなく店舗でのテスト販売も始めました。
お客様の声を集めていくと、そもそもミールキットが世の中にほとんど存在していなかったこともあり、張り付いて丁寧に説明しないと商品の特徴が伝わらないことがわかったんですね。
そこで、パッケージを中身の見える袋に変え、メニューカードを一新。それをオンラインでお試しセットを購入された新規のお客様と、既存のお客様にお試しいただきながら反応を見ていきました。
売り上げの数字はもちろんですが、どんなお客様がどんな理由で買っているのか、逆に買わない理由は何なのか。また、商品に対する熱量(ファン度)なども徹底的に調査し、新規事業の芽を育てていったのです。

徹底したヒアリングで唯一無二の事業へ

お客様からの声を拾うための方法としては、自宅へ伺うか来社いただいての対面や電話、アンケート配信、商品レビュー、SNSなどがあります。全てのメニューでアンケートを取り、おいしさや作りやすさ、家族の反応などを点数化してもらっています。
ヒアリングを重ねることで事業に反映していったのは、たとえば「Kit Oisixはいいんだけど、子ども受けが悪い」との声から始めた、子どもたちが審査員になる「コドモニター」です。
これは、子どもたちに集まってもらって料理を出し、おいしかったら「○」の札をあげてもらうというもの。
これを実施したことで学べたことはたくさんありました。
たとえば普段家で頻繁に登場しないであろう「焼き豆腐」を出すと、見た目に驚いて箸をつけてもらえなかったり、野菜のかみきれないサイズを発見したりなど、食材の切り方や煮方などの参考にしていきました。
ほかにも、「できれば毎日使いたいけど賞味期限が短い」という声に対して、到着日+2日、+3日と賞味期限の長いものや、冷凍のフローズンメニューを開発。
「季節の行事を家でも子どもにやってあげたいけど、忙しくてできない」という声からは、ひなまつりや七夕、クリスマスなどイベントに対応したメニューも開発しました。
ひなまつりのちらしずし

独自フォーマットでズレない軸をつくる

こうお話ししていくと、手当たり次第にヒアリングをしているように思われるかもしれませんが、そうではありません。ヒアリングに至るまではいくつかの工程があります。
まずは解決すべき事業課題がずれないよう、独自に作ったフォーマットで「知りたいことは何か」「どの数字を見るべきか」「成功の定義は何か」などを最初にまとめます。その上で、データを収集して“強い”仮説を作る。
たとえば、「オリジナル商品の売り上げが悪い」ことが課題なら、特に何が問題なのかを事前にデータで検証します。
「なぜ買われないのか」という側面だけでなく、「他のどんな商品が買われているのか」と違う側面からも調べ、相互関係はないかなど強い仮説につながるポイントを見つけていきます。
そうして強い仮説を作ったら、ヒアリング対象を決めるのですが、これも不特定多数ではありません。きちんと整理したフォーマットを使って、誰に・何を・なぜ聞くのかを明確にします。
この作業はとても重要で、何を解決するためにヒアリングをするのかを明確にしないと、質問も浅く、次につながらないヒアリングに陥りがちなんですね。
ヒアリング対象にしても、たとえば商品を購入してくれた人だけに聞いていたのでは、課題は解決できません。だから、「ページは訪れたけど買わなかった人」に特定してヒアリングすることもあります。
そうして集めた声を並べて、共通して言えることはないか、グルーピングできないかなど俯瞰(ふかん)して見る。そして見えてきた次の仮説を検証していくのです。

社会課題・事業課題を解決するために

Kit Oisixは私を含めて3人で始まったプロジェクトでしたが、現在は自社工場を持つまでに成長しました。
一度でも使ってもらったらファンになってくれるケースがとても多く、今ではKit Oisixを体験することで定期会員になってくれるお客様がとても増えているんですね。
目の前にある課題から小さな芽を見つけ、お客様を魅了する商品に育てていった今回の事例は、「社会課題をビジネスの力で解決する」オイシックス・ラ・大地らしい事業のつくり方です。
サービス進化室は社長直下なので、常に代表の高島と会話をしながら素早い意思決定を繰り返しています。
食は日常そのものなので、解きたい課題はまだまだたくさんあります。Oisix流・新規事業のつくり方に興味を持った方は、ぜひ私たちと課題解決に取り組みませんか。
(文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:田中貴美恵)