投信のネット直販参入相次ぐ 若い世代の「長期投資」後押しに期待
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ニッキン投信(2019年1月14日号)に寄稿したコラム内でも述べましたが、資産運用会社による個人向け直販は施策として悪手だと考えています。
個人向け販売ノウハウやリソースが無いというのもネックですが、それ以上に問題なのが「ベストプロダクトポリシー(最良商品方針)」の未充足です。
顧客に商品を提案する際、流通市場で購買可能な幅広い商品プールの中から顧客に最適なものを提案するというのが最良商品方針の考え方ですが、投信会社による商品提案・販売は自社運用の限られた商品プールに基づく提案にならざるを得ず、顧客利益に合致する同方針の前提を担保することができません。
投資信託商品がコモディティ化し、商品そのものでの差別化が困難ななか、商品プールが豊富なオンライン証券等ではなく、顧客にとって上述のような不利益が明らかなチャネルが選好されると期待するのは楽観的過ぎるように感じます。
https://www.jamplatform.com/pdf/20190114.pdf
*日本金融通信社「ニッキン投信情報」(2019年1月14日号)より。同社の許諾を得て使用。
(以下、拙コラムより部分引用)
こうした困難に直面する中堅資産運用会社のなかには、運用残高増のための新たな販売チャネル施策の一つとして、また、収益源を投資運用以外にも分散させるために、個人向けインターネット直販に乗り出すところも出てきている。ただ、結論からいうと、これは経営・事業戦略として疑問符が付く。
非対面での個人顧客の集客から商品提案、購買への誘導など、電子商取引的な知見・ノウハウが求められる分野で、戦略的に事業運営を主導できる人員が資産運用会社に十分にいるとは考えにくい。仮に専門人材をチームとして組織し、インターネット直販に腰を入れて取り組んだとしても、同分野で既に長年の実績を有するオンライン金融機関との競争が待ち受けている。基本的に自社商品しか陳列しないというラインアップの乏しさや自社にとって重要な販売チャネルであるオンライン金融機関への遠慮など、諸々の分の悪さを大きく打ち返すような結果を期待するというのは楽観的にみえる。営業活動にどれだけの付加価値があるか、という示唆。
金融商品は実際のモノがなく、差が少ない。だから運用報酬はインデックスだったら0.X%といった運用報酬だったり、アクティブでも3%とか。
差が少ないものを売ることは本質的に難しい。だからこそ、ちゃんとした営業活動を本当にするのであれば、商品の理解も、顧客ニーズの理解も重要だと思う。
正直、多くの投信販売はそういった観点はなく、ただ既にチャネルを持っていて、そこに店舗だったり顧客獲得コストだったり、そのチャネルを構築するための過去の蓄積コストベースで「これくらいだったら買ってくれる」というのに右に倣えをしている部分が少なくないと思う。もちろん、売るのが難しいから、これまではそこに頼ってでも売るというのが事業上重要だったという一面もある。
逆に、商品に独自性があって、それを自社で正しく伝えていくことで自社でも売れる商品が増えてきた。そして、それによって獲得にかかるコストが証券会社や銀行に頼るより効率的だし、またそれで引き下げたコストを、さらに運用報酬の引き下げに用いることで商品自体の競争力が上がる。それがネット直販が増えている本質的な背景だと思うし、顧客本位だと思う。
あとは、やはりお金を預けてくれているお客様から直接声を聞けることは重要だと思う。運用に限らず巨額のお金についての意思決定の仕事をしていると、金額に麻痺をすることがある。でも投信だったり、株主だったり、顧客だったり、この10万円の裏にある人の顔を思い浮かべられるかは個人的には必要なことだと思っている。
もちろん、各社単位で顧客管理をしたりするコストもかかる。そのコストがこれまでは銀行・証券側に集約されていたメリットも見逃せない。そういう意味では直販をしないことも選択肢。また顧客にとって、既存の金融機関以外に改めて契約をするのが面倒な側面もある。そこは今でも営業・チャネル的付加価値が残る部分。
だけど、選択肢が増え、競争が増え、何が付加価値なのかが見直されることは重要。販社通さずに直販と一口に言っても、顧客管理等のコストを勘案するとそう容易なことではないでしょう。とはいえ、ここにきて国内大手が踏み込んだのは、運用ビジネスは必然的に残高を育てる気の長さがなければならないという原点に立ち返った時に、直販という選択肢を加えておかなければ、顧客ニーズが無視できないほどに高まった際に急に対応することができないから、という理由が大きいように思います。