ジム・ロジャースが予言「安倍首相が日本を破産させる」

2019/3/11
ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される伝説の人物、ジム・ロジャーズ氏。

リーマンショック、トランプ当選、北朝鮮開国など、起こるまでは「あり得ない」と思われてきた歴史的イベントを次々に予言してきた知の巨人が、このたび来日を果たした。

ロジャーズ氏の深い知見を、NewsPicks読者のために余すところなく吸い上げようと対峙するのは、自身も公開株およびプライベートエクイティ投資家として長年の経験を有し、人気ビジネス作家でもあるムーギー・キム氏。

日本の未来から、北朝鮮投資、人生哲学まで、縦横無尽に展開する丁々発止のトークを最後までお楽しみいただきたい。
ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立、10年で4200%という驚異のリターンを出し、伝説に。37歳で引退後、コロンビア大学での金融論の教授や、テレビ等のコメンテーターとして活躍。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。1月に出た新刊『お金の流れで読む日本と世界の未来』(PHP新書)が、即座に14万部突破のベストセラーとなり、アマゾン総合1位を獲得。

誰も北朝鮮開国を信じなかった

ムーギー ムーギー・キムと申します。ここにいるのは僕の弟ムイ・キムで、僕ら兄弟は“キム・ブラザーズ”として同じ投資ファンドで勤務したこともあります。兄弟で投資を生業にしているのですが、ちょうど「統一韓国」をテーマにしたファンド“38度線DMZキャピタルパートナーズ”(仮称)を立ち上げようとしているところなんです。
そんなわけで、今日はあなたから北朝鮮投資についてお話を伺うのを、とても楽しみにしてきました。
ロジャーズ さてさて、私の話にきみたちが満足するかどうか。
ムーギー あなたは韓国でもたいへんな人気者です。あなたが説いた南北統一の大きな機会は、韓国人に大きな希望を与えました。
ムーギー・キム(Moogwi Kim)P6パートナーズ(シンガポール)共同代表。ブルーオーシャングローバルネットワークメンバー。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。UBS、アーサー・D・リトル、フィデリティ・インベストメンツ、香港およびシンガポールでのプライベートエクイティファンド、ユニゾン・キャピタル等を経て、現職。著書は6カ国語で翻訳され、60万部突破。近著に3月末発売の『あれ、私なんのために働いてるんだっけ、と思ったら読む 最高の生き方』がある。
ロジャーズ そのようだね。だが、ほんの4年前には誰も真に受けなかった。ある韓国のジャーナリストはこう言ったよ。「繰り返すことさえ憚られる戯言(たわごと)だ。私たちはみんな北朝鮮が大嫌いなのに」とね。
もちろん、今となっては彼も「あなたの言うことを支持すべきだった。というより、私が言うべきだった」と認めている。さて、何の話から始めよう?
ムーギー 本日は、「NewsPicks」という経済メディアと共に伺いました。
読者の中心は、金融市場や東アジア諸国の地政学といったトピックスについて知識を深めたいと考えているビジネスパーソンです。彼らはあなたの投資哲学ばかりでなく、生き方や考え方そのものにも関心を持つでしょう。
新刊『お金の流れで読む日本と世界の未来』では、日本、韓国、中国の未来をそれぞれ予言していますね。この3国についても、改めてじっくり伺いたいと思います。

日本の未来は首相にとって「他人事」

ムーギー まずは、日本の未来について伺いたいと思います。
今、日本はとても微妙な時期にあります。来たる参院選を前に、安倍首相は北方二島を巡って成果を上げようと躍起になっています。長期政権であるにもかかわらず構造改革が進まない中、国民に訴求できる目玉が欲しいのでしょう。
いまや安倍首相は、何をおいても歯舞と色丹の二島を取り戻して、レガシーを遺そうとしています。アベノミクスに批判的なあなたから見て、安倍政権のレガシーとは何だと思いますか?
ロジャーズ 安倍首相は「日銀に無制限に紙幣を刷らせる」と明言している。これは、まったくバカげた話だ。正気の沙汰ではないよ。何週でも、何年でも、何十年でもいいが、長期にわたって紙幣を刷り続けて豊かになった国などどこにもない。
加えて、安倍首相は借金を重ねている。人口も減る一方だ。
人が減っていて、借金は天井知らず、紙幣は刷り放題とくれば、歴史のどこを探しても、国家として健全だと証言してくれる人などいないだろう。
株のブローカーにとってはおいしい状況だし、一時的に儲ける人々も出てくるが、経済そのもの、社会そのものは壊滅的なダメージを受ける。国家そのものが破綻するんだ。
簡単な計算をすればわかることだよ。30年後、誰が借金を払うんだ? 誰もが「俺じゃない」と言うだろう。どのみち、30年後の日本に、それほど多くの人間は残っていない。
ムーギー 今ここに安倍首相がいれば、こう言うでしょう。「ねぇロジャーズさん、ギリシャやイタリアと違って、日本国債の大半は国民が買っているんですよ。あなたが言うような破綻は起こりっこありません」と。
ロジャーズ 国民に借りた金なら、返さなくていいとでも言うのかい?
「あと30年、40年もすれば、未来の子供たちが返してくれるでしょう、私は返せませんが」とでもいうのだろうか。50年後に彼はこの世にいない。安倍首相にとっては他人事だ。事態を本気で憂うべきなのは、今10歳の子供たちだよ。

野党との比較より、10歳の子の未来を

ムーギー それを聞いた安倍首相は、うっすら浮かんだ脂汗をぬぐいながら、すばやく話題を変えるでしょう。失業率のデータを誇らしげに持ち出してね。
「今の日本の雇用情勢は強力な売り手市場で、失業率も歴史的な低水準でとどまっています。これぞアベノミクスの成果ですよ」と。また、「悪夢の民主党政権の時に比べて、経済は好調だ」と。
ロジャーズ なあ、ミスター・キム。私に1兆ドルでも1兆円でもくれれば、われわれは素晴らしい時間を謳歌できるだろう。誰もが仕事にありつき、誰もがビーチに繰り出し、誰もが浮かれ騒いでビールを飲む。素敵な話じゃないか。
でも、いつかはツケを払わなくてはならない。そのときが来れば、それほど素晴らしいとは思えなくなるはずだ。それが今、日本で起きていることだよ。
今のところ、誰もがハッピーだ。でも、10歳の子供はどうだろう? その子は幸せだろうか? そうかもしれない。その子には、今何が起きているのかわからないのだから。しかし、40歳になり、60歳になった頃、その子は安倍首相に感謝するだろうか? ノー。私にはそうは思えない。野党と比べてどうかという問いではなく、今10歳の子供が将来、今の安倍政権に感謝するかどうかを問うことが大切だ。
(写真:Xesai/iStock)
ムーギー 日本の状況を健全だと考えるのは、バランスシートを見ずにPERだけ重視するようなものですよね。安倍首相は紙幣を刷りまくっているので、失業率は下がり、資産価格は上昇している。しかし中央銀行のバランスシートは急速に肥大化している。ですが、その多くの人はその事実から目を背けています。
ロジャーズ もちろん、私は外国人だから、日本の人々は私の言うことに耳を貸す必要などない。
ただ、私は意見を述べているわけじゃない。足し算と引き算の説明をしているんだ。簡単な算数の話をしているんだよ。
そこから答えを導き出すのは、あなたがた日本人の仕事だ。

イノベーション競争に、日本は勝てない

ロジャーズ では、今度は私から安倍首相が言いそうなことを教えてあげようか。
ムーギー ぜひ。
ロジャーズ 「イノベーション」さ。
「われわれはイノベーションを推進している」とね。もちろんそうだろう。日本人はイノベーションが得意だ。
一方で、中国は毎年アメリカの10倍ものエンジニアを輩出している。ろくでもないエンジニアも中にはいるだろうが、アリババやテンセント、百度(バイドゥ)といった企業を思い浮かべれば、優れたエンジニアも少なくないのは容易に想像がつくだろう。インドでも、毎年何百万人ものエンジニアが誕生している。彼らもまた、イノベーションを起こそうとしているわけだ。
ムーギー そのとおりです。
ロジャーズ 安倍首相が、世界中の誰よりもうまくイノベーションを起こせるのなら、何も問題はない。世界中でイノベーションを起こせるのが安倍首相ただ一人なら、10歳の日本の子供は不幸にならずにすむ。
ムーギー 今のところ、首相の関心はもっぱら憲法にイノベーションをもたらすことにあるようですが。
ロジャーズ もしくはお札の印刷か。
今10歳の子供が50歳になったとき、その子はこう言うだろう。
ジム・ロジャーズ(Jim Rogers)名門イエール大学とオックスフォード大学で歴史学を修めたのち、ウォール街へ。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立、10年で4200%という驚異のリターンを出し、伝説に。37歳で引退後、コロンビア大学での金融論の教授や、テレビ等のコメンテーターとして活躍。2007年、来るアジアの世紀を見越して家族でシンガポールに移住。1月に出た新刊『お金の流れで読む日本と世界の未来』(PHP新書)が、即座に14万部突破のベストセラーとなり、アマゾン総合1位を獲得。
「安倍首相、日本を破産させてくれてありがとう。私の両親はいい時代を過ごせたけれど、50歳の私はお先真っ暗です。日本をダメにしてくれてありがとう」。それが彼のレガシーだよ。
ムーギー おそらく政府は、債権者である国民が高齢になって亡くなれば、借金を返さずに済むと考えているのではないでしょうか。
ロジャーズ しかし、亡くなった高齢者は子供に資産を遺すだろう。あるいは大学や教会に寄付するかもしれない。安倍首相は、彼らにカネを返さなくてはならない。子や孫が「返済の必要はありません」と言うなら話は別だが。
借金を返さなくてもいいのなら、私だってカネを借りたいよ。

朝鮮半島の統一は夢物語ではない

ムーギー さて、このあたりで、北朝鮮のトピックスに入りたいと思います。
あと5年ほどで、早ければ2、3年で、韓国と北朝鮮の統一は為されるだろうとあなたはおっしゃっていますね。統一の機運が高まっているのは事実ですが、なぜそれほど早期に統一が実現するとお考えですか?
ロジャーズ まず、金正恩朝鮮労働党委員長は今までの指導者とは違う。スイスで育っているからね。
考えてもみるがいい。彼はスイスから北朝鮮へ移住したわけだ。
(提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ)
ソウル、東京、北京に住めるのに、わざわざ北朝鮮に住みたがる人間はいない。まして、金正恩氏は美しいスイスに慣れ親しんだ人物だ。北朝鮮などに住みたいものか。
だから彼は、北朝鮮を変えようとしている。開国して、観光客向けのスキー場を建設し、マラソンや自転車の国際大会を開催している。北朝鮮を、世界のほかの国と同じようにしようとしているんだ。
今のままの北朝鮮に、誰があと50年も住み続けたいと思うだろう? バーも、ピザも、ディスコも、映画館もない国に。
もちろん、正恩氏だってそう思っている。彼も国民も、外の世界を見たがっている。今の北朝鮮には、中国人やロシア人が大勢やってくる。彼らは北朝鮮の人々に自国の話をしたり、DVDを見せたりして「これが普通の暮らしだ」と言う。
今は1990年代とは違うんだ。もはや、庶民を騙すことはできない。少なくとも、中国人とロシア人という情報源がある。北朝鮮の人々は、外には違う世界があることを知ってしまった。今の生活にはうんざりなんだ。機は熟したのさ。

金正恩にシカゴ・ブルズを与えよ

ムーギー 僕は以前、北朝鮮の亡命外交官、太永浩(テ・ヨンホ)氏にお会いしたことがあります。その際、朝鮮統一についても広く論じ合ったのですが、金正恩氏に核兵器を手放す意思がないことを、太氏は深く憂いていました。また、北のエリートグループは既得権益を失うことを恐れているので、金王朝を支えるのだとも指摘されています。統一後、果たして韓国人は金王朝の存続を受け入れるかと考えれば、それは無理でしょう。
(写真:ロイター/アフロ)
また、統一朝鮮は、北の体制が支配する、核兵器を持った大国になる可能性があるという指摘があります。そのような国が出現した場合、政治情勢はどのようなものになると考えられますか?
ロジャーズ 地図を見るといい。朝鮮半島のすぐそばにはグアムと沖縄があるだろう。
グアムの米軍基地にある核兵器は、グアムを守るためにあるわけじゃない。必要としている国の要請に応えるためにある。
韓国が核爆弾を必要とするなら、電話1本ですむ話だ。それだけで、翌月と言わず、翌週とも言わず、その日の午後には爆弾が手に入る。
つまり、韓国も核兵器を持っているのと同じことだ。さて、彼らはこの状況を手放すだろうか?
ムーギー あなたが言っているのは、統一朝鮮には必然的に核兵器がついてくるということでしょうか?
ロジャーズ そうじゃない。統一朝鮮は核兵器を持たずにすむということだ。
きみは今、韓国と北朝鮮が軍事費にどれほどのカネをつぎ込んでいるか知っているか?
現状、防衛に費やされている巨額のカネは、本来、高速道路や学校や教育やバーに使われるべきものだ。国民にMBAを取らせるために使ってもいい。それだってムダ遣いではあるが、戦車に使うよりはよほどマシだ。
ムーギー ロジャーズさん、僕はあなたの大ファンですし、深くリスペクトしてもいます。でも、あなたは僕の先ほどの質問には答えてくれていません。
統一が果たされても、韓国が金正恩の支配を受け入れることはあり得ません。一方で、金正恩も自らの権力を手放すつもりはない。その結果、どのような状況が起きるでしょう?
ロジャーズ なら、金正恩のためにシカゴ・ブルズでも買収してやるといい。
ムーギー 金正恩は、シカゴ・ブルズの大ファンとして知られていますね。
ロジャーズ シカゴ・ブルズの経営でも任せておけば、大人しくしているだろう。
ムーギー なるほど。国の代わりに、何か別の牛耳る対象を与えておけばいい、と。
ロジャーズ まあ、シカゴ・ブルズである必要はないがね。何か見つけるさ。だから、きみが心配する必要はない。
ムーギー 私が心配する必要はない(笑)。わかりました。
ロジャーズ 改めて、朝鮮統一は夢物語などではないと断言しておくよ。問題を解決することは可能なんだ。今後40年間、金正恩に何をさせるかは、おいおい考えればいい。

トランプと文在寅の「度胸」がカギ

ムーギー あなたは新刊の中で、「文在寅大統領がアメリカに屈しない限り、南北統一は為されるだろう」と書いています。これは実に興味深い。「屈する」とはどのような意味でしょう? 文大統領は、アメリカと北朝鮮のあいだで仲介役を果たそうとしているように見受けられますが。
ロジャーズ 文大統領は、朝鮮半島から米軍を追い出したいと考えている。現状、韓国は防衛に巨額のカネを投じているが、文大統領は他のことにカネを使いたいと思っている。これは韓国国民の総意だ。
文大統領に十分な胆力があれば、アメリカに対してこう言えるだろう。
「われわれは5000年にわたってこの半島を支配してきた。浮き沈みはあったけれども、概ねうまいことやってきた。アメリカ人は、たまたま歴史の悪戯(いたずら)で、ほんの70年ほどこの半島に居座っていたにすぎない。そろそろ出ていってくれないか? あとはわれわれでなんとかするから」とね。
米軍なんて、追い出そうと思えばできるはずだ。文大統領がタフならね。彼にそれほどの胆力があるのかどうか、私にはわからない。
(写真:AFP/アフロ)
ムーギー しかし、アメリカの立場からすると、在韓米軍基地を失うのはマズいですよね。統一朝鮮は中国寄りになるような、そんな状況をアメリカが受け入れると思いますか?
トランプ大統領自身は受け入れるかもしれませんが、トランプの周囲には頭の切れる官僚が大勢います。本当に、このようなシナリオが実現するとお考えですか?
ロジャーズ きみの言うように、在韓米軍は統一を阻む理由になり得るだろう。
なんといっても朝鮮半島は、中国との国境、ロシアとの国境付近でアメリカが軍隊を持てる、唯一の場所だからね。
ムーギー しつこくてすみませんが、その問題が解決しないと何も進まないのでは? つまり、中国とアメリカが協働して、南北統一に同意しない限り、実際には何事も起こらないのでは?
一方で、トランプ個人は、本気で韓国から米軍を引き揚げようとしているように見えます。だからこそ、金正恩と和解ごっこをしている。トランプも、軍事費を削減して国内の問題に注力したい。
つまり、トランプにとっても文在寅にとっても在韓米軍の引き揚げは都合がいい。よって、トランプ周辺の官僚が横やりを入れない限り、南北統一は実現可能だというのが、あなたの考えなのですね?
ロジャーズ そうだ。きわめて簡単な話だよ。ペンタゴンに電話をかけて「もしもし、司令官殿ですか? 韓国から兵隊を引き揚げてくれませんかね」と言うだけでいい。
ムーギー そんな要求が通るでしょうか?
ロジャーズ もちろん抵抗されるだろう。しかし、トランプと文に度胸があれば、この夕方にでも米軍撤退の指令が出てもおかしくはない。
ムーギー なるほど。
ロジャーズ ペンタゴンと交渉する必要さえない。在韓米軍は撤退すべきだよ。私だって、65年も前に終わった戦争のために税金を払い続けるのはごめんだ。まったくバカげた話じゃないか。在韓米軍は撤退させることができるし、撤退させるべきだ。
※明日に続きます。
(翻訳・執筆:藤田美菜子、撮影:竹井俊晴、デザイン:九喜洋介)