ベイスターズ提案の「海外留学」。選手の価値はオフに高まる

2018/11/10
ドラフト会議、日本シリーズという秋の恒例行事が終了し、プロ野球はオフシーズンに突入した。“ストーブリーグ”の話題が多くを占めるこの時期、選手たちはその過ごし方次第で自身の価値が大きく変わってくる。
チームの縛りが緩まるオフシーズンだからこそ、個人の価値を高めることを狙いに横浜DeNAベイスターズが興味深い取り組みを始めた。温暖な異国で開催されているウインターリーグに、選手を派遣するのだ。
行き先は、オーストラリアン・ベースボールリーグ――。
「ウインターリーグならどこでもいいというわけではなく、英語を身に着けるきっかけになればと思いました」
そう語るのは、セットアッパーの三上朋也だ。
「すべての生活が野球につながるように、考えまくっている」という三上
ベイスターズがオーストラリアのプロ球団キャンベラ・キャバルリーと戦略的パートナーシップを結び、その第一弾の取り組みである選手派遣に三上は自ら手を挙げた。
「大学4年のときに日本代表としてアメリカでプレーして、向こうで野球をやってみたいと思いました。海外でプレーする機会って、すごく自分のためになります。しかも大人になって勤めながら、留学っぽいことってなかなかできないじゃないですか。オーストラリアという英語圏の国のことを勉強したいなと、野球と同じくらいの気持ちがありますね」
人生のプラスにしてほしい
ベイスターズでは過去に筒香嘉智がドミニカ共和国に、乙坂智が去年、今年とメキシコのウインターリーグに参加している。
一流メジャーリーガーもプレーするドミニカを筆頭に、武者修行が目的ならレベルの高い中南米のウインターリーグのほうが最適だ。
筒香は海外から様々な方法論を取り入れて成長している
対してオーストラリアリーグのレベルは「アメリカの2A以上、3A未満」とされ、決して野球が盛んなわけではない。
ではなぜ、オーストラリアを派遣先に選んだのだろうか。
「選手を派遣して、野球だけやってこいというプログラムではないんですね。文化の違う英語圏で生活して、いろんな刺激を受けて、出会いや、何か次につながるきっかけをつかんでほしい。もちろん野球も含めて、人生を長く見たときのプラスになる経験にしてほしいという取り組みの第一弾なんです。そう考えると、いきなりドミニカやベネズエラに行くより、オーストラリアのほうがいいとなりました」
そう説明するのは、ベイスターズのチーム統括本部で人材開発コーディネーターを務める住田ワタリ氏だ。
住田氏は帝京大学ラグビー部を卒業後、渡米してアーカンソー州立大学でスポーツ医学を学んだ後、フィラデルフィア・フィリーズ傘下のマイナーチームに従事し、ドミニカのプロ球団アギラスでアスレティックトレーナーを務めた。
むちゃくちゃ野球、楽しいですね
住田氏がドミニカ球団に所属していた当時、中日ドラゴンズは現地選手獲得の一手として日本人投手を同国のウインターリーグに派遣した。そうして中日と関係を築き、後に入団に至った。
計4年間、住田氏は又吉克樹や岩田慎司など数々の選手に同行し、日本とは大きく異なる環境で成長する様を見ている。
「一番印象に残っているのは、日本の選手が『むちゃくちゃ野球、楽しいですね』って言っていたことです。ドミニカリーグの現実はすごく厳しいんですね。実際、打たれてすぐクビになった選手もいました」
「一方で抑えて観客が喜んで、チームに認められて、そういうフィードバックが自分に返ってくることに酔いしれた選手もいます。中南米では野球の結果がどう自分に返ってくるのか、日本のプロ野球の秋のすごし方ではなかなか感じられないと思います」
日本の球団はこの時期、一斉に秋季練習や秋季キャンプを行うのが一般的だ
今季のメジャーリーグ(MLB)のワールドシリーズで現地実況を聞いていると、解説者が「中南米のウインターリーグは、毎日ワールドシリーズを戦っているようなものだ」と話していた。
一流メジャーリーガーや、自身の価値をアピールしてMLB球団から契約を勝ち取ろうと世界各国から集った選手たちが、ハングリーに、同時にポジティブに、自由な発想でプレーし、目の肥えたラテンの観客たちを熱狂させる。
一方でドミニカ各球団との契約はシビアで、打たれれば即、契約解消となることも珍しくない。そうした日本とはまるで異なる環境で、中日の選手たちは様々なことを感じ、飛躍のきっかけをつかんだ。
翻って日本の野球界では、監督やコーチによる上意下達型の指導が長らく主流を占めている。子どもの頃から受け身で練習を重ね、結果として「指示待ち人間」が量産されてきた。
そうした環境で育った選手やスタッフを伸ばすために、ベイスターズがテーマに掲げるのが「主体性」だ。
「自分が将来何をしたいのか、イメージできない選手やスタッフが少なくないのが現実です。指示を待つという教育を、私も日本で受けてきました。根底ではもっと仕事を楽しもうよ、好きな野球を楽しもうよと。楽しむためにはワクワクするものを自分たちで作ろうと、主体性をテーマに掲げてきました」(住田氏)
今永、三上ら主力が挙手
オフシーズンのこの時期、ベイスターズは常夏の奄美大島で秋季キャンプを張る一方、12球団全体の取り組みとして台湾でのアジア・ウインターリーグに若手選手を送ることに加え、新たな選択肢としてオーストラリアへの選手派遣を用意した。
8月に「行きたい人、手を挙げて」と告知し、自ら名乗り出たのが今永昇太、国吉佑樹、青柳昴樹、そして三上だった。
「4人とも明確な課題があり、オーストラリアでそれを克服するという目的があります。ウインターリーグになぜ行きたいかを答えられなかったら、行くことはないでしょう。主体性を持つということは、自分のゴール設定があって、そのために何をすべきかを考える。その選択肢が多くあれば、自分で選ぶことができます。選手が課題を持って取り組める環境を用意するという点で、いいスタートだと思っています」(住田氏)
英語圏でプレーするメリットや、各国の治安などを考慮し、球団としてオーストラリアに派遣する道を用意した。それには手を挙げず、2年連続でメキシコリーグに参加した乙坂のような例もある。
メキシコで好成績を残し、現地ファンの心をつかんでいる乙坂
様々な選択肢があることで、選手は自分にあったオフの過ごし方を探すことができるのだ。
チャレンジする価値がある
一つ気になるのは、過去3シーズンで185試合も登板してきた三上がオフシーズンも投げ続けて大丈夫なのか、という点だ。三上にストレートに聞いてみた。
「僕もわからないです。でも日本みたいに週6日試合があるわけではなく、週4日だけ試合があって、ある程度登板数を配慮してもらえます。日本のように高負荷な2カ月をすごすわけではないと思います」
「確かにオフには休む必要もあるけど、同時に自主練習で上げていかないといけない。そのふたつがちょうどいいバランスになるのではと思っています。マウンドで投げる感覚は春季キャンプで仕上げるものですけど、それを早くできるのはいいのかなと。初めての試みですが、チャレンジする価値はあるなと思っています」
「日本と全然違う経験が、来季に生きると思う」という三上
オーストラリアリーグは12月から3カ月間開催され、三上は1月下旬にレギュラーシーズンが終わるまで参加することを自ら決めた。最初の10日間を除いて球団職員が通訳やトレーナーとして同行しないからこそ、選手には「主体性」が求められると住田氏は言う。
「今回参加する選手たちは、例えば肩が痛いとしたら我慢して投げるはずがないし、何かあったときには自分で言える選手です。球団としてはもちろんリスクを加味しているし、選手は自分で挙手しているので、私は心配していません」
「現地に行くからこそ『英語が必要だな』とか、『オーストラリアの野球はこういう感じか』などと気づけるものがあります。プロ野球選手のうちにそうやって感じられることが、次のステップへの準備になると思います。外国に行くことによって今後、自分が何をしたいのかが見えてくる。球団として、そういう機会をどんどん提供していきたいですね」
横並びの球界に独自色を
ウインターリーグに選手を派遣する球団は他にもあるが、主な目的は育成だ。今回のベイスターズのように独自の色を持った取り組みを始めることで、「ベイスターズに入りたい」というアマチュア選手も増えてくるのではないだろうか。
現状、「金の卵」と言われる選手たちはドラフト会議で指名された球団にそのまま入団するのが主流だが、アメリカではチームによっては拒否するケースもある。
日本でも「オフに海外でプレーできるからベイスターズに行きたい」「天然芝の球場でプレーしたいから楽天か広島に行きたい」などとアマチュア選手が入団先を選ぶようになれば、各球団はさらなる運営努力を行い、結果的にもっと魅力的な野球界になっていくはずだ。
後に振り返ったとき、今回のベイスターズのオーストラリアへの選手派遣は、日本球界にそうした独自色や主体性をもっと広げる取り組みの第一歩になっているかもしれない――。
(写真:©YDB)