誰が「地方にお金を回す」のか。金融マンの新たな役割とは

2018/10/26
 FinTechの進化や銀行再編など、金融機関は今まさに変化のただ中にある。とりわけ高齢化や人口減少のスピードが速い地方を営業基盤とする地方銀行では、生き残りをかけた店舗の統廃合や人員削減が既に進められつつある。
 こうした時代にあって、地方の金融マンは地域経済のために何ができるのか──。
 地方創生のイノベーターとともに、地域経済と金融の未来を考えるイベントが9月21日に開催された。ゲストに迎えたのは、FAAVO by CAMPFIREの運営責任者である齋藤隆太氏と、ポケットマルシェ代表の高橋博之氏だ。
 齋藤氏は、全国95のエリアで地方公共団体や金融機関等と連携しながら、地域にクラウドファンディングを根付かせる仕組みを構築している。
 高橋氏は、食べ物付き情報誌「東北食べる通信」や、生産者から直接旬の食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」を展開。いずれも、地方創生の最前線に身を置くイノベーターだ。
 ファシリテーターには、地銀出身で現在ベンチャーキャピタリストとして活躍しているiSGSインベストメントワークス代表取締役の五嶋一人氏を迎えた。
 会場には地域経済と関わる金融マンたちが集う中、それぞれの立場から地域経済における金融機関の役割について語り合った。
地域経済は「貨幣」だけでは成り立たない
五嶋 まず、「地方創生や地域経済の活性化は“ボランティア”なのか?」という点について考えてみたいと思います。
 地方創生や地域経済の活性化を目的とする事業において「金儲けは悪」のようなニュアンスで語られることも少なくないという印象は、多くの方がお持ちなのではないかと思います。
 しかしながら、こういった重要な事業を収益を度外視して人の善意頼みで続けていてもいいのか、という課題もあると思います。この点についていかがでしょう?
高橋 この質問は答えるのが難しいですね。たしかに、地方では「お金儲けは汚いもの」という考えがどこかに強くあって、そこに問題は感じます。ただ、地方が収益ばかりを重視して東京を目指すことが本当にいいことなのか?という疑問もあるんですよね。
 僕の地元は岩手県ですが、地方の経済っていうのは、お金が介在する「貨幣経済」だけでなく、自然からの恵みの「贈与経済」、あとは物々交換の「交換経済」の3つで成り立っていますから。このバランスをどうとるかが大事だと思います。
五嶋 東京はほとんど貨幣経済だけで成り立っていますが、地方の小さな経済規模ではおそらく、それだけでは成り立ちませんよね。ただ、資本主義である限り経済として発展しないと人の生活は豊かにならないわけで、小さいままでよし、というのも、それは違和感を覚えます。
地銀で法人融資を担当し、ソフトバンク・インベストメントを経て、2006年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。横浜DeNAベイスターズの買収など数多くの投資・買収案件を主導する。2014年からは株式会社コロプラでベンチャー投資とM&Aに従事。2016年6月に株式会社iSGSインベストメントワークスを設立し同社代表取締役、代表パートナーに就任。
 齋藤さんはクラウドファンディングの事業をされていて、ストーリーや人の気持ちと経済性をうまく混ぜ合わせた事業をされていますが、地方でビジネスを起こす難しさについて、どう感じられていますか?
齋藤 定番の答えかもしれませんが、私の場合、東京ではやっていることが数年遅れで地方に入ってくるというところに難しさを感じましたね。2011年ころに宮崎でクラウドファンディングの事業化に動いたときも、「詐欺まがい」と揶揄されることもありましたから。
五嶋 今はテレビだけでなく、インターネットやSNSもあるのに、それでもそんなに遅れます?
齋藤 遅れますね。どうしてでしょう。Facebookがはやるのも数年遅れでしたし。やはり、とくにSNSのようなものは周りが使わないと広まらないからかもしれません。
高橋 田舎にいると、みんな「うちは保守的だから」って言うんですよ。新しいものはリスクと捉えられてしまうので抵抗感が強い。ビジネスとしての合理的な判断よりも、どこの家のせがれがやっているとか、縁故や見栄が判断基準に入ってきてしまうんです。
 だから、僕が12年ぶりに帰郷して選挙活動を始めたとき、親から「東京に帰ってくれ」と言われましたね。「お前のせがれが、変なことを始めたって言われるから」って。
1974年、岩手県花巻市生まれ。2006年、岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補し、初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。政党や企業、団体の支援を一切受けず、お金をかけない草の根ボランティア選挙で鉄板組織の壁に風穴を開けた。2011年に岩手県知事選に出馬、次点で落選。2013年、事業家へ転身。NPO法人東北開墾を立ち上げ、食べ物付き情報誌「東北食べる通信」編集長に就任。2014年、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」を創設。2016年、日本サービス大賞(地方創生大臣賞)受賞。同年夏、「一次産業を情報産業に変える」をコンセプトに、農家や漁師から直接、旬の食材を購入できる「ポケットマルシェ」サービス開始。
齋藤 でも、北と南でも違いませんか? 僕が宮崎で起業したとき、クラウドファンディングを知らない人ばかりでしたが、それでも「やるよ」と言ってくれる人は多かったんですよね。まずトライしてみる雰囲気があった。でも東北に展開したときは、「雪が溶けるまではできない」という定番の断り文句で……。
高橋 昔、東北の人にとって雪は死活問題でした。生死がかかっていて助け合わないと生き残れない。だからこそ、誰かが抜け駆けすると批判される対象になるし、新しいものに対する抵抗が強くなるのかもしれません。
お金を借りることの“恥ずかしさ”
五嶋 次に「中央と地方での『お金の集め方』の違いとは?」というトピックに移りたいと思いますが、資金調達についても地域性の違いは感じますか?
高橋 僕の場合、県議選に出馬するとき、岩手の地銀さんや信金さんはお金を貸してくれました。これは、うちの父親や、応援してくれる人たちの信用が担保になったと思います。ポンと出してくれました。
 あとは会社を始めたあとに資金調達をするときには、地銀の「目利き力」を感じましたね。事業計画書のなかで、我ながら「ここはちょっと微妙だな」と思っていたポイントがあったんですが、東京のVCはスルーだったのを、地銀の担当者から突っ込まれた。丁寧に見ていただいているんだな、と思いました。
五嶋 そうなんですね。銀行系ということで、一般的なVCとは重視するポイントや着眼点がそもそも違うのかもしれません。齋藤さんは、いかがですか?
1984年生まれ。宮崎市出身。法政大学人間環境学部卒業後、USENに入社。有線放送、Web商材などの営業職を経験後、サーチフィールド創業に参画。イラスト制作のディレクターを経て、2012年に地域×クラウドファンディングFAAVOをリリース。2016年に宮崎にUターンし、ふるさと納税事業にも参入。そして2018年にCAMPFIREに事業譲渡し、「FAAVO by CAMPFIRE」運営責任者に就任。
齋藤 これはクラウドファンディングの事業を宮崎で始めるときに思っていたんですが、お金を借りることに対して、恥ずかしさを感じる人が多いんですよね。やってはいけないことのように思われているようで。
 でも、お金はただの手段じゃないですか。貸す人は、借りる人の思いに共感してお金を出そうとしてくれているわけだから、恥ずかしく思う必要はないと思うんですが。
高橋 僕もそうでした。お金を借りようとするときに、「どうかお願いします」みたいに卑屈な態度になってしまって。でも、東京で付き合いのある投資家と話したときに「お前は客なんだから、もっと堂々としろ」と言われて、たしかにそうだな、と。
五嶋 その卑屈感ってなんなんでしょうね。
齋藤 地方に行けば行くほど、借金は危ないという刷り込みがある。そのことで潰れてしまっている可能性もあると感じていて、そこを打破するのがまさに地銀マンであってほしいと思いますね。
五嶋 そういえば、iSGSから投資させていただいているスタートアップで、1億円くらい資金調達に成功したところがあるんですが、その会社が資金調達後にクラウドファンディングをしたときに、調達した1億円のことには一切触れていなかったんですよね。
 どうも、お金があると思われると、クラウドファンディングがうまくいかない面があるようで。
齋藤 日本ではクラウドファンディングが勃興したのは東日本大震災がきっかけでしたからね。言葉は悪いですが、「かわいそうだから(助けるために)お金を出す」という感覚の人がまだ多いと思っています。
 海外のクラウドファンディングを見ていると、楽しいことに参加したいからお金を出すという感じなので、まったく感覚が違いますよね。
「結婚相手探し」まで担う地方金融機関
五嶋 おふたりは地域の金融機関の方とどんなお付き合いをされていますか?
齋藤 私たちの場合、クラウドファンディングの立ち上げなどを通じて関わりがあります。たとえば、私は岐阜県にある飛騨信用組合さんと一緒に仕事をして、地域限定の電子通貨「さるぼぼコイン」を運営しています。これは飛騨高山エリアではかなりの普及率になりました。
 実は地方の金融機関とうまく連携すれば、こういう新しい取り組みもできるんですよね。私の印象では、規模が小さい金融機関ほどスタープレーヤーのような人が出てきている印象があります。スーパー公務員のように、いい意味でお尻に火がついていて、周りの人たちも引っ張られて熱気が上がってくる。
高橋 僕の場合、出資を受けているVCさんから全国の地銀の方を紹介していただいており、地銀の方から生産者の方につないでいただいています。それこそ九州や北海道など、地銀の方の車に乗せてもらって生産者のところまで案内していただいているので、本当に助かっていますね。
五嶋 なるほど。資金面の支援以外にも、価値のあるサポートを受けられているんですね。
高橋 そういえば、ある信金の方から聞いて驚いたんですが、そこでは結婚相手の紹介もしているという話でした。その方が言うには、「信金はお客さんの家族構成まで知っているから、かゆい所まで手が届くサービスができる」って。
五嶋 それもすごいですね(笑)。銀行が紹介してくれる相手なら間違いないだろうというイメージもあるんでしょうか。ビジネスでやったらいいかもしれませんね。現実には規制があって事業にすることは難しいでしょうが…。
その地域を一番愛しているのは誰か
五嶋 さて、この流れで「これからの地銀、信金、地域の金融機関に期待すること」に話を移したいと思います。メガバンクと地域の金融機関では、ビジネスの仕組みはそんなに変わりませんが、期待されることが違いますよね。
齋藤 さきほど高橋さんがおっしゃったように、地銀や信金の強みは地域に関する深い知見や情報にあると思っていて、それを事業者にフィードバックして伴走してもらいたいなという気持ちはあります。
 ただ、まわりの起業家などの様子を見ていると、お金を貸してくれること以上のサポートは求めていないような気もするんですよね。
 それは、今の金融機関が時代の変化についていけていないからかもしれません。昔は銀行が時代の最先端を走っていたと思いますが、今はむしろ時代に追い抜かれている。
 それこそ、今は、クラウドファンディングなどを利用すれば、金融機関を通さずとも資金調達ができる時代ですからね。だからこそ、地銀の方には組織のルールだけにとらわれず、マーケットのニーズに目を向けて柔軟に変わっていってほしいと思っています。
五嶋 高橋さんは東北で選挙や起業をされて、いろいろなご経験があると思いますが、いかがですか?
高橋 地方と東京の両方で起業して感じたのは、地方では相談できる相手がいないということでした。これが厳しかったと思います。東京の仕事は結構みんなが関わり合ってるんですよね。でも地方では誰に相談したらいいのか分からない。
五嶋 地方は人の関わりが濃いイメージがありますけど、仕事では実はそうでもないんですね。
高橋 そうなんです。これを変えるには、地方の金融機関で働く人が、地域の未来を考えて、これから自分の強みをどう発揮していくんだということを徹底的に議論するところからやらないといけないんじゃないかなと思います。
 地銀にしても信金にしても、今これだけ世の中からいろいろ言われていて、よく黙っていられるな、と思うんですよ。新聞を開けば、地銀や信金の未来はないみたいなことを書かれていて、厳しい話ばかりじゃないですか。
 でも、金融だって人助けですからね。私は、その地域を一番愛している人は、その地域で暮らしている人だと思っています。世界で一番その地域を何とかしたいと思っているはずで、そうじゃないといけない。だったらビジョンが大切ですよね。
本会を共催したアクサ生命執行役員・山内康晴氏から、金融人材の可能性についてのスピーチも行われた。
五嶋 銀行で当事者として働いていると、日々の業務に追われまくっていて、そこまで考える場面がそもそもないのかもしれません。
高橋 さきほど、スーパー公務員の話が出ましたが、そういう人は休日に出て民間と関わっていたりしますよね。だから、まずは外に出て自分で考えてみることが必要で、そこからたとえば上司にアイデアを提案するような人が必要だと思います。
それで上司がまったく耳を貸さないようであれば、辞めるくらいの覚悟があってもいい。そんな銀行には未来はないと思いますしね。
五嶋 なるほど。それでは最後のお題が「自社に地銀マンが面接に来たら採用しますか?」というものですが、これはどうでしょう。
齋藤 もし地銀を辞めてうちに来たいという人がいれば、それは注目すると思います。やっぱり、地方においては銀行の肩書はすごいじゃないですか。
 人気職種をあえて飛び出してまで、やろうとしていることがあるのなら、それは聞いてみたい。それくらい珍しい話だと思います。
五嶋 僕が銀行を辞めたのは30歳のときでしたが、それまでに同期で辞めた人間は、家業を継ぐためとか、結婚のためとかだけでしたからね。僕も辞めるときにはいろいろと言われました。高橋さんはどうですか?
高橋 銀行員は真面目な人が多いイメージがあるんですよね。きちっとされていて信頼はできるんですが、しゃくし定規というか。もちろん違う人もいるでしょうが。やっぱり人によると思います。
五嶋 ありがとうございました。とにかく、今はマスコミでもよく地銀や信金などの地域金融機関が潰れるなんて話が頻繁に出ますけど、僕としては耳を貸す必要はないと思うんですよね。ひとりひとりが「自分ごと」としてできることは、やっぱり目の前のひとつひとつの仕事に力を入れて、目の前の人たちを幸せにするという一点しかない。
 地域金融の当事者でもない人が、数字をこねくり回してシミュレーションをした意見を、当事者が気にする必要はないんですよね。気にしたところでそれに対してできることはなにもないわけで。
 部外者が出す数字に危機感を持つまえに、自分自身がやるべき仕事、自分自身しかできない仕事があるはずだし、それを全力でやりながら、会社や業界について気にする以前に、まず自分自身について考えるべきことがあるんじゃないかな、と思っています。
(取材・構成:小林義崇 編集:呉琢磨 撮影:岡本大輔)
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