ゲームで育成されたデジタルな「猫」

近年、多くのスタートアップが「社会的な善」を実践しようとしている。
ロボ・アドバイザーたちは社会的責任投資を選択肢に加え、「P2P保険」を提供するレモネードでは支払われなかった保険金が慈善団体に寄付される。ウーバーは、コミュニティー貢献活動に取り組んでいる。
そして今度は、「クリプトキティーズ」がチャリティーオークションにかけられようとしている。
読み違いではない。「ビーニーベイビーズ」のデジタル版とも言われる子猫育成ゲーム「クリプトキティーズ」が、育成された猫のチャリティーオークションを行おうとしているのだ。
クリプトキティーズは、イーサリアムのブロックチェーン技術を使ってデジタル猫を育成するゲームで、2017年、暗号通貨資産への関心が急速に高まるなかで始動した。ユーザーは猫を購入し、繁殖させることができる。人々は「コレクター向け猫」に殺到し、10万ドル超の値が付く猫もいる。
クリプトキティーズは、アンドリーセン・ホロウィッツやユニオン・スクウェア・ベンチャーズから巨額の資金を調達している。今回、オークションにかけられる猫は「ホヌ」という名前で、収益は海や野生生物に関連した慈善団体に寄付される。
暗号通貨に積極的に投資してきたユニオン・スクウェア・ベンチャーズのパートナー、フレッド・ウィルソンはあるブログ記事で次のように述べている。「暗号通貨や暗号グッズは、チャリティーの資金集めを変え、改善する可能性を秘めている」

暗号通貨による寄付プラットフォーム

暗号通貨業界による慈善活動は、ホヌが初めてというわけではない。6月後半には、コインベースのブライアン・アームストロングCEOが「GiveCrypto.org」を立ち上げている。暗号通貨で資金を集め、世界中の必要としている人々に分配するためのプラットフォームだ。
いまのところ、消費者たちは暗号通貨資産を積極的に寄付している。寄付を行えば税金控除になることも一因だろう。
2017年末にかけて、多くの仮想通貨の価値が急上昇した。フィデリティの慈善事業部門も2015年から、暗号通貨による寄付を受け入れている。2016年の寄付額は700万ドルだったが、2017年には6900万ドルに上った。
さらに、匿名の個人が「Pineapple Fund」というウェブサイトを立ち上げ、60の慈善団体に対して、合計5500万ドル以上のビットコインを寄付している。
単純な寄付だけではない。ブロックチェーン技術でチャリティーの説明責任を高めようと試みるプロジェクトもいくつかある。金銭的な貢献すら必要としないプロジェクトもある。
たとえば、国際連合児童基金(UNICEF)のオーストラリア支部は、寄付の代わりにコンピューターの演算能力を集め、暗号通貨の採掘を行っている。
これらは、慈善活動の未来を示しているのだろうか──。

デジタル経済の恩恵による貧困救済へ

真剣に受け止める人も現れ始めている。
第三者機関として慈善事業を監視する「チャリティー・ナビゲーター」のラリー・リーバーマンCOOは「ブロックチェーンは間違いなく、国際的な慈善活動における最も重要な革命のひとつになるだろう」と述べている。「ブロックチェーン技術によって、こうした活動は一新されるだろう」
このように、一部のNPOは「デジタル台帳」を認めているものの、暗号通貨の世界にはまだ解消しなければならない欠陥がいくつかある。貧困者の救済を任務とする組織に、基本的には投機的な資産を寄付するとなればなおさらだ。
たとえ多くの組織がコインをただ現金化し、慈善活動の資金に充てるだけだとしても、暗号通貨による困難さは生じる。
ボラティリティの問題は言うまでもない。誰かがチャリティーオークションで高価なクリプトキティーを落札したとしよう。もしオークションが終わるまでに、暗号通貨イーサに対するドルの価値が20%下がったらどうなるのだろう。
「最大の問題は、慈善団体が対処法を知らないかもしれないということだ」と、リーバーマンCOOは指摘する。「彼らは現在、株による寄付と同じように対応している。株を売るように、第三者に暗号通貨を売っているわけだ」
これはつまり、取引コストを負担しなければならないということだ。ただしリーバーマンCOOによれば、コインベースやビットペイなどはたいてい、NPOの手数料を割引しているという。
一部の慈善団体は、高価なキャラクターが取引されるような新しいデジタル経済の恩恵に預かる絶好のチャンスだと感じている。さらに、寄付金の追跡方法が変わるターニングポイントだとも感じている。しかし、現金にこだわり続ける慈善団体も残るのは間違いないだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Julie Verhage記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:MF3d/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.