AIを捜査に活用、顔面認識技術で犯罪リスクを予測できるのか

2018/4/19

中国警察「顔面認識技術を搭載したメガネ」

AIの有用性が期待されている大きな分野に、犯罪対策がある。
先ごろも、顔面認識技術が急速に向上している中国で、これによって指名手配中の男が逮捕されたと伝えられた。しかも、男は香港歌手のコンサート会場にいたとのことで、6万人もの観客に中に紛れ込んでいた。それにもかかわらず、ピンポイントで見分けることができたのだという。
中国では同じような出来事は昨年もあり、この時はビール祭りを楽しんでいた20代の男が、やはりお祭り会場の入り口に備え付けられたカメラを通して認識され、逮捕に至ったことがあった。
中国の顔面認識の精度は今や完璧に近くなっており、警察のデータベースにあるお尋ね者の顔を町中で見つけ、それが本人だとほぼ間違いなく的中できるようになっているのだ。
中国では警備カメラが街頭にあふれていて、それだけでも怖いと思っていたが、そのカメラの背後に今や顔面認識技術が付いているということになる。
それだけではない。すでに一部では警察が顔面認識技術を搭載したメガネを装着しているというから、本当にSF映画の監視社会が現実になっている空恐ろしさを感じる。

リアルタイムに犯罪リスクを予測

さて、アメリカでもさまざまな方法でAIが犯罪に関わっている。もちろん、犯罪を犯すほうではなく、解決するほうだ。
例えば、犯罪現場のいくつかの要素からそれがギャングによって起こされたものかどうかを認識するAIテストが、ロサンゼルス警察で行われている。ここでは、過去数年間のギャングによるものとそうでないものを含む、5万件の殺人や強盗事件をAIに学習させた。
そして、実際の現場については使われた凶器、容疑者の人数、現場がある地域、その住所という数要素だけで、犯人はギャングかどうかを予測する。これまで人間がやっていたよりも間違いの率が30%低くなったという。
犯罪予測のAIもある。こちらは、いつ、あるいはどこで犯罪が起こりそうだということを知らせるAIで、警察が利用できるものだ。
例えば、すでに全米の60都市の警察によって利用されているプレッドポルというシステムでは、150メートル四方に分割された地区のどこで犯罪リスクが高まっているのかを毎日知ることができる。リスクの高さは色分けされてホットスポット地図のように見ることができ、パトロールの目安にされているという。
この手の「予測警備」と呼ばれるAIは他にもあるが、犯罪のリスクがフツフツと沸き起こってくる背後には、犯罪は地域的に特定のエリアで起こりがちで、大きな事件が起こる前に小さな犯罪が先駆けとして見られるなどの傾向があるとみなすようだ。
そして、暴行、損傷行為、銃声を聞いたとか銃を持っている人物を見かけたなどの通報といったリアルタイムの情報から予測をアップデートしていく。これまで大きな事件があった際の季節や時間などのデータも、AIには学習させている。
人手不足の警察は少なくないので、犯罪リスクを予測してくれるAIによってパトロールの時間を効率的に使えると、注目を集めているようだ。

「犯罪リスクアセスメント」のリスク

だが、こうした犯罪に関わるAIには、危険な落とし穴もある。予測が間違っていると、罪もない人間に疑惑の目が向けられるといった危険性があるからだ。
例えば、調査報道メディアとして知られる『プロパブリカ』が2年前に追跡したケースは、AIによる犯罪予測は全幅の信頼が置けるものではないことを物語っている。先ごろ、この記事を手がけたジャーナリストの話を聞く機会があったのだが、AIによる間違いは人の将来に傷をつけてしまうことがわかる。
この記事では、いずれもその時は軽犯罪で逮捕された白人男性とアフリカ系アメリカ人のティーンエージャーの女性が、今後犯罪を犯すリスクはどのくらいかを予測されたケースを取り上げている。
逮捕されるとこうした「犯罪リスクアセスメント」を行うところは多く、これを保釈金や刑期を定める際の参考にする。
『プロパブリカ』の記事の発端となった2人の写真と犯罪リスクの数字(撮影:瀧口範子)
このケースでは、実は白人男性はその前もその後も犯罪を犯し続けた常習犯である一方で、アフリカ系ティーンエージャーの女性は実際にはその軽犯罪以降、何の罪も犯さなかった。だが、逮捕時に出た犯罪リスク予想は、それぞれ3度と8度だ。
記者が実際に利用されているシステムをテストした結果、このシステムではアフリカ系アメリカ人にはより高いリスクが予測され、他方白人はリスクが低めとされることが多かったという。

顔つきで犯罪性の有無を判断するAIも

この記事は当時、AIの利用について大きな波紋を投げかけたのだが、現在こうした間違いやバイアスの問題が解決されているかどうかは不明だ。
犯罪に関しては、AIのおかげで安全になることもあるだろうが、他方で間違いがただの間違いでは済ませられない。表面的なAIの進歩と、それを利用する側の認識や倫理観、判断力のバランスが課題となる。
ところで、中国の顔面認識の話題に戻ると、もっと驚くようなAI利用もある。それは顔つきから犯罪性の有無を判断するAI開発で、ある上海の大学の研究者らが進めている。
この場合、AIには前科者とそうでない人の顔写真を学習させ、そこから何らかのパターンを読み取るようにするのである。
ひょっとしてちょっと目つきが鋭かったりすると、犯罪リスクの高い人間とみなされてしまうのだろうか。こんなことになってくると、自分の顔にどんどん責任が持てなくなってしまうだろう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:vchal/iStock)