地域の資産状態を判断する、人工衛星の画像データ分析にAIが活躍

2018/4/12

商業活動や経済活動をモニター

数々の宇宙ビジネスが期待されている中で、すでに実用化されて収益を生み、そしてびっくりするようなことが起きているのが、人工衛星が捉える地上の画像データビジネスである。
衛星イメージと言えば、われわれが日常的に利用しているグーグルマップでもその精密さに驚くのだが、現在の人工衛星画像の解像度は「本当にこんなものが宇宙から見えるのか」と愕然(がくぜん)とするほど高い。そしてそうした画像データの利用のされ方も実に興味深い。
なるほどと思うのは、貯水池の水の残量を見たり、干ばつの状態を確かめたりするもの。自然環境の変化は、全体像を捉えるこうした画像が有効なことは間違いない。
農作物の生育状態もこうした画像からわかる。トウモロコシがよく育っていて、今年の収穫高はどのくらいだろうといったこともすでにわかるようになっているらしい。あるいは作物が病弊していないかなど、畑の状態を把握するのにも使える。
さらにすごいのは、商業活動や経済活動をモニターできる点だ。例えば、スーパーの駐車場に止まっている車の数を見て、そこから売上高を予想したりもできる。
港でのトラックや人々の動きから、物品の動き、輸出入の状況が把握できる。また、オイルタンクの残量から、石油売買の状況を知ることもできる。
ある衛星画像取得会社は中国の製造業に特化していて、中国国内の数千カ所の工場の様子を人工衛星からモニターしている。中国政府が発表する生産高の数字はアテにならないため、独自に工場周りの活動の度合いを知りたいというクライアントがたくさんいるらしい。

所得中間値と画像の組み合わせを学習

こうした人工衛星の画像は、国防関係省庁や金融業界にクライアントが多いという。経済活動を直接、しかもリアルタイムで知るのに、人工衛星画像ほど確かなものはないのだ。
そして、この分野こそAIの力を大いに借りているのである。AIが画像を読み取るだけでなく、画像が何を示しているのかを学習して現況に対する予測を行うのだ。
その面白い例が、ペニーというシステムである。
ペニーは、デジタルグローブ社の画像分析プラットフォームを利用して、カーネギーメロン大学とデザイン会社のステーメン・デザインが開発したもので、人工衛星画像が捉えた地域の資産状態がわかるというものである。
つまり、この地域は貧困地域か中間層か、あるいは高額所得者が住む地域なのかといった違いを人工衛星画像から判断するのだ。
このシステムを作る際に行ったのは、アメリカの国勢調査による所得の中間値ごとに地区分けし、それと人工衛星画像のデータを一緒にAIに学習させたことだ。
一般的に、高級住宅街は敷地が広く、緑も多い。反対に貧困地域は、荒れ果てたコンクリートが見えたり、周辺に大きな駐車場があったりするだろう。

物理的な違いから社会を読み取る

ただ、この学習ではそうした人為的な特徴を用いたのではなく、あくまでもAIに所得中間値と画像の組み合わせを学ばせたのである。その結果、AIはそこに相関関係やパターンを見いだして、今度は人工衛星画像を見ただけで、どんな地域なのかがわかるようになった。
そして、ペニーが何を基準に判断しているのかを開発者たちが探ったところ、それぞれの地域の物理的な造りには、はっきりとした違いがあることを逆に学んだという。
例えば、貧困地域には大型駐車場の他にも野球場があったり、同じ形のビルが並んでいたりする。このビルは、生活補助を受ける人々のためのハウジング・プロジェクトと呼ばれるアパート群だ。
中間層では戸建てやアパートが多く、高額所得者が住む地域は広い裏庭があったり、ピカピカの高層ビルがあったりする。
人工衛星とAIは、物理的な街を目にしただけで、その社会的な意味合いまで読み取ってしまうのだ。人間が作り上げてしまった社会を、AIに見通されているような気持ちがする。
普段は隠れているものが、見ただけでわかる。しかも人間の手を借りずに、それが行われる。こうしたAI技術には、期待と警戒感の両方を抱くのは、私だけではないだろう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:http://penny.digitalglobe.com/)