4年連続ドラフト1位輩出。明治大学の今風「人間力野球」

2018/3/26
球団史上初のリーグ3連覇を狙う広島の開幕投手が有力視される野村祐輔をはじめ、山崎福也(オリックス)、高山俊(阪神)、柳裕也(中日)、齋藤大将(西武)が過去4年連続でドラフト1位指名されるなど、明治大学野球部は数多くのプロ野球選手を輩出している。
なぜ、明大野球部の選手は伸びるのか。
東京六大学に好素材が集まりやすいのは事実だが、彼らを育む独自の環境にも大きな関係がある。監督の善波達也が説明する。
「1952年に就任された島岡吉郎監督の頃から、明治は『人間力野球』を掲げてきました。人としてどうあるべきかを追い求めて、それが勝ちに直結する。それなくして勝っても意味がない。そうした島岡監督の考えを引き継ぎ、今風に変えていくのが私の役割です。上級生、特に4年生が率先して雑用やグラウンド整備を引き受けるスタイルは、当時から今も変わりません」
2008年に明治大学の監督に就任した善波監督。大学日本代表を率いて2015年ユニバーシアード競技大会で金メダルを獲得した
社会人として即戦力になるために
昨今、伝統的な体育会系のあり方を根本から見直し、結果を出すチームがいくつか現れている。代表格が、大学選手権を9連覇中の帝京大学ラグビー部だ。
監督の岩出雅之は上級生に雑用を率先して行わせることで下級生に余裕を持たせ、自分のことを考えられる時間を作り、個々の力を伸ばすことでチーム力を高めていくという組織改革を行った。結果、9連覇という前人未到の記録を打ち立てている。
一方、明大野球部では島岡の下、1950年代前半から4年生が雑用を率先して引き受けてきた。教え子の一人である善波によると、島岡は口癖のようにこう語っていたという。
「4年生は来年、社会人1年目。そこで人の役に立つには、明治の最上級生になったときにあぐらをかいて、あごで下級生を使っているようでは即戦力になれねえぞ」
4年生がリーダーとしての自覚を持って自ら動くことで、下級生はそれに引っ張られて努力する。島岡は組織を上から引き上げることで全員を成長させようとし、とりわけ上級生には厳しかったという。鉄拳や愛のムチも辞さず、そうした環境から星野仙一や、ともにプロ野球でGMを務める高田繁(DeNA)、鹿取義隆(巨人)というリーダーが生まれている。
そんな伝統を受け継ぎつつ、アップデートしていくのが善波の役割だ。
「いまは鉄拳などできません。うちの伝統をもう少し優しく、わかりやすくしながら、ヒントを与えながら気づかせていく。私も4年生にはかなり厳しく言っています」
野球を仕事に直結させる
相手をけなしてでもやれ。クタクタになっても立ち上がれ。ボールに当たってでも塁に出ろ――。
そうした明治の伝統について、善波は精神的には必要と受け止めつつ、勝利至上主義を是としない。見据えるのは目の前の勝利より、その先にある成長だ。野球はあくまで自分を成長させる手段であり、結果的に目の前の勝利があると考えている。
「野球もそうだし、人生を生きていく一瞬、一瞬は、いろんな選択の繰り返しだと思います。どっちの道を行くかというときに、見たり、聞いたり、読んだりしながら、より多くの知識をつけていた方がより良い選択をできていくと思う。野球で言えば、『このケースではリードを大きくとりますか、小さくとりますか』という選択から始まって、その繰り返しが最後は勝つか負けるかになっていきます」
「だから『勝て』というより、その場面により合った考え方をしながら、一瞬の選択、技術の積み重ねを繰り返そうぜというような方向の指導になっている気がします。『これをやれ』ではなく『この方がいいんじゃないの?』くらいにして、あとは選手が選択するか、しないか。こっちとしては『近道だよ』という感覚で言うケースが多いけれど、すべてが当てはまるわけではないので」
古今東西、大半の野球部では指揮系統を明確にした方がミスを減らすことができると考えられ、監督が選手に上意下達で命じるケースが多い。上からの指示に無条件に従うことで「考えられない」選手を作り出し、いわゆる野球バカも少なくない。
しかし、善波は野球をクリエイティブに捉えることで、選手の成長につなげている。
「野球の中でも、うまくいくこと、いかないことがあります。それをどうしたらうまくいくかと目標設定して、それには長期的にはどうしようと考える。今月はどういう取り組みをしよう、今月こうなるために今週はどういうところに気をつけてやろうと目標設定して、それを行動に移して、結果がどうだったから何を改善しないといけない。これは続けて、これはやめて、やめた代わりにこういう練習をしようと繰り返しているわけです」
「その辺はまさに社会に出て、“生産性を上げるにはどうすればいいか”というところとイコールだと思います。野球を真剣にやりながら勝ちや技術の向上を目指す中でそういう訓練をしていることが、野球をやめた後の仕事に直結するというか、モノの考え方として大きく役に立つと思います。そういう意味で、野球はいい競技だなと思いますね」
大分商業高校時代にドラフト上位候補と注目された森下暢仁投手はケガもあったが、明大で順調に成長。ドラフト指名が解禁となる来年、大きな注目を浴びそうだ
“上級生は神様、下級生は奴隷”という従来型の体育会で育まれてきた人材が、戦後の日本社会で重用されてきたのは確かだ。しかし、より創造性や多様性を求められる現代では、そうしたままでは活躍の場所を見つけづらくなっている。
だが本来、スポーツは極めてクリエイティブな行為だ。各競技に主体的に取り組んでいる者たちには、グラウンドで学んだ方法論を他分野でも生かせるだけの能力がある。指導者がそうした認識を持ってアプローチしていけば、より創造的な選手、ひいてはリーダーを生み出せるはずだ。
明治大学野球部が昔も今も好人材を輩出し続けているのは、伝統の「人間力野球」をベースに、今風にアップデートを続けているからである。(敬称略)
(撮影:中島大輔)