SPEEDA総研では、SPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は好調な建設業界の現状と今後について考える。

建設投資上向くなか、新設工事は7割

国内の建設投資は全体が縮小したとはいえ、新設割合は7割近く、維持修繕比率は28%の水準だ。新設と維持修繕工事区分別の推移をみると、新設工事の減少が続く中、維持修繕工事は10兆円台で安定的に推移している。近年は新設工事、維持修繕工事ともに増加傾向にある。

非住宅も住宅に匹敵

増加傾向が続いている新設建築だが、住宅と非住宅の割合をみると、建築着工床面積では住宅が62%で非住宅が38%、これに対し建設投資では住宅が56%、非住宅が44%と差分が小さく非住宅の工事単価が高くなっている。

使途別では事務所底堅く、倉庫が伸長

その非居住用建築物の民間建築主による着工床面積を使途別にみてみる。
バブル時期に大幅な増減があった事務所、工場、倉庫に対し、唯一店舗は1999年度まで増加基調で推移した。2000年・2001年の第一次平成不況を底に、2002年初めから始まった景気回復は2008年度からの景気の急激な悪化により、2009年度に再び大幅に水準を下げた。2010年度以降は非居住全体として持ち直し傾向がみられ、事務所が底堅い動きをみせる中、倉庫の伸長傾向が顕著にみられる。
倉庫の着工床面積は、1983年度の約1,000万㎡から増加し、1990年度に最高の1,837万㎡に達している。しかし、バブル崩壊後減少傾向が続いた。2002年度の649万㎡を底に増加に転じ、2006年度の山を迎えた。さらに、金融危機後の2009年度に最も落ち込んだ後、増加傾向を辿っている。

ファンドによる倉庫建設も活発

「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」によれば、不動産業者及び運輸業による倉庫建設工事の受注額は年々増加している。さらに最近では、卸売・小売業の増加が顕著となっている。中でも、倉庫着工床面積全体に占める2万㎡以上の大規模倉庫着工床面積の割合は、大きく増加している。この背景には、ロジスティクスファンドによる倉庫建設の動向が倉庫着工の動向全体に影響を与えているものと推察される。
証券化された不動産の用途別実績をみると、近年における不動産の証券化の拡大、ファンドビジネスの好調さがうかがえる。証券化の対象となる不動産の用途も、オフィス、住宅、商業施設に加え、工場やホテル、さらに前述の倉庫にまで拡がっている。
最近では、2016年8月に三井不動産ロジスティクスパークが、今年の9月には三菱地所物流リートがJ-REITに上場している。これにより現在、物流リート(取得価額ベースで保有資産の90%以上を物流施設が占めているリート)は、6銘柄となった。物流施設は、オフィスや住宅と比べると、開発期間が短く開発費も安価な場合が多く、維持管理費についても安価に抑えられる傾向がある。また、償却期間が短く減価償却費が大きくなる反面、修繕費用は小さいというメリットも挙げられる。

大型先進物流施設は2017-18年に大量供給見込み

大型先進物流施設の新規供給量は、JLLの調査によると、首都圏では2014年に減少したものの2013年以降高い水準の供給が続いている。また、関西においては、2014年から本格化しており2017年から2018年にかけても大量供給が見込まれている。さらに、同調査によると、首都圏、関西を合わせた推移では、2012年から2018年にかけては拡大を続ける見込みだが、2019-20年には30万坪水準に落ち着くと予測されている。

ゼネコン工事利益、上昇傾向

良好な受注環境に加え、労務や資機材の価格安定を背景に、工事利益は上昇傾向にある。大手ゼネコン4社合計の連結営業利益は2017年3月期で前年同期比30.1%増の5,589億円、2018年3月期の予想は約5,070億円と前年度並みの高水準となる見込みである。足元の第2四半期の工事粗利率では、鹿島で18.1%をはじめ、大成建設、大林組、清水建設も12-14%を確保している。

注目されるコンバージョン

新設市場が堅調とはいえ、オフィス、倉庫も大型プロジェクトは既に固まりつつあり、オフィスも供給過剰との見解も囁かれる中、既存物件を活かしたコンバージョンが注目されつつある。コンバージョンは、建物の用途を変更することで、資産価値を高めることができる。既存の建物を活用するため、低コストで済み、短工期であることも特徴である。

建築規制の見直しでコンバージョン促進か

国土交通省は、既存ストックの活用促進などを図るため、建築基準法を念頭に建築規制を見直す方針である。社会資本整備審議会の建築分科会と建築基準制度部会の合同会議を開き、今後の建築基準制度のあり方について検討に入る。これにより、空き家活用やコンバージョンの促進も期待される。
特に、国内の宿泊需要を訪日外国人によるインバウンドがけん引、拡大する中、ホテルは新築の供給のほか、コンバージョンの事例が増加している。最近のコンバージョン活用では、デベロッパーのホテル事業への多角化、事業会社の自社保有不動産の用途転換による収益性拡大や福利厚生施設の収益不動産化などがみられる。

不動産デベロッパーはじめ参入活発化

不動産総合マネジメント会社のザイマックスは、2016年3月、オフィスビルや商業施設をホテルにコンバージョンするビジネスをスタート。3年後には、およそ10棟、1,500室のホテル供給計画を進めている。
直近では、ミサワホームが賃貸マンション(築32年、46室)から総客室数23室の宿泊施設「リバーサイド嵐山」への大規模リノベーションを施工した。グループで企画、設計・施工、運営までを対応する。このほか、小田急グループの不動産の企画・開発を手がけるUDSが、予備校のビルをホテルカンラ京都(京都市)に改修した。教育施設を町家スタイルのラグジュアリーホテルにコンバージョンしたことで、デザイン面でも評価されている。

需要創出・掘り起こし型のコンバーション

コンバージョンを示す統計はないため、建築物リフォーム・リニューアル調査報告(2016年度)の工事の目的を参考にみてみる。リフォーム・リニューアルの主目的は、「劣化や壊れた部位の更新・修繕」が7割以上と圧倒的に多く、「用途変更」は1.4%。母数を「リフォーム・リニューアルを実施」した件数という限定付きとはいえ、一定需要はあるとみることができる。

オフィスで多いコンバージョン

また、用途変更を実施した施設をみると、「事務所」「生産施設」「医療施設」が比較的多くなっており、3用途合計で57%を占める。
三菱商事都市開発は事業会社向けCRE(Corporate Real Estate)サポートの一貫で、事業会社が使用する産業用施設の開発・大規模改修事業に参入した。この事例からも、この分野が活性化していることがうかがえる。

まとめ:問われる永続的な建設市場

非住宅のコンバージョンに焦点を当ててみてきたが、住宅の維持補修分野であるマンションのリノベーションもここにきて、市場環境が好転しているようだ。アドバンテッジパートナーズ傘下の日本住宅再生のTOBで、2012年7月上場廃止となったカチタスも今月再上場を果たす。
また、建築分野だけではなく、土木分野でも維持修繕領域で着実に実績を伸ばしている企業がある。一貫してインフラ構造物の補修・補強に特化した事業を行っているショーボンドグループ。長期にわたる安全性を確保するために必要なリニューアル・プロジェクトが本格化しつつあり、全体の工事発注量が増加している。
2020年の数十年に1回の大きなイベントに向けて、建設関係の好景気は続く。その後の反動を懸念する向きもあるが、既述のように建築物のリノベーション市場の顕在化や土木分野でも高速道路に端を発した改修補修工事が本格化するなど新設に偏らないビジネスが期待できるだろう。