工学が教えてくれる3つのこと

従来の常識は「CEOになりたければ金融経済学の学位を取得すべき」というものだった。
だが、時代は変わった。
時価総額世界10位以内の企業のうち、7社のトップはエンジニアだ。当然ながら、そうした企業の多くは、アップルやアルファベット、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、テンセントといったシリコンバレーのテック企業である。
起業してCEOになる前、私はソフトウェアエンジニアだった。
自分で始めるまで、ビジネスの構築について知識がほとんどないことを自覚していなかった。製品や市場を構造や組織の重要性に合ったものにしておく方法など、多くのことを仕事をしながら学ばなければならなかった。
だが、エンジニアとして訓練を積んでいたことは、以下の点で役に立った。

1. 問題を見つけて解決する

テック業界での私の初仕事は、Q/Aソフトウェアテスターとしてだった。いまの私は、顧客が特定する前に脆弱性を発見しようとつねに努めているので、そういう点ではけっして変わっていない。開発中のものを含め、形状や大きさがさまざまな数十の製品「Tile」を用意している。
一日中、顧客の視点から自社製品を体験しようと努力している。顧客はどこで行き詰まっているのか? 何が正常に機能していないのか? 問題が特定されたら、その問題は解決し始める。
工学を勉強していると、問題解決は身につける最も大事なことの1つになる。問題の特定に向けた戦略や答えを見つけるプロセスは数多くある。
ほとんどのエンジニアは、子どものときにトースターやリモコン、ビデオゲーム機のような電子機器を分解した話をするだろう。母によると、私もバスルームのシンクをバラバラにしたらしい。
エンジニアが破壊的なのではない。単に物の仕組みに興味があり、分解は格好の出発点なのだ。製品の内部構造を知るのに、分解するより良い方法はない。元に戻すかどうかは、別の話だ。

2. 失敗はプロセスの一部

会社を急速に成長させたいなら、リスクが大きくても、大きな見返りが期待できることを一か八かやってみる必要がある。つまり、時々は失敗する可能性があるということだ。
すぐに失敗して、失敗から学べば、回復して成長することができる。うまくいけば、ライバルよりも速く回復して成長できる。
多くの人は失敗することに不安を感じるが、エンジニアは失敗すれば答えに一歩近づくとわかっている。
トーマス・エジソンが「失敗したことはない。うまくいかない1万通りの方法を見つけただけだ」と言ったのは有名な話だ。この名言が、発見と発明の神髄だ。

3. たえず学習する文化

私たちは、たえず激変する時代に生きている(「iPhone」が登場してからまだ10年しか経っていないと信じられるだろうか?)。ありがたいことに、エンジニアは飽くことを知らぬ学習者になるよう教育されている。
学校では2つのプログラミング言語を学ぶかもしれないが、そうしたスキルはおそらく、卒業する頃には時代遅れになっているだろう。
エンジニアは、時代のニーズに合うように新しいテクニックを身につける必要がつねにあるが、それはビジネスにも当てはまる。成功するためには、最新のトレンドを見極め、どうすれば成功するか考えて、ライバルが気づく前にそのトレンドに乗る方法を見つける必要がある。
エンジニアであることにはメリットがあるが、弱点を認識することも大切だ。たいていの工学教育課程では、マーケティングやセールス、財務、人事のような企業にとって重要な他の部門について教わらない。そういう方面の勉強をすると、謙虚な気持ちになれるはずだ。
初期に読んだ会計入門をまだ覚えている。『アカウンティングゲーム―レモネードスタンドで学ぶフレッシュ会計入門』(ジュディス・オルロフ、ダレル・ミュリス著、邦訳:プログレス)という本だ。
エンジニアからCEOに移行するカギは、謙虚でいること、そして好奇心を持つことだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Mike Farley/Co-founder and CEO, Tile、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:beer5020/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.