「現代のゴールドラッシュ」がもたらす可能性

暗号通貨やブロックチェーン技術で現在起きていることは、1990年代の「ドットコムのゴールドラッシュ」が当時どう感じられていたかに似ているのかもしれない。
当時5歳だった筆者はそのゴールドラッシュを経験していないが、今起きていることには非常に注目している。まだ知らない人のために言うと、ビットコインとイーサリアムは、急速に世界を変えつつある。古い産業が壊されてきている。まずはじめは通貨だ(あらゆる産業の中で最も基礎的な部分ではないだろうか)。
ビットコインや暗号通貨がただの流行りものにすぎないと考える人は、1990年代に「インターネットなんてただの流行りものだ」と考えた人と同類だ。
こうした革新的技術が興味深いのは、すべてが同じように将来成功する兆しを見せながら、同じ反応を引き起こすように見えることだ。かつて、インターネットを介して写真を送り合うなんて「突拍子もない」し、「ありえない」と考えられていた時代があったことを覚えているだろうか。
筆者の家に残っている1990年代初めのホームビデオに面白いものがある。叔父が、買ったばかりのノートパソコンを父に見せながら、「そのうち、ボタンを押すだけでデジタル写真が相手のノートパソコンに送られるようになったりして」と冗談を言っているのだ。
そして2人は「そんなのありえないよ」とでも言うように声を立てて笑っている──。だが、わずか数年後にそれは現実のものとなった。
同じことが、今日ブロックチェーン技術で起きている。1990年代におけるインターネットの概念と同様に、非常に高密度で一般への説明が難しいため、メインストリームでの検討すべきトピックになるのはこれからだ。
しかし、気をつけて見ている人には、ブロックチェーンが非常に古くからある大規模な産業を破壊する可能性を十分に持っていることがわかる。たとえば、銀行、製薬、保険、選挙、エンターテインメントなどだ。

信頼と透明性がロイヤリティの分配を適正化

ブロックチェーン技術とエンターテインメント産業に関して、筆者が興味を持っていることがある。
メジャーレーベルと契約したバンドが数年後、「何百万ドルものロイヤリティが支払われていなかった」として、その会社(たいていはマネージャーも)を訴えることになった不名誉なケースが、どれほどたくさんあっただろう。このようなことは、エルビス・プレスリーの時代から見られた。
ブロックチェーン技術で面白いのは、「スマートコントラクト」というものを使うことにより、こうした契約がブロックチェーンを介して自動で実行されるということだ。
あるバンドがレーベルと契約したとする。売上の70%をバンドが、30%をレーベルが受け取るという契約内容だとすると、1ドル売り上げるごとにこの割合で自動的に分配される。もちろんすべてがブロックチェーンで行われることが前提となる。
もはや、いくら売り上げていくら分配するかを人間が計算することはない。契約通りに実行されるかどうかを人任せにすることもない。すべてはブロックチェーン上で、計算によってはじき出される。
ブロックチェーン技術を支える考え方は「信頼」であり、「透明性」が特徴だ。すべてがオープンになっていて、ブロックチェーンを通して処理されるものは何であれ、ブロックチェーン上の誰もが、見て確認することができる。
このコンセプトを理解すると、なぜ大きな産業にとってブロックチェーンが脅威となるのかがわかる。閉ざされた扉の向こうではたくさんのことが起こっているので、すべてを公に晒すことは、どう控えめに言っても革新的なのだ。
ブロックチェーン技術が音楽業界を揺さぶっているもう1つの側面は、デジタル・プラットフォームでのロイヤリティの分配だ。
現状では、アーティストはシステムの犠牲になっている。もし彼らが「Spotify」や「Apple Music」「Tidal」などの巨大なユーザー基盤にアクセスしたいなら、彼らの音楽を聴いてもらうためには、1ドルごとに何ペニーかを受け取るという分配方法を受け入れなければならない。
こうしたストリーミング・プラットフォームでアーティストが稼ぐ金額は、1990年代のアーティストがCDの売上で稼いでいた金額とは比べ物にならない。

売上の98%を受け取れるプラットフォーム

ブロックチェーン技術を使って、この問題に取り組もうとしているスタートアップがある。オーパス(OPUS)というこの会社は、自分の楽曲をアップロードしたアーティストが、売上の98%を受け取ることができるというストリーミング・プラットフォームを提供している。
ピンとこない人のために説明すると、98%というのは法外な数字だ。たとえば、Apple Musicでアーティストが自分の曲を売ったときに得られる割合のはるか上を行っている。
オーパスの根底にあるのは、音楽業界の3つの大きな問題、すなわち、売上の分配、検閲、透明性を解決するという考え方だ。ここに、ブロックチェーン技術を使うことによる利点がある。なぜなら、これら3つのすべてを実現できるからだ。
売上の分配は、アーティストにロイヤリティの98%を与えることで解決するし、検閲の問題は、権利がアーティストの手に残ることで解決できる。レーベルはもはやアーティストから売上を隠すことができないのだから、透明性も実現可能だ。
ブロックチェーン上で行われるので、こうしたパラメーターのどれも、あとから変えることはできない。ほかのサービスでは、アーティストの取り分を減らす決定が下される可能性があるかもしれないが──。
オーパスは、アーティストの権利を強化するというビジョンに向けて努力を続けるため、現在ICO(Initial Coin Offering)を通して資金を調達している。
デジタル音楽の現状を見ると、次なる論理的なステップは産業の分散化だと考えられる。
インターネットで最も人気のあるストリーミング・プラットフォームの1つ「SoundCloud」でさえ、急速に資金が不足してきていることを発表し、(そういう選択をしたというよりは必要に迫られて)買収先を探しているという。
アーティストには、聴衆から金銭を得る方法がないのだ。だが、オーパスのような仕組みがあれば、アーティストには、自分の音楽を売り込むという重労働はあるとはいえ、努力すればちゃんとした報酬が得られるだろう。
ブロックチェーン技術は、世界中の産業におけるビジネスのやり方を根本的に変えるだろう。これからの動きにぜひ注目してほしい。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Nicolas Cole/Contributor, Inc.com、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:golubovy/iStock)
©2017 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.