サッカー人生を豊かにする「失敗への投資」

2017/7/11
5月の上旬。フランクフルトでのシーズン終盤、連戦の合間のトレーニング中、相手もいないフリーの状態でクロスボールを上げた瞬間、膝の中でまるでプレート大地震が起こったかのように軸足が揺れ、地面に崩れ落ちました。
以前のように軽く膝を伸ばしたか、ひねったかな、と安易な思考で立ち上がり歩き出した瞬間、いつもとは違うことに気付きました。歩くと痛い上に、膝の中で構造的に何か噛み合っていない感覚で、とてもではないけどトレーニングを続行できる状態ではありませんでした。
いつもだったら多少の痛みは我慢して、痛がる素振りも見せずに練習を続行するのですが、このときばかりはそうもいかず、自ら練習を離脱するという――自分でいうのもおかしな話ですが――まれに見る行動に出ました。
さすがのチームメイトもこれにはびっくりした様子で、いつも痛がらない私が痛がって、しかも練習を離脱したので、ただごとではないと思ったようでした。
自分の身体と対話し、理解する
MR検査後の診断結果は、内側半月板損傷。
スポーツ選手によくあるケガの一つでもありますが、体重が加わった状態でのひねりや衝撃によって損傷が起こるケガとされています。
今回の私の場合は、連戦やシーズン終盤における疲労の蓄積により重心の高さが胸の位置からどんどん下がり、意識が身体の下の方に集中し、内臓の過度の疲労も併発し外側に筋肉が引っ張られ股関節がまったく機能せず、いつもだったら蹴った瞬間に抜けるはずの軸足が抜けませんでした。
パーソナルトレーナー(以下PT)と話をして、これが主たる原因ではないかという結論に至りました。
受傷直後には日本にいるPTにも処置の指示を仰ぎ、素早く適切な処置をしたおかげで腫れも出ず、負傷した日に妹が日本から来たことも幸いして、受傷後3日間、かなり長い時間膝の周囲のマッサージ処置を施してくれました。
受傷した次の日は痛みが増しましたが、それ以降は日に日に痛みが軽減され、不安定感も徐々になくなり、一度も悪くなることはありませんでした。
フランクフルトのドクターからは、手術が必要だという診断を受けましたが、私はその必要性をまったく感じなかったのと、さまざまな人に意見を聞き自分なりに考え、手術をしない決断をそのときすでに下していました。
その時点でシカゴ・レッドスターズへの移籍の話もあり、ほぼ決まっている状態だったので、とにかくサッカーできる状態に少しでも戻すことに努めました。
このケガによりメディカルチェックが通らず、一時はシカゴとの契約も危ぶまれましたが、日本とシカゴの往復でバタバタしながらも協議の結果、手術をしない方向で落ち着き、契約できることになりました。
現在もリハビリ中ですが、痛みの原因は半月板そのものではなく、周りの筋肉や組織に問題で生じて痛みや不安定感が出ているのではないかと感じています。
構造的な欠陥はもちろんあるのですが、しっかりと周りの筋肉と組織が機能していれば、痛みや不安定感を感じずにプレーすることは可能です。
「痛みが生じる原因は、周りの組織が機能していないから」——これが思考の前提条件にあると、身体の機能していない部分を探して機能させるだけで、痛みを軽減させられることが感覚的にわかってきました。
機能させると一言で言っても、24時間常に機能する状態をつくることは容易ではなく、機能している状態をできるだけ脳に覚えさせる作業が必要になります。
例えば、日常生活で身体に染み付いている動作について考えると、1日のうちにその動作を行う頻度が多いと思います。いわゆる「癖」ってやつです。要するに、頻度が高ければ無意識に身に着いてしまうということです。
この原理を利用して、ストレッチや筋肉をほぐしたりして組織を循環させて、固まっているところを緩めて動かして機能させるという作業を、1日のうちに何度も行います。
毎日自分の身体を触りながら対話をしていると、どういうときに痛みが生じて、どういう処置をすれば痛みがなくなるかが次第にわかってきます。
もちろん、専門的知識を持っている人に協力を得ながらですが、自分の感覚としてしっかり学習することのほうが何倍も大事なわけです。自分の身体を知ろうと努力することは、パフォーマンスの安定や向上にもつながるからです。
だからケガなどで構造上の欠陥があったとしても、構造を直接元に戻すことより大事なのは、身体を機能させられるかどうかです。
「機能と構造」の理解が必要
これはケガの痛みだけに言えることではなく、サッカーに例えると、例えばシステム(=構造)がしっかりしていてもチームとして機能していないという現象は、日本サッカーだけに限らず起こっているように感じます。
よくこの状態に関して「うまくいっていない」という表現を使うと思いますが、まさしくこれは「機能していない」という状態です。
監督やグラウンドの選手たちは、機能していない部分を見極め、そこに処置を施すということを行っています。その際、「機能している状態」を組織全体で共有しておくことが必要です。
要は、身体で覚えている状態までトレーニングを繰り返し行う、ということです。
再現性を高めることにもつながると思いますが、「機能」主導でアクションを起こした結果、「構造」(仕組み、システム)ができ上がるので、どうしたら組織が機能するかという視点で考えることが、組織を率いるリーダー(監督)にとって必要な力だと思います。
ビジネスに置き換えても、同じことが言えるような気がします。
先月、私事ですが会社を立ち上げました。サッカー選手として以外のキャリアをスタートさせ、自分自身の学びの場も増やしていきたいと思っています。小さな会社ですが、サッカーで学び体系化したことをビジネスの場でも活かしていき、直近のメイン事業であるスポーツ・サッカーアカデミーの現場にも活かしていけるよう努力したいと思っています。
「大人は恥ずかしさや痛みから学ぶ」——サッカー界の先輩に言われたこの言葉が胸に突き刺さりました。
ケガの痛みもそうですが、心の痛みでも学ぶことは多いと感じます。
皆さん、最近、心に傷を負っていますか?
もちろん、あえて負うものではないと思いますが、みんなの前で失敗して恥ずかしい経験をすることって、大人になるとどうしても少なくなりがちです。
人生は終わりなき学びの旅。
「失敗」を経験するための投資は、人生をより豊かにするためにも欠かせないのではないかと思います。
(写真:アフロ)