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銀行の支店業務の電子化で客の待ち時間は短くなるか

浪川攻・金融ジャーナリスト

 銀行業界のデジタル革命がいよいよ本格化する。銀行業界は現在、マイナス金利政策のもとで収益力の悪化に直面し、採算性の改善を迫られている。その一方で、顧客サービス向上への要請は高まるばかりだ。従来のビジネスモデルでは両立しにくかった「採算性の改善」と「サービス品質の向上」という二つの課題の一挙解決に向けて、最新IT技術を生かした業務改革が始まる。

 三井住友フィナンシャルグループが最近明らかにした中期経営計画はそれを如実に物語っている。なかでも、欧米の主要銀行との比較で高コスト構造が指摘されてきたリテール分野(支店での個人客との取引)では目を見張るものがある。同計画では、店舗改革として窓口業務のデジタル化を行い、2019年度までに430カ店で「内部プロセスのSTP化を実現する」(同グループ幹部)と言う。

 「STP化」とは何か。STPは「Straight Through Processing」の略だ。顧客から注文を受けた後に手作業で行われてきた決済などの事務を、データ入力から電子化することによって人手を介さずに処理する手法のことである。

証券業界の話だった「STP化」を銀行でも推進

 STP化はこれまで、証券業界で使われてきた言葉だ。株式取引は売買の発注から3営業日後に決済されてきた。発注から決済までの間に取引相手が倒産するなどのリスクを伴っていた。このリスクを軽減するために、発注から決済までの期間を、人手を介さず電子的に行うことで、できる限り短縮させようとする動きを「STP化」と呼んでいる。

 このSTP化を、銀行窓口の事務処理に関しても進めることを中期経営計画に盛り込んだのだ。わが国の銀行界では初めてのことと言っていい。

 銀行の支店の窓口業務は現在、「フロント」「ミドル」「バック」の3層構造になっている。窓口に来た客とやり取りをする「フロント」、フロントの業務をサポートし、間違いがないかチェックする「ミドル」、それに基づいてデータを打ち込む「バック」だ。

 この3層構造をフロント部分だけを残し、集約しようというものだ。窓口では預金預け入れや引き出し、送金などさまざまな業務が行われる。これらをITの最新技術でフロントでデータ入力し、電子化することによって、「ミドル」「バック」の業務を事務センターで人の手を介さずに自動的に行う、という業務改革である。

支店の「ミドル」「バック」業務を電子化

 「ミドル」「バック」の電子化によって、銀行の店舗のレイアウトが大きく変わることが予想される。店舗が小型化するなら、コストは大幅に削減される。従来の店舗の規模を維持するのであれば、事務フロアが縮小して顧客フロアが広がるに違いない。

 顧客フロアを広げる場合は、そのスペースをどう生かすか。銀行はコスト削減と顧客サービスの向上を迫られている。例えば、「銀行の支店にいけば、金融サービス以外のさまざまなことができる」という方向を徹底する考え方もある。

 ペーパーレス化も進むとみられる。同グループはそこまでは言及していないものの、預金通帳や、帳票類のペーパーレス化が進んでいくと考えられる。銀行の事務処理を行っている事務センターのあり方も見直されるだろう。

 そして、窓口の事務処理の効率化で、来店客の待ち時間が大きく短縮化されることが期待される。一般には抽象的で理解しにくかった銀行のデジタル革命の一端が、このような形で具体化する局面に入ったと思われる。

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 金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は、原則として週1回の掲載です。

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金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。