海外で戦う日本人女子選手が創出できる価値

2017/5/9
バルセロナがベスト8で姿を消した欧州チャンピオンズリーグ(CL)。
欧州の勢力図は少しずつ変化を見せてきているようにも感じます。
現在、準決勝がちょうど行われていて、レアル・マドリード対アトレティコ・マドリードのスペイン勢同士の激突、逆山のユベントス対モナコ。この4チームが準決勝に残ることを多くの人は予測できなかったかもしれません。
男子の盛り上がりの陰で、女子のCLも行われていることは皆さんご存じでしょうか?
まだ知らない人も多いかもしれませんが、女子も男子と同様にUEFA Women’s Champions League (女子チャンピオンズリーグ)があり、チーム数が少ないことや、まだ欧州内でもレベルの差が激しいこと、さらに財政的な理由も含め、女子はベスト32のトーナメント戦からスタートします。

CLで活躍してきた日本人選手

女子チャンピオンズリーグとして正式にスタートしたのは2009-2010シーズンからと歴史は浅く、それまでは2001-2002シーズンからUEFA Women’s Cupとしてヨーロッパのクラブナンバー1を決める大会が行われていました。
現在は、各国の出場枠は基本的に2チームで、国によっては出場枠が1。さらに出場枠がないところもあり、それに該当する国の代表チームは予選を行い、その予選を勝ち抜いたチームが本戦に出場できます。
今シーズンは、ドイツ勢(ヴォルフスブルク、バイエルン・ミュンヘン)がベスト8で姿を消し、10年ぶりにベスト4進出を逃しました。
さらに、バルセロナがスペイン勢として初めてベスト4進出を果たし、準決勝でフランスの強豪PSGに敗れはしたものの女子CLに新たな歴史を刻みました。フランス勢とドイツ勢のほぼ2強状態が続いていましたが、その勢力図も少しずつ変わってきています。
話は男子に戻りまして、今シーズンも男子の日本人選手のCLでの活躍が注目されていました。
なかでも、香川真司が所属するドルトムント、岡崎慎司が所属するレスターがベスト8に進出。残念ながら準決勝進出はなりませんでしたが、この2選手以外にもこれまでも多くの日本人がCLの舞台で活躍しています。
ドイツの先駆者である奥寺康彦さんを皮切りに、その後も稲本潤一、小野伸二、鈴木隆行、中村俊輔、長谷部誠、本田圭佑、内田篤人、長友佑都、宮市亮、柿谷曜一朗、宇佐美貴史、清武弘嗣といった15人の日本を代表する選手たちがCLのピッチに立っています。
最多出場は内田篤人の29試合、最高記録は内田がシャルケで残したベスト4、最多得点は3ゴールの本田圭佑と香川真司となっています。

4人の女子選手がCL決勝に

一方、女子の日本人選手はというと、これまで計7人の選手がWCL(UEFA Women’s Cup含む)のピッチに立っています。
<WCLに出場した日本人選手>
安藤梢(デュースブルク、フランクフルト)21試合2得点
永里優季(ポツダム、ヴォルフスブルク、フランクフルト)32試合21得点
大滝麻未(リヨン)5試合1得点
熊谷紗希(フランクフルト、リヨン)33試合5得点
田中明日菜(フランクフルト)1試合0得点
永里亜紗乃(ポツダム)7試合3得点
山口麻美(ウメオ)12試合0得点
※2017年5月9日現在
最多出場は熊谷紗希の33試合で、熊谷の所属するリヨンは今年6月1日に行われる決勝に駒を進めており、2連覇をかけて同じフランスの強豪PSGと対戦します。
先日、所属のリヨンと3年契約を結んだことを発表した熊谷は、2015-2016シーズンに同チームでヴォルフスブルクを下していますし、今後もCLでの試合数を伸ばしていくことは間違いないといえるでしょう。
今季の女子CL準決勝で、熊谷紗希の所属するリヨンはマンチェスター・シティに勝利
日本人が決勝の舞台に立ったのは熊谷が初めてではなく、最初に決勝(2007-2008シーズン)の舞台に立ったのは、当時スウェーデンのウメオに所属していた山口麻美。
彼女は日テレ・ベレーザでキャリアをスタートさせてからアメリカへの留学を経て、ウメオへ移籍。決勝では惜しくもフランクフルトに敗れたものの、日本人女子選手として初めてヨーロッパの大舞台に足跡を残しました。
その後、2010年1月に安藤梢が当時ドイツの強豪であったFCR デュースブルクに、同じタイミングで私もトゥルビネ・ポツダム に移籍。
同年とその翌年のWCLの準決勝で対戦し、日本人対決として注目を集めました。
WCLに名称が変更されてからは、これまで4人の日本人が決勝のピッチに立っており、4人とも優勝を経験しています。
<WCL決勝に出場した日本人>
2015-2016 熊谷紗希(リヨン)優勝
2014-2015 安藤梢(フランクフルト)優勝
2012-2013 熊谷紗希(リヨン)準優勝
2011-2012 大滝麻未(リヨン)優勝
2011-2012 熊谷紗希(フランクフルト)準優勝
2010-2011 永里優季(ポツダム)準優勝
2009-2010 永里優季(ポツダム)優勝
このように、日本人女子選手はヨーロッパでも高いレベルで活躍しています。
ヨーロッパを舞台に日本人がプレーし始めるようになったのは2011年W杯で優勝する前からですし、2000年には澤穂希さんが先駆者としてアメリカのアトランタ・ビートに移籍を果たし活躍。日本の女子サッカーといえば「SAWA」という認識が世界にも広まりました。
そして、2009年には宮間あやがアメリカへ渡り、彼女もアメリカでの評価を高めました。
その後もヨーロッパやアメリカに舞台を移す日本人選手は増え、現在では代表選手以外でも海外でプレーしている選手が多数います。
去年の10月にオーストラリアのキャンベラ・ユナイテッドFCに移籍し、現在は中国2部リーグの杭州女子足球倶楽部に所属しているのが、なでしこジャパンでもプレー経験の豊富な近賀ゆかり。彼女は女子の日本人選手として新たな道を切り開いたパイオニアといってもいいと思います。
近賀はイングランドの強豪アーセナルでのプレー経験もあり、その後INAC神戸に戻ってからも海外志向が強く、昨年行われたリオ五輪予選のときには「チャンスがあればもう1度海外でプレーしたい」という話をしていたので、昨年の10月にキャンベラへの移籍が発表されたときは、思わずうれしくなって連絡してしまいました。
私の知っている限りですが、現在は下記の日本人女子選手が海外でプレーしています。
<海外でプレーする主な日本人女子選手)
安藤梢(SGSエッセン)34歳
近賀ゆかり(杭州女子倶楽部)33歳
川澄奈穂美(シアトル・レイン)31歳
永里優季(フランクフルト)29歳
宇津木瑠美(シアトル・レイン)28歳
川村優理(ノースカロライナ)27歳
堂園彩乃(テネリフェ)27歳
高良亮子(LSKクビンネル)27歳
熊谷紗希(リヨン)26歳
千葉望愛(サラゴサ)25歳
山本摩也(バレンシア)24歳
横山久美(フランクフルト)23歳

日本人のブランドを背負って参戦

現在、これだけの選手が海外でプレーしていますが、直近の試合で日本代表に選ばれていない選手がほとんどで、こうした選手が海外でプレーしているということも、日本ではあまり広く認知されていません。
選手たちの多くは自ら扉を開き、異国の地で一人のサッカー選手として勝負しています。
少なくとも日本人であるということで、日本人という「ブランド」を背負っていますし、そのような意識があるということを、海外生活を経験している多くの日本人が口にしています。
日本代表選手でなくても日本を背負って戦っている選手たちに対する日本のメディアの注目度はとても低いのが現状ですが、海外で戦っている選手たちの声を届けることで勇気をもらったり、元気づけられたりする方は多い気がします。
もちろん、注目度の低さや発信力の弱さは、選手たちのビジネス意識の低さであったり、女子サッカーがほとんどビジネスとして成立していない背景もあると思います。
海外で一人のサッカー選手として、人として、日本人として勝負している女子サッカー選手たちが意外と多くいるということを、このコラムでまずは知っていただければ幸いです。
これから先、私たちのような選手が所属クラブという枠を超えて、社会に対してどのような価値を提供していけるかは、マネジメントする側の意識もそうですが、本人たちの意識改革が必要になってくると思います。
一人でも多くの子どもたちが海外を目指そうと思えるようなきっかけを与え、その夢をサポートできる環境をつくり、海外で活躍する女子選手がもっと増えるよう呼びかけていくことも大切な活動の一つだと思っています。
日本の女子サッカーが強くなるためには、海外で活躍する選手を増やして世界基準の感覚を身につけ、語学や環境面を含む日常レベルから世界を相手に戦う勝負強さを身につけ、人間力を磨くことが必要になってくると思います。
私自身はもともと技術的にそこまで能力の高い選手ではないので、海外に出なければドイツやアメリカ、フランスやブラジル相手にゴールを奪える選手になっていなかったと思います。
W杯やオリンピックで相手にするのは、同じ日本人ではなく外国人の選手。日頃からそういった選手たちを相手に戦うということは、世界との差を縮めるためのキーファクターになり得る要素の一つだと思います。
4年に1度だけ注目し、そのときだけ盛り上がることも悪くないと思いますし、大半の人がそうだと思います。
4年に1度盛り上がるだけでも十分だと思います。
選手がレベルアップを目指し日々向上するために、結果を出すために努力をするのは当たり前のことです。
これからは、特に海外でプレーしている選手たちがより視野を広げて物事を考え、自分が関わっている競技をビジネス視点で考え行動を起こしていくことが求められてくると思います。
そして、女子サッカー選手だけに限らず、マイナースポーツの選手で海外を拠点にチャレンジしている人たちがより多くの人に認知され、より多くの人から応援される社会になればと願っています。
(写真:Manchester City FC/AP/アフロ)