米国カリフォルニア州で、リチウム電池を集積した電力貯蔵設備が3カ所稼働する。ついに、バッテリーを送電網に接続する時代がやって来た。

AES、アルタガスの設備も稼働

テスラ・モーターズは、大量の小型電池をつなげれば化石燃料に代わる発電装置になり得るという壮大な賭けに打って出た。
同社によるこのアイデアには、同社がネバダ州リノ近郊に50億ドル規模の巨大電池工場を建設する理由づけとなってきた。ただし、実際の送電網規模で電池が使用された例は、これまでは数件の実験プロジェクトのみだった。
その現状が一変しようとしている。
テスラとAES、そしてカナダのアルタガス(Altagas)が建設した3カ所のバッテリー電力貯蔵設備が、カリフォルニア州南部でほぼ同時期に正式稼働するのだ。
いずれも、これまで建設された同様の設備で最大規模となる。3カ所を合わせると、2016年に全世界で設置された同設備の15%に相当する。
近々、テープカットの式典が盛大に行われるだろう。しかし、テスラのJ・B・ストローベル最高技術責任者(CTO)は1月27日のインタビューで、この革命は始まったばかりだと指摘している。
「すべてが進むスピードは時として信じ難い。当社の電力貯蔵設備は、人類最高のスピードで成長している」

天然ガス漏れ事故への対応策

今回のプロジェクトは、ロサンゼルス郊外ポーターランチにあるアライソ渓谷で2015年10月に起きた天然ガス漏れ事故への対応策として委託された。
2016年2月に流出源が閉鎖されるまで、何万トンものメタンが大気中に放出された事故だ。
電力会社サザン・カリフォルニア・エジソン(SCE)は、冬期の停電リスクを軽減するため、電力貯蔵設備の設置契約を急いだ。一刻の猶予も許されなかった。
2月第1週の稼働開始を目指し、3つのプロジェクトすべてが6カ月以内に建設を完了。テスラはとくに迅速に動き、以前なら数年かかっていたプロジェクトをわずか3カ月で完了させた。
「24時間体制で工事を進めた。プレハブで寝泊まりし、午前2時に試運転を行った」とストローベルCTOは振り返る。「世界を変えるには、これくらいのペースで動く必要がある」

テスラの野望「ギガワットの実現」

今後もし風力や太陽光が発電の主流になれば、バッテリー電力貯蔵設備が重要な役割を担う。しかし、この業界は10年足らずの歴史しかなく、まだ規模が比較的小さい。
朝晩の「ピーク需要」に対しては、これまで天然ガスによる火力発電所などが使われてきたが、これと比べてバッテリー電力貯蔵設備はごく最近まで何倍ものコストがかかった。
しかし、リチウムイオンの価格は急激に下がっており、すでに2014年と比べて半額近くになっている。電気自動車の需要が拡大したためだ。その結果、電力貯蔵設備で使われるものと同じバッテリーを新たな規模で製造する必要が生じている。
カリフォルニア州は電力会社に対し、2020年までに少なくとも1.32ギガワット(GW)のバッテリー電力貯蔵設備を建設し、テストを開始するよう求めている。参考のために、2016年時点の市場規模は全世界を合わせても1GWに到達していなかった。
カリフォルニア州の目標は壮大だが、テスラの野心にはかなわない。
テスラは2020年代が終わるまでに、独力で15GW時のバッテリー電力貯蔵設備を実現しようとしている。これは原子力発電所が何基か不要になるほどの規模であり、ピーク需要にも対応できる。
ただし、あまりに楽観的だという指摘もある。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)のセキネ・ヤヨイは「手放しで信じることはできない」と話す。市場はたしかに「かつてないほどのスピードで動いているが、まだギガワットの規模に達していない」

残るコストと採算性の問題

バッテリーのコストや電力会社の採算性を評価するのは難しい。企業は価格に関する情報を公開するのに消極的で、経費は非常に変動が大きいからだ。
それでも、バッテリー電力貯蔵設備は天然ガスによる火力発電所よりはるかにカーボンフットプリントが小さく、環境汚染もない。また、その即時性のおかげで、ほかのどの技術より有益なサービスを提供できる。
バッテリー電力貯蔵施設の計画は少数だが増えており、そうした計画では最も経済的な選択肢とされている。
しかしBNEFの分析によれば、カリフォルニア州のさらに大規模なプロジェクトで利益を得るには、コストを半分に抑える必要があり、10年以内にそれを実現できる可能性は低いという。具体的には、バッテリー電力貯蔵設備の設置費用をキロワット(KW)時当たり275ドル程度まで抑えなければならない。
テスラは価格に関する情報を公開していないが、ほぼ同じ規模のアルタガスのプロジェクトは少なくとも4000万ドル、KW時当たり500ドル以上かかっていると見られている。
ただし、テスラがリノに建設した工場の規模を考えると、同社が価格の新基準をつくりだし、業界全体がそれに追随せざるを得ない状況になる可能性はあるとセキネは分析する。
今回の発表は間違いなく重要な節目だが、まだ市場は成熟していない。ストローベルCTOも、テスラにおけるバッテリー電力貯蔵施設の売り上げが自動車の売り上げと切り離すことができるほど大きくなるには、おそらくあと数年はかかるだろうと述べている。

天然ガス火力発電所が消える日

それでも、天然ガス火力発電所はやがて廃れ、バッテリーの時代がやって来ようとしている。そう予想するのは、AESのバッテリー電力貯蔵施設担当プレジデント、ジョン・ザフランシックだ。
エネルギー貯蔵の先駆者であるザフランシックは2008年以降、採算ぎりぎりのバッテリー電力貯蔵プロジェクトをいくつかまとめ上げてきた。2008年当時、バッテリー価格は現在の10倍だった。
AESは今回、30メガワット(MW)/120MW時規模のバッテリー電力貯蔵施設を完成させ、現在最終テストを行っている。テスラの施設は20MW/80MW時規模だ。
AESはさらに、2021年完成予定の長期プロジェクトも進めており、そちらの規模はテスラによるプロジェクトの5倍にも達する。10年前には想像すらできなかった大きさだ。
ザフランシック氏は1月27日のインタビューでこう述べている。「世界最大規模のエネルギー貯蔵プロジェクトに携わるのはこれで5回目だ。毎回、こう言われた。『これはあくまでテスト。間違いなくテストだ』と」
「次の大きなテストは、これをどうやって広くスケールアップするかだ」

テスラとAESの最大の違い

テスラとAESの最も大きな違いは、テスラが自社製造の部品を使用している点だ。
テスラは、ネバダ州リノでパナソニックと共同運営する「ギガファクトリー」で電池を製造しているほか、モジュールやインバーターも自社製だ。このように垂直統合することで、コスト削減とシームレスなシステムの実現につながるとテスラは述べている。
一方、AESはサプライチェーンを多様化することで、最安値や最高の技術を探すことができると主張する。電気自動車業界でも同様の議論が起きている。テスラは、前例がないほど高い割合で自前の部品を使用しているのだ。
今回の設置契約の大部分にかかわるSCEのロン・ニコルズ社長は、面積や排出量、時間の制約がないプロジェクトではまだ、価格面で天然ガス火力発電所が勝利する状況にあると話す。ただし、5年後には状況が変わっているかもしれないとも予想している。
「長期的には、大量の電池に取って代わられるだろうか。それが見えてくるには、もう少し時間が必要だ」
協力: Dana Hull
原文はこちら(英語)。
(執筆:Tom Randall記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:jazz42/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.