「クラウドロボティクス」がもたらす進化と未来

2016/10/6

ロボット同士が学習し合って連携

クラウドコンピューティングはかなり一般的なものになったのだろう。ソフトウェアのパッケージ製品を買う代わりに、クラウドから提供されるサービスで利用することなどは、もう当たり前になった。
スマートフォンのOSやアプリが刻々とアップデートされることによって、ごく一般のユーザーにとってもクラウドはなじみ深いものになっている。そして、じつはロボットにも「クラウドロボティクス」というコンセプトがある。
クラウドロボティクスが意味するところは、じつに多様だ。
ロボットの処理能力や画像やマップなどのデータをクラウドから引き出して利用するといったことから、複数のロボット間で学習したことを共有するといったこと、また不特定多数のロボットから得られたデータを元にAIを取り入れてその機能性を向上させていくといったことが含まれる。
いずれにしても、今方々で開発が進められているIoTからわかるように、これからのモノはそれ独自で存在するのではなく、インターネットに接続されることでさまざまな恩恵を受ける。それと同じ考え方がロボットにもあてはまるわけだ。
IoTと異なるのは、ロボットには複雑な機能が求められるため、何をクラウド化するのか、しないのかといった点でいろいろな判断が必要になることだろう。

概念を生み出したトヨタ・リサーチ・インスティテュートCTO

「クラウドロボティクス」という概念の生みの親は、ジェームス・カフナーというロボット研究者である(写真はRoboBusiness 2016でのカフナー氏および同氏の講演スライドより)。
カフナー氏はカーネギー・メロン大学でロボット研究を行い、その後グーグルで自律走行車やロボットの開発に携わった。現在はトヨタがシリコンバレーに設立したAIとロボットの研究開発組織であるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)でCTOを務めている。日本で研究を行っていた時期もある人物だ。
クラウドロボティクスに似たことは、もうすでに現実のものになっている。テスラのオートパイロット機能やグーグルの自走車グーグルカー、そしてこちらも開発に加速がかかっている後付け自走用ユニットなどの仕組みに見られる。
テスラはオートパイロット機能を実際にオンにする以前に、そのハードウェアとソフトウェアを搭載したモデルの走行記録から多くのデータを得ていた。グーグルカーも、これまで合計で200万マイル近くの走行実験を重ねてきたといったことをアピールしている。
これらの数字は、ただ路上を走ったというだけでなく、周辺の環境の中で横断歩道や信号、建物をどう見分けたのか、周りを走る他車の動きにどう対応したかといった、あらゆる場面とその対応がデータとなっているということだ。
そして、このデータで学習が行われ、クラウドでつながった他車がさらに進んだ知恵をもらう。

「知恵の共有」と「独自の開発」

クラウドロボティクスは、この車の部分をロボットに置き換えて想像すればわかりやすい。走り回る車の代わりに、家の中で用事をやってくれるロボットもクラウドにつながっているという絵だ。
ただ、車に求められる知恵とロボットに求められる知恵は異なる。ロボットならば、目の前にある容器が何かを認識してそれをつかむ方法を判断するとか、向こうにいる人間に向かってどのようにモノを運べばいいかとか、車とは異なる細々とした知識を学ぶ必要があるわけだ。
だが、クラウドロボティクスを突き詰めていくと、未来のロボットはメーカー各社によって別々のクラウドにつながっているということも考えられる。
この点をカフナー氏に尋ねてみたところ、同氏は安全性、アクセス、環境の認識などはパブリックなクラウドで共有できれば理想的だと語った。ロボット全体がクラウドでオープンに共有すべき知恵と、メーカー独自の開発力を発揮すればいいところをうまく見分けられればよいということだろう。
ロボットの開発には時間がかかる。共有と競争をうまく組み合わせ、ロボット全体の開発を助けるようなクラウドを来るべき時代にはぜひ作って欲しい。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)