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【SPEEDA総研】衰退する銭湯と拡大するコインランドリー

2016/9/24
昔は風物詩でもあった銭湯は衰退の一途を辿り、最盛期の5分の1まで減少した。ただ、非常に厳しい事業環境に置かれながらも、デザイナーズによる新感覚な銭湯や新サービスで人気を博す銭湯もみうけられる。スーパー銭湯は国内の根強いニーズはもとより、中国でも普及しそうな気配である。一方、銭湯と親和性が高いコインランドリーも、過去数回のライフサイクルを経て、ここ数年店舗数が伸長しており、土地活用ビジネスとしても注目されている。

銭湯と逆にコインランドリー拡大

浴室と洗濯機は1960~1980年にかけてどちらも普及が進み、現在の世帯保有率はいずれも95%を超える。しかし、銭湯を含む温浴施設とコインランドリーの市場は逆の進路を辿っている。

まず銭湯は1970年代後半から減少の一途、ヘルスセンターなどの大型温浴施設は1980~1990年代に拡大するものの、2000年以降は横ばいにとどまる。

対してコインランドリーは2000年代後半から再び拡大基調となっている。

以下、それぞれの背景をみていきたい。

 銭湯とランドリー-01_銭湯軒数

 銭湯とランドリー-02_ランドリー店舗数_色修正

公衆浴場に始まり、銭湯が普及

一般大衆が湯に浸かって入浴する施設、いわゆる「公衆浴場」は、現在から遡ること400年以上前の1591年に江戸の銭瓶橋都のほとりに永楽1銭で「湯屋」を開業したことから始まったと言われる。

終戦後、市民の生活衛生施設として都市部を中心に厚生労働省の定義するところの一般公衆浴場(以下、銭湯)が登場した。都市部への大量の人口の流入とともに、1975年頃ピークを迎え、その数は2万3,000店に達した。都市部の一般庶民には家には風呂が無いのが一般的な時代、銭湯は1970年代まで30年近くの間、盛況が続いた。

その後、高度成長期に入り、可処分所得の増加とともに自家風呂普及率が高まり、銭湯は徐々に衰退の道を歩む。

一方、大型温浴施設は、1955年創業の船橋ヘルスセンターが始まりとされ、約60年を経過するところである。その後、健康ランド、スーパー銭湯へ時代に適合した業態に変化していった。銭湯の減少を尻目にレジャーやリラクゼーションの場としての温浴施設が台頭してきたのである。

保護産業としての銭湯業界

銭湯に対しては、物価統制令に基づき入浴料金を都道府県知事が指定していることもあり、「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」に基づき、金融及び税制上の優遇措置等の諸施策が実施されている。

銭湯は「料金減免」措置によって、銭湯の水道料金が実質無料同様で、さらには銭湯の建物と土地の固定資産税は減免されている。なお、温泉浴場やスーパー銭湯にかかる入湯税が銭湯にはかからない。

自治体による助成金制度もあり、東京や大阪といった大都市では、例えば、65歳以上の区民への入浴券支給や改装助成金もみられる。

しかしながら、銭湯業界と取り巻く事業環境は、利用者数の減少に伴う収益の減少、経営者の高齢化、施設及び設備の老朽化等による経営環境の悪化、家族経営による長時間労働並びに相続税の負担増等による後継者の確保難により転業 及び廃業が進んでいる。

さらに、営業者が抱える経営上の問題点としては、「客数の減少」のほか、「燃料費の上昇」、「施設・設備の老朽化」、「光熱費の上昇」が上位に挙げられており、客数の減少とともにエネルギー価格等のランニングコストが経営上の問題点となっている。

ただ、しばしば値上げを実施しているため、利用者数の大幅な減少に対し売上は漸減に留まっている。

 銭湯とランドリー-03_利用人数

 銭湯とランドリー-09_銭湯料金

銭湯の衰退とスーパー銭湯の台頭

スーパー銭湯は、1980年代後半から始まったとされ、以後レジャーへのニーズが高まる中、拡大する。1980年代には健康ランド、スーパー銭湯が台頭、1990年代には新規出店ラッシュにより競争が激化した。2000年代に入りその数は横ばいとなっているが、浴槽種類や岩盤浴、炭酸泉などのアイテムの差別化競争と、グレードの差別化競争による業態ボーダーレス化が進み、市場環境は厳しい。

極楽湯が新たな市場の中国で好調

こうした厳しい状況の中、スーパー銭湯「極楽湯」を全国展開する極楽湯は、デザイン性の高い店舗づくりと中国事業の展開で業績を伸ばしている。同社の業績は2005年度に連結決算に移行してからも、売上高は比較的安定推移している。2014年度は、国内において新ブランド「RAKU SPA鶴見」を開店したほか、中国の上海における海外1号店の業績好調を受けて上海2店舗目を出店した。

2016年第1四半期(4-6月)決算は、連結営業利益が前年同期比2.1倍と大幅増益、特に中国事業は前年同期比54%増と大幅増益となった。上記、中国上海に海外2号店をオープンしたことなどが寄与している。

さらに、中国武漢市に直営1店舗の開店を予定している。好調な集客を背景に、今後、中国北東部に 100店舗、そのうち半数はフランチャイズで展開していく計画だ。炭酸の湯や美肌の湯など、血行促進や美容効果が期待できる風呂を設置、日本の化粧品や日用品、雑貨を購入できる売店やネイルサロンを置くなど、女性客の取り込みも奏功しているとされる。

 銭湯とランドリー-04_極楽湯

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ここで注目されるのが、浴室と同様に洗濯機普及率がほぼ100%に達する中、増加を続けるコインランドリーである。
なぜコインランドリーが増加しているか、その背景には需要側と供給側それぞれに要因があるといわれる。

高機能化で用途拡大

需要側の要因としては、利用用途の拡大やライフスタイルの変化が挙げられる。

コインランドリーが高機能化したことで、毛布やコタツふとん、シーツ、カーテンなど、家庭では簡単に洗えない「大物」を手軽にお湯洗いできるようになった。雨の日など天候に左右されない乾燥機能も重要視されている。また、共働き家庭の増加と共に、夜間・土日にまとめて洗濯する家庭が増えていることも要因とみられる。

 銭湯とランドリー-06_ニーズ・年代

主婦がメインユーザー

利用者層をみると、従来単身者や学生が中心であったが、近年は主婦層が7割以上といわれる。年代層も30代、40代の年代を中心に幅広い。商圏エリアは、1キロ以内が約4割、2キロ位以内を含めると5割を占める。一方、5キロ以上も2割以上あり、車で来店するケースも多く商圏エリアが大きいことも特徴である。

一方、1世帯あたりのクリーニング支出額は2015年(1-12月合計)に6,600円となっており、過去20数年で約4割まで縮んでいる。クリーニングサービスが全てコインランドリーに転換するわけではないが、一部は吸収されているはずであり、今後も同様の傾向が続く可能性は高い。

 銭湯とランドリー-05_世帯当支出

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 銭湯とランドリー-10_洗濯料金_注

兼業で多いセルフランドリー

また供給側にも事情がある。

コインランドリー事業は初期投資が比較的少なく、運用面では現金商売であり、代金回収も機械が行うため、人件費がほとんどかからないという特性がある。機械が故障しない限りは、顧客から代金を確実に回収できる。遊休地の有効活用という側面もあり、銭湯事業者の兼業割合が多いのみならず、一般土地所有者でも参入が活発化している事由とみられる。

やや古いデータであるが2009年の実態調査によると、銭湯との兼業は61.3%に達しており、アパート・マンション経営を上回る。

 銭湯とランドリー-07_兼業_単位

コインランドリーの復活と進化

コインランドリーも、遡ること1970〜1990年の学生&独身サラリーマンをターゲットとした時代から、大物洗いや洗濯乾燥機を備え、駐車場を完備、商圏を拡げた時代を経て、近年は都市型に加え郊外型コインランドリーが増加している。

コインランドリーの店舗数は、厚生労働省によると、1995年度の9,206件から2013年度には約1.8倍の16,693件に増加している。

近年のコインランドリーは、女性が安心して利用できるように店内を防犯カメラで常時監視したり、ネットを活用して自宅から混雑状況を確認できるよう利便性を高めている。このほか、デザイン性の高い外観・内装、ドライブスルー式の施設なども出現している。海外でみられるようなカフェ化の流れが日本でも始まっている。

アクアと日本MSがIoT化で協業

白物家電メーカーとして三洋電機から一部事業譲渡により継承するアクアと日本マイクロソフトは、家電とクラウドを組み合わせた家電IoTサービス開発の協業を行う。第1弾として、三洋電機時代の1971年(国産第一号)より開発・販売している業務用コインランドリー機器のIoT化を促進し、新たなサービスビジネス開発を図る。

「AQUA ITランドリー」を導入しているコインランドリー店は全国で1,252店舗がある。具体的な仕組みとしては、約1万6千台以上の機器の稼働情報、売上情報、また故障などトラブルに関する情報を、パブリッククラウド「Microsoft Azure」上に蓄積、分析し、新サービスの開発、2017年内にテストマーケティングを開始する。

 銭湯とランドリー-08_システム概要_出所_修正

まとめ

生活密着型サービスは、経済発展段階や消費者ニーズなど動向に大きく影響を受ける。今回のテーマの銭湯やコインランドリーについては、浴室及び電気洗濯機の世帯保有率はいずれも9割以上に達しており、成熟社会で変化したニーズに呼応できたかどうかが両者を分けたと読み取れる。

今後さらなる人口減少社会が加速し、働き方、暮らし方、消費スタイルもこれまでにない変化が予想され、新陳代謝が進むであろう。

コインランドリーにおける、機能だけでなく”場”を提供するコミュニティ空間づくりやIoTの活用などは、他分野にもつながる需要喚起のヒントになりそうだ。

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