「中国版イーベイ」からの脱却

阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング、以下アリババ)は、ソーシャルメディアやエンターテイメントに進出し、スナップチャットなどのスタートアップに積極的に投資することで、単なる中国版イーベイやアマゾンという印象を振り払おうとしている。
その好例が、アリババのモバイルアプリ「淘宝(Taobao)」だ。このアプリを使えば、釣りなどさまざまな分野のチャットグループに参加し、旅行のチケットを予約し、ニュースを読み、テイクアウト料理を注文し、そしてもちろん、商品を買うこともできる。
西洋人の目には、淘宝アプリは雑然とした御しがたいものに見えるかもしれない。だが、このアプリは中国の若いユーザーの共感を集めている。彼らが淘宝サイトで費やす時間は、アマゾンやツイッターのモバイルサイトを訪れるユーザーよりも長い。
淘宝の貢献により、アリババのモバイル分野の売上は、直近の四半期で2倍以上に増加した。馬雲(ジャック・マ)会長が押し進めてきた「Eコマースの枠を越えた取り組み」が、ついに効果を上げ始めている証拠だ。
アリババの共同創業者でもある蔡崇信(ジョゼフ・ツァイ)副会長はあるインタビューで「若者の目を引き、想像力をとらえるためには、より多くのソーシャル機能を提供する必要がある」と語っている。
「我々が目指しているのは、コミュニティの感覚を維持することだ。そうすれば、若者たちは当社のプラットフォームを繰り返し訪れるようになるはずだ」

ユーザーの訪問回数は1日7回

アリババが淘宝を立ち上げたのは2003年のことだ。当初はイーベイのようなサイトで、小規模な企業や起業家が顧客に直接商品を売るのが中心だったが、ここ数年でソーシャル機能やエンターテインメント機能が加わった。
そうした機能には、ユーザーが淘宝アプリにとどまる時間を長くして、商品を買う機会を増やすという狙いがある。
この戦略はうまくいった。2016年6月30日締めの四半期には、1カ月のモバイル・アクティブユーザーが39%増の4億2700万人に達し、モバイル売上は26億ドルに急増した。
ユーザーの1日当たりのアプリ訪問回数は7回を超え、トータルの利用時間は25分を上回っている。それに対し、アマゾンのモバイルアプリではユーザーがアプリを訪問した日の利用時間は9分、ツイッターのアプリでは16分だ。
「アマゾンのユーザーは、1日に7回もサイトを訪れない」と語るのは、ウェドブッシュ・セキュリティーズのアナリスト、ギル・ルリアだ。
「アリババが生み出せるユーザー・エンゲージメントの水準は、検索企業やソーシャル企業で考えられる水準を上回っている。アリババは多額の投資により、フェイスブックのようなソーシャルエンゲージメントが可能なツールを開発している」
淘宝のユーザーは、特定の関心事を扱う1000にのぼるチャットグループのいずれかに参加し、ウェディングの計画からスポーツ、ベビーシャワーのパーティーまで、さまざまな話題を語り合うことができる。

1300のメディアがコンテンツ提供

さらに淘宝は2015年、商品を推薦した際のコミッションを提供し、ブロガーや専門家に記事を投稿してもらうプログラムを開始した。
また、アリババが先ごろスタートさせた「淘宝ニュースフィード」は、8000万人を超える月間アクティブユーザーに対して1300を超えるメディアソースがコンテンツを提供するまでに成長している。
数カ月前には、ブロガーや商店が消費者と交流するための動画ライブストリーミングも追加された。
蔡副会長によれば、淘宝にはさらにソーシャル機能が追加される予定だが、売上向上につながる機能に限られるという。
ユーザーは、淘宝を開くたびに必ず買い物をするわけではないかもしれない。だが、中国のセレブが新しい化粧品を試すライブ動画を見ることや、特定テーマのグループに参加して、たとえば釣り具のことを話し合うといったアクティビティを通じて、商品に対するユーザーの関心も刺激されることになる。
「当社はすでに、目標とすべき地点に到達している。ユーザーはきわめて高い購買意欲を持ち、商業的にきわめて熱心になっている」と蔡副会長は言う。
「フェイスブックの『友達』では、すでに知り合っている人を友達のリストに追加する。当社の場合、はじまりは他人同士だが、データを使って共通の関心事を見つけ出し、その関心事を中心とするコミュニティを生み出している」

アマゾンやフェイスブックの動向

フェイスブックもここ数年、ユーザーにソーシャルネットワーク上でショッピングさせる方法を模索しており、デジタル店舗や誕生日ギフト、「購入」ボタンなどを試している。
また、フェイスブックページで直接商品を販売できる企業向けのショップセクションもテストしている。ピンタレストやツイッターも、サイトから商品を購入できる方法を導入している。
アマゾンはこれまでのところ、Eコマースサイトへのライフスタイル関連機能の追加に大々的に乗り出してはいないが、一般的なソーシャルメディアのプロモーションには資金を投じている。
アマゾンが見せたソーシャルメディア関連の動きのうち、これまでで最大のものは9億7000万ドルを投じた2014年のトゥイッチ・インタラクティブの買収だ。トゥイッチは、ユーザーがゲームについて話し合ったり、別のユーザーのプレイを見たりすることのできるオンラインフォーラムだ。
トゥイッチは買収後も、エメット・シャー最高経営責任者(CEO)のもとで独立した会社として事業を続け、アマゾンのオンラインマーケットとの統合は限定的なものにとどまっている。
ソーシャルメディアとEコマースの融合は、アメリカではそれほど勢いづいていない。アメリカでは、消費者が特定の目的に応じて個別のアプリを使うことに慣れているためだと、ルリアは説明する。
それに対して、中国ではスマートフォンのユーザー基盤が急速に拡大しているが、そうしたユーザーは可能な限り多くの機能をつめこんだ乱雑なインターフェースに慣れている。
騰訊控股(テンセント・ホールディングス)は、タクシーの手配から映画チケットの購入までのあらゆることができるアプリ「微信(ウィーチャット)」により、ソーシャルメッセージング分野を掌握している。
アリババも淘宝のメインアプリに、フードデリバリー、旅行の予約、オンデマンドのホームクリーニングといった各種サービスを追加している。中国の検索大手、百度(バイドゥ)も、ホテルを予約したり不動産を調べたりする機能を導入している。

スナップチャットへの出資で学ぶ

「多くの中国企業にとって、流通はきわめて貴重で価値の大きいものだ。共通のユーザー基盤に別の要素を追加できるのなら、流通を追加することを検討するだろう」と語るのは、アンドリーセン・ホロウィッツのパートナー、コニー・チャンだ。
「ほとんどの中国企業は、ユーザーの生活のなかで接点を増やすことが主たる目標になるだろうと認識している」
アリババの馬会長はソーシャルメディアとエンターテイメントを重視している。数十億ドルを費やして動画共有サイトの「優酷土豆(ヨウク・トゥードウ)」やウェブブラウザの「UCウェブ」を買収。中国版ツイッターともいえるソーシャルメディアプラットフォーム「新浪微博(ウェイボー)」にも投資している。
だが、ソーシャルネットワーキングはこれまで、アリババの弱点となっていた。
数年前には「来往(ライワン)」というメッセージングサービスで微信と張り合おうと試みたが、その影響力は微信には遠く及ばない。2015年には、アリババがスナップチャットに2億ドルを出資したことが報じられた。
「われわれは、スナップチャットがどのように若いユーザーと関わりあっているのかを学び、理解したいと思っている」と蔡副会長は語っている。
「われわれはスナップチャットにおおいに魅了されているし、創業者のエヴァン・スピーゲルに感銘を受けている。我々は彼のパートナーになりたいと考えている」
ーー取材協力:スペンサー・ソーパー(シアトル)
原文はこちら(英語)。
(原文筆者:Selina Wang、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:© 2016 Alibaba Group Holding Limited)
©2016 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.