京大フォーラム「ワークスが企業内託児所を作った理由」

2016/9/11
第一部では、実際に子育てと仕事の両立をした経験者の観点から、ワークライフバランスについて、実際に難しかったところや、気を付けるべきところなどについて話が展開した。第二部では、それらの課題に向き合っている企業家や団体の代表らが登壇した。
「会社で子育て」がキーワード
:第二部では、これからの会社のあり方についてお話いただきたいと思います。牧野さんがCEOをつとめるワークスアプリケーションズではWithKidsという企業内託児所をつくられたんですよね。どうして企業内託児所を作ろうということになったんですか?
牧野:女性社員が出産したあと、会社に戻る意思があるのに戻ってこない確率を0にするために作ったのが始まりです。優秀な彼女たちが戻ってこないのはすごい損失ですからね。
女性社員に、何があったら戻ってくるのかを尋ねると、周りの意識がポイントだとわかりました。そこで、例えば旦那や親戚のことを考えた上で、もし復帰してくれるならただちに年俸の15%あげるという対策をとりました。そうすると、かなり戻ってきてくれたのですね。でも、長い目で見ると、本人が子育てと両立できる環境がないと復帰しにくいため、WithKidsを作ることにしました。
:WithKidsは今年の12月にできるとのことですが、社内の方はこの取り組みにどのような反応をしていますか?
牧野:出産後復帰したメンバーが中心となって動いてくれています。最初は、外部の保育園の代わりになるなら、との声もあがりました。つまり、安ければ託児スペースに預けてもいいなということだったのですね。ただ、その考え方は違うと思います。保育園に送り迎えをするその時間含めて、子どもに寂しい思いをさせているという罪悪感を感じています。そのようなギリギリの心理状態になってしまっているのが、そもそもおかしいのではないかと思うのです。
アメリカではプロフェッショナル系の仕事に就いている人は、子供を職場に連れてくるのが普通です。24時間会社の中の託児所が開いていて、安心して預けることができるし、いつでも子どもの様子を見に行ける。そうなると、罪悪感を感じることも少ないですよね。
なので、WithKidsは「会社で子育て」がキーワードです。
今の女子大生が安心してママになれる社会を目指したい
:次は新居日南恵さんです。”今の女子大生が安心してママになれる社会に”をコンセプトに、女子大生チームmanmaを運営されていています。どのような問題意識のもと共にこの組織を立ち上げられたのかなど、簡単に自己紹介をお願いします。
新居:私は大学1年の頃にmanmaを立ち上げました。高校生や大学生に対するキャリア教育や就職活動全てが”働く”に偏っていることに問題意識を持っていたからです。将来結婚して子育てをする場合、働き方も、考えるべき将来も色々と変わってくるはずなのに、それを教えてくれる人はいないんですよね。そこに焦点を当てました。
今主にやっているのは、家族留学という事業です。これは、学生が子育て家庭を1日訪問して、子育てを体験し、先輩の話を聞くものです。全国に250家庭と250人の学生がおり、大学生の希望にあわせてご家庭とマッチングしています。バリキャリか専業主婦、の二者択一ではなく仕事と家庭の自然な両立を、現役世代とこれから社会に出て行く学生とで目指せていけたらと考えています。
やりたいなら二兎も三兎も得る
:最後に、第一部でもご登壇いただいた西村創一朗さんです。
第一部ではイクメンとしてご登壇いただきましたが、今回はNPO法人ファザーリングジャパンではどのような活動をされていたのか、またご自身が立ち上げられた会社HARESではどういう社会を目指しているのかなどについてお聞きしたいと思います。
西村:ファザーリングジャパンは、父親という仕事を義務ではなく、自分の人生を豊かにする機会だと捉え、楽しんで子育てをしようというのがコンセプトです。今ではイクメンと呼ばれる子育てへの意志を持った男性も増えていますが、いまだに上司の理解がないために育休の取得ができないケースも多くあります。そこで、イクボスプロジェクトとしてマネジメント層に対して新しい働き方を伝える研修を設計しています。また、これからパパになる次世代支援として、このような場所で講演もしています。
そして昨年、HARESを立ち上げました。二兎を追う者一兎も得ず、つまり、副業はせず本業に集中すべきであるといった固定観念が嫌で、やりたいならば追いかけて二兎も三兎も得ようじゃないかと「二兎」の英訳、HARESにしました。男性女性に関わらず、育児と仕事の両立支援や、副業解禁を啓発していくコンサルティングなどをしています。
子育て現場を開かれた空間に
:新居さんは250人以上のママさんや保育施設を訪問してきたということでしたが、現状どんな問題があるのか教えて下さい。
新居:共通して思うのは、子育てが閉ざされた環境で行われていることです。いまだに女性が子育てすべきだ、あとは家族が頑張ってすべきだ、そしてプラスアルファで保育士がサポートすべきだ、という考えが強く、代行サービスやシッターさんなど家族以外の手を借りることに対する抵抗感が大きいようです。
保育園や学童に関しても、ボランティア文化、口コミ文化で、とてもハードルが高いのが現状です。子育てに関わる人が一部に限られていて、他の人が入りづらい環境になってしまっているんですね。
家族留学はその閉ざされた家庭に学生が入り込むことです。主な目的は、学生が先輩女性にキャリアについてシェアしてもらい、ヒントをつかむことですが、もう一つには、開かれた子育てにすることで、お母さんにとっても学生にとってもいい影響があります。
というのも、学生が一日来てくれることでお母さん自身もちょっと手が空いて楽になりますし、子どもにとってもお兄さんお姉さんに会えて良い影響があるからなんですね。やはり、開かれた子育て環境が必要なのではと思います。
企業が福利厚生を充実させる意義
:子育て現場の話を聞いたところで、今度は企業のお話を聞きたいと思います。福利厚生に積極的に関わる企業もあればそうでもない企業もありますが、その中でワークスアプリケーションズさんは企業内託児所も作られました。なぜ経営者として福利厚生を整える必要があるのでしょうか?
牧野:昔から企業は平等を意識してきたので、福利厚生は広くあまねく社員に特典を与えるというものでした。
その点、今回のWithKidsに関しては、男性も使えますが、それを前提にはしていません。それは、男性は子育てと仕事の両立において不利ではないためですね。依然として、男性は子育てに参加しなくていいという考えが根強く残っていて、その男性を保護する必要はありません。その分、働く女性は子育てとの両立に悩み、不利益を受けているのが問題です。社会的にプレッシャーのかかっている女性をサポートする必要があるのです。
20代は仕事にコミットせよ
:いわゆる福利厚生というより、経済合理的にもサポートが必要だということですね。ところで、この会場には京大生が多くて、特に就活生が多いこともあっての質問です。どういう人材になってほしいですか?
牧野:女性の場合は、いつでも出産をできるのなら、男性と同じようにキャリアを積めばいいですが、そうはいかないですよね。
人の人生はそれぞれ自由ですが、私の場合20代はバリバリ仕事をこなして、ギリギリまで働いていました。ストレスも多かったけど、得るものも多い時で、この時期にワークライフバランスを取らなくてよかったと思っています。なので、1日の中ではなく、人生の中でワークライフバランスを考えれば良いのではないでしょうか。就活の時に考えてほしいのは、人生の前半のことですね。その時の方が断然能力が伸びるからです。
それに、周囲の経営者に、20代のときの子どもと40代のときの子どもと、どっちのほうが可愛がれているかと聞くと、圧倒的に40代が多かったんですよ。なので、20代は仕事にコミットしたらいいとも言えると思います。そして30、40代の頃に子供にコミットしたら、仕事より子どもの方が可愛くなると思います。そうした、人生の中でのワークライフバランスを考えることが大事ではないでしょうか。
子供にどんな世界を準備できるか
:西村さんは10代で子供を持ったわけですが、このお話を受けて、ワークライフバランスについてどうお考えですか。
西村:生き方に正解はありません。確かに時間は本当に足りませんが、非常に充実しています。というのも僕は、なぜ働くのかと考えると、子供がいるから稼がなきゃいけないのではなく、「20年後この子どもが自分と同じ歳になった時、より良い社会になってほしい」からなんですね。なので、僕が40代を迎えるときには、子供も成人していて、どんな社会になっているのか楽しみです。
:素敵なお話ですね。やはりここで、男性が子育てを意識するのが大事なのかどうかが議論になると思うのですが、新居さんが先ほど紹介してくださった「家族留学」には男性も参加されていますよね。やはり、男性が子育てを意識するのは大事だと思いますか?
新居:「家族留学」では、常に一割程度の参加者は男性です。私自身は、子育ての面で女性と意識の格差が生まれないためにも、男性を巻き込みたい想いはあります。参加された男性の中には、「旦那さんが家事や子育てに協力的な家庭を見て、こういう風にサポートすればいいのかと分かった」といった感動的な感想もありますが、やはり男性を巻き込むのは難しいな、というのが率直な感想です。
というのも、女性は両立について切羽詰まっていますが、男性にとって「子育てと仕事の両立」はどうしても啓発的になってしまい、同じ取り組みでも受け取り方が全然違うんです。そのため、男性は女性とは別のアプローチでないといけないんです。
「子どもが生まれると女性は自然と母になりますが、男性は父になるとは限らない」とあるお父さんに言われたことがあります。なるほどな、と思いましたね。もちろん、子育てからいい関係性が作られていく家族もいます。例えば受け入れ家庭の中には、家庭でハーブティーを出してくれるようなイクメンの方もいました。ただ、それも最初からそうなったのではなく、ぶつかりながら変わって調和をとっていったんですよね。
女性は選ぶ企業次第で道が開ける
:今回の参加者は京大生など高学歴の人も多いので、経営者になりたい人も少なくないようです。経営者になることと、子育てや結婚とは二者択一だと思っている人も多いようですが、実際に経営者として牧野さんはどう思われますか?
牧野:まず男性の場合は、率直に言うと経営者になるキャリアと子育てを成り立たせようとしても、西村さんのような根性の塊のような方を除けば、どちらかが適当になってしまうと思います。
両立させようとするなら、自分のタイム・マネジメントが自分自身でできるポジション、つまりある程度好き勝手できるポジションにつくことでしょう。利益至上主義の風潮があり、自分の実力が素直に評価される企業であれば、そうなれます。ただ、大企業の場合は、歯車の1個を担わなければいけないので、なかなか厳しいのが現状です。
ですから、経営者になりたいのなら20代のキャリアを大事にしておくことです。20代をどう過ごすかで以降のキャリアが明確に見えてきます。本当に自分がやりたいことや社会に貢献することで起業したいのであれば、20代はある会社で全力を尽くして自分を伸ばし、30代でそれを掴みにいくのが正しい選択でしょう。
女性に関しては、うちみたいなスタンスの会社は両立できます。家で子育てしながら仕事をする人もいますが、なかなか難しいですよね。仕事している間、子どもは黙っていてくれるわけではないですからね。女性経営者の知り合いは10人ほどいますが、出産を機に事実上やめてしまいました。家で育てようとして、経営者としてのバランスが取れなくなってしまったからなのです。
そうした現状を見て、会社で子育てができるようになればいいのではと考えました。しかし、相当付加価値が高いビジネスモデルでないと、保育士を雇うということからも、なかなか難しい。
ただ、高い報酬を得られて自分でマネジメントができる職種であれば、両立は完全にできると思うのです。会社に保育士がいて、休憩時には子どもと会い、ご飯を一緒に食べて、夕方6時くらいになったら一緒に帰ったり、仕事に集中したい時や会議中は保育士に預けて、会社の近所で遊ばせたりすることもできるわけです。
人生全体で就活を捉える
:そこまで言われると両立できるように思えてきますよね。
ここで、子育ての現場を見てきた新居さんから、実際に企業の経営者で仕組みを整える側にいる牧野さんに、より子育てと仕事の両立がうまくいくような仕組みの提案や、質問はありますか?
新居:主体的でなくて啓発的にでも、女性も男性もワークライフバランスを考える機会を作ることであれば、就労インターンシップや新卒スケジュールの際に、キャリアだけでなくて、結婚、出産、子育てを含めて自分自身が人生全体をどう過ごしていきたいのかを考える機会があればいいと思います。
また、社内託児所は何が素敵なのかというと、ただ託児所が家の近くにあったものが会社の中にできたというだけの話ではなく、会社のなかで育てられるというところですよね。単に子供を預けるよりも仕事と同じ環境の中で育てるところが素敵だと思いました。
ただ、ずっと自分が一緒にいて子育てをしていくのではなくて、仕事もしながら育ててあげられるというコンセプトに意味がありますよね。そこで、それだけ素敵な託児所に関して2点質問させていただきます。
まず1点目に、仕事の合間に子どもたちと一緒に遊べるのかということ。2点目は、病児保育に対応できるのかです。
牧野:1点目に関しては、昔は家で事業をやっていたので、仕事の現場に家族も一緒で子どもを育てていたのですね。それに限りなく近づけていくことを考えています。具体的には、託児スペースの横に、子どもと一緒に仕事をできるスペースを作ろうかなと考えています。
2点目について、病児保育は考えています。部屋を分けないといけないので、次のフェーズになります。また、ベビーシッターを派遣することも考えています。
フレックスタイム制だからこそできる
:朝、都市部の会社に子供を連れていくのはラッシュアワーが大変だと思ったのですが、その点はフレックス制度を利用するんですか?
牧野:そうですね。いつ来なければいけないというのはないです。例えば、遅く来て夜8時くらいに帰るのでも大丈夫です。
:山手線はラッシュアワーはすごく混んでいますが、時間をずらすとそれほどでもないですもんね。
WithKidsは元々は有能な女性が産休育休後に戻ってきたくなるための制度とのことでしたが、
優秀な人材で、これから社員になっていく若い人たちにとってもイメージが良いですよね。その辺りの効果も狙われていたのでしょうか?
牧野:最初は狙っていませんでした。物理的に辞められたら困るというくらい優秀な女性社員ばかりなので、いつでも戻ってこられる環境をつくりたいと思っただけでした。もちろん、これから入社してくる方のためにもなるのは確かですけどね。
企業がやることやらないことの線引きはどこに?
:子育て等に関して、企業ができることとできないことの線引きはありますか?どこからが個人の問題になってくるのでしょうか。経営者として、会社員としての両方の視点から西村さんに、経営者としての視点から牧野さんにお聞きしたいです。
西村:正直、明確な線引はないと思います。企業の戦略として、優秀な人材が仕事を続けやすい環境を用意することが重要なので、どこまでやるべきといった線引はありません。
しかし、最低限、法律で保障されている育児休暇等については守られるべきでしょう。ただそれだけでなく、ボトムアップの観点で、そうした休暇を取りやすくする体制は企業が存続するために必要です。
牧野:どこから会社がやるべきかそうでないかの線引きは、会社にメリットがあるかどうかだと思います。例えば、会社より遠くに住めば住むほど支給額が高くなる通勤交通費は、本来は払うべきではありません。それは、会社にとってデメリットでしかないから。私は、むしろ近距離の方に対して、家賃補助を支払うべきだと思っています。
もう一つあるのは、これからは海外と競争する時代です。ワークスアプリケーションズの約半数は海外の社員で、非常に優秀です。これからは海外の優秀層にも勝っていかなければいけないわけですよ。だから、企業としては、全力で支援しなければいけないと考えています。
:今のお話を伺って、牧野さんは常に会社にとって利益であるかどうかを考えてらっしゃると思うのですが、ワークスアプリケーションズにとって、フレックスタイム制を取り入れたことの経営的メリットは何ですか?
牧野:自己責任になることですね。そうは言っても、確かに数%はサボっているでしょう。ただ、時間で制限して、優秀な人材に辞められるよりはいいですからね。超優秀で短時間しか働かない人は実際にいますよ。
女性のライフプランにアドバイス
:今までの話を踏まえたうえで、女性がライフプランを考えるうえでどのようなアドバイスをしますか?
牧野:20代前半は、いっさい寝ないくらいに仕事に全力を尽くしてもよいと思うのです。そうすれば、会社としては辞めてほしくなくなるので、出産育児の間、パフォーマンスが落ちたりお金が掛かったりしても問題はないわけです。高齢出産はリスクにもなるので、男性よりも前倒しして人生を考える必要はあるでしょうね。
新居:いろんなお母さんを見てきましたが、2パターンあると思っています。一つは牧野さんの言った20代の最初にキャリアを積むことです。あなたしかいない、という人材になることですね。もう一つは、最初に子供を産んで、その後支障なくキャリアを積むことです。学生で産むのもいいと思っています。
西村:勝間和代さんとお話したときに、「君みたいに学生のうちに子供を産むのはいいと思う」と言われました。固定観念を振り払うのは大事ですね。何事も、タイミングが大事です。どう自分をポジショニングしていくか、そしてそれを20代のうちにやることですね。
最後にメッセージを
:最後に参加者にメッセージをお願いします。
西村:自分自身がしたいと思ったことをやりきるのが大事です。仕事に関しても結婚、子育てに関してもそうです。リスペクト・フィードバックといって、上司をリスペクトすることや、結婚生活でもパートナーに感謝を伝えることを大切にすれば、その後の人生も幸せに過ごせると思います。
新居:これから共働きが増えてきて、社会が変わっていく中で、自分自身がどういった人生を選択していくかをよく考えてください。完璧にライフプランを立てるというところまではいかなくても、いろんな人に出会ってヒントを得た中で考えていくことですね。そうした中で、現実は計画通りにはならないので、その現実に柔軟に対応していくことも大事です。
牧野:女性にとって、仕事と育児が両立できることは当たり前のことだと思います。ですから、働き続けたい女性のために、企業がそれをサポートすることはとても大事です。人生においてキャリアは大事ですから。長期的に考えた時に、社会に影響を与えられる優秀な女性もいるのに、女性だからという理由でキャリアを中断しないといけないリスクを取るのはおかしいですよね。会社選びをするときは単なる福利厚生ではなくて、キャリアの継続という観点を見て欲しいと思います。