【堀江貴文×馬場渉】本田圭佑はカール・ルイスだ

2016/8/30

本田に洗脳されればいい

──お二人から見て、本田さんの魅力はどこにありますか?
堀江 よく、ああいう人が出てきましたね。
馬場 いやあ、嬉しいですよね。
堀江 彼は周りにすごくいい影響を与えていますよ。この間、本田さんの誕生日会に行ったら、彼を慕っている海外組の選手たちも結構来ていましたよ。
馬場 彼に影響を受けている選手は多いですよね。
堀江 彼はチャレンジすることの大事さみたいなものをみなに伝えています。
ある意味、野球で言うところの、野茂さんみたいな役割を負っているというか。カズさんや中田ヒデがやってきたこととはまた違う。本当の意味での海外挑戦というか、経営などセカンドキャリアも見据えた海外挑戦という領域にまで入ってきています。
僕は、いい意味で、みんなが本田さんに洗脳されればいいと思っているんですよ。
たとえば、多くの選手は、経営は遠い領域だと感じているかもしれませんけど、そんなに難しい話ではないんですよ。
スポーツビジネスのマーケットは、僕からしたらブルーオーシャンです。
しかも、選手であればインサイダーだから、すごく入り込みやすいじゃないですか。たとえば僕はどこまでいってもアウトサイダーであって、よそ者ですけど、選手であれば入って行きやすい。
本田さん以外の選手は、彼ほどには経営の才能がないのかもしれないですが、それでもいいんですよ。彼ほど才能がなくても、きっと上手くいくと思いますよ。だから、本田さんの周りで影響を受けて、経営に興味を持った人は、すごくラッキーだったという話に将来なるかもしれませんよ。

本田を量産する方法

堀江 でも、なんで本田さんみたいな人が出てきたのか、ちょっとよくわからないですよね。たまたま出てきた、カール・ルイスみたいな感じですかね。
当時、カール・ルイスも、スポーツの分野に革命を起こしたんですよ。科学的トレーニングで金メダルを量産したのは、おそらくカール・ルイスが初めてですよ。
本田さんは、サッカーの世界で言うとカール・ルイスにすごく似たところがある。彼は今、スポーツビジネスの世界に、科学やITを応用しようとしているわけですから。
馬場 彼みたいな人を量産しようと思ったら、どうすればいいんでしょう?
堀江 完全に教育ですよ。
絶対、本田さんみたいなタイプは子どものころに叩かれる。彼はそれに打ち勝つ強い心があっただけの話で、別に打ち勝つ必要はないんですよ。そういうふうに叩かなければいいんですから。叩かなければ伸び伸び育つ人は、もっと多いと思いますよ。だから教育のシステム自体を変えないといけない。
僕は完全に義務教育否定派です。義務教育ではない教育の仕方のほうが得ですよ。
サッカーの才能があるんだったら、1歳からサッカー漬けになったほうがいい。バランスの取れた人間が、今の時代に必要なのかといったら、そうでもない。読み書き算盤とよく言いますけど、今はそんなに必要ないじゃないですか
馬場 以前、彼と話したときに、堀江さんと同じようなことを言っていましたよ。
自分が子どもの時、「お前はおかしなことばかり言って」と言われて、ずっと叩かれたそうなんです。でも「絶対俺の考え方のほうが正しい」と思って生きてきて、今30歳になって、「やっぱり俺のほうが正しかっただろう」ということが証明されてきた。
そして、スポーツ界の外に出て、いろんな人たちと会うことで、「やっぱり俺のほうが正しかった」ことに確信が持てるようになったそうなんです。こうした自分の経験や考えを広げるためにも、正しいと証明されているモデルを教育に活かしたいと言っていましたよ。

サッカー選手に必要な3つのこと

馬場 もうひとつ面白かった話をすると、岡田武史さんが本田選手についてこんなことを話していたんです。
岡田さんによると、サッカー選手に必要なものは3つあると。1つ目は、サッカーの技術そのもの、2つ目は情熱、3つ目はものの見方や捉え方。
そして本田選手は、サッカーの技術で言うと、平均かやや下。情熱はまあそこそこ。だけど、ものの見方・捉え方が人とはまったく違う天才だからあいつはすごいんだと言っていたんですよ。
この話を本人にフィードバックしたら、「さすが、岡田さんはいいところを見とるな」と嬉しそうに笑いながら、「でも平均以下の技術でミランの10番にはなれへんやろ」と言っていました(笑)。
岡田監督の考えを、香川真司選手に話してみたら、彼も「本当にまさにその通り」と頷いていました。
敵に攻め込まれている時とか、監督と考えが合わない時とか、自分のコンディションが悪くて、パフォーマンスが何試合も悪かった時とか、それをどう捉えて、どう理解するかが問われてくるわけです。
そういう時に、やっぱり落ち込む奴は落ち込んでしまう。ただ、本田選手の場合は、楽観主義やポジティブ思考というのとはまた違うらしくて、人と違う捉え方をしていることが多いらしいんですね。他人には見えないものが見えている。
堀江 同じ目に遭っても、ものの捉え方で全然変わるということですね。
馬場 だから彼が幼児教育にこだわるのもすごく納得感があるんです。
たとえば、2016年6月のキリンカップ決勝での浅野拓磨選手のプレーなんかはいい例です。
あの試合で、浅野選手には後半ロスタイムに同点ゴールを決める絶好のチャンスがありました。しかし、僕でもゴールできるような場面で、シュートを打たずに味方にパスして、結局、相手にボールを取られてしまったんですよ。その試合は、結果的に1−2で負けました。
あのシーンで問われていたのは、サッカーを超えた能力です。
周りが全員反対しようが、自分で意思決定してやり切る気持ちとか、3回や4回失敗してもケロッとする能力とか。そうした能力をサッカーで教わるかと言ったら、違う気がしますよね。本田選手はきっと、そういう勝負強さみたいなものを含めた何かを教える教育をやりたいんでしょうね。
堀江 義務教育の中では、そうした感覚は失われていくんですよね。
人と違うことをしてはダメなんじゃないかとか、みんながこれをやっているから、この枠組みの中で正々堂々と競争しないといけないんだとか、よくわからない条件を出されてしまうので。

経営者は1歳からつくれる

──本田さん自身は、自分の優れたところは、決断力と行動力だとインタビューで語っていました。
堀江 行動力というのは、単に行動すればいいんです。行動するということは、自分で決められることなので、制約条件は他人ではなく、自分なんです。自分から行動するしかないじゃないですか。誰かに手足を縛られているわけではない。自分で縛られていると思っているか思っていないかの違いですよ。
馬場 彼の行動力というか、パフォーマンスを出せている背景には、何か別のものが、彼が気づいていない何かがあるのでしょうね。
何らかの理由でスピード感を求めているから行動できているのか。みんなが反対して、やめとけとかと言われても、失敗を何とも思わない力があるから行動できているのか。
やっぱり、失敗して誰かに何か言われることの恥を強く感じてしまうタイプの人は、行動できなくなってしまいますよね。
堀江 でも、今の義務教育のシステムは、そうなるようにできていますからね。
馬場 そうですよね。
堀江 だって、今の義務教育は、国民国家の軍隊を作るための教育ですから。軍隊というのは統率が取れていないといけない。忠実な兵隊を作るための教育です。
でも、今はそういう時代ではないんですよ。そういう義務教育的な教育は、学校で習わなくても、個人でカスタマイズしてできます。
だから本田さんは、新しいタイプの教育をサッカーを軸にしてやるのかもしれないし、ほかの領域にも広げていくのかもしれない。
たとえば、経営者の教育を始めたら、たぶん小学生で結果を出せると思うんですよ。例えば1歳で経営者の教育を始めたら、小学生の時には実質的に社長になれますよ。たぶん天才だったら、すぐに経営者になれますよ。
──そうした教育論についても、本田さんに深く聞いていきましょう。
馬場 そのテーマはいいですね。みなさん、本田さん、教育を何とかしてください。本当にそう思いますよ。
(撮影:龍フェルケル)