ライザップ社長が語る「ブレイク前の苦闘」

2016/8/20

「おまけ」を商品にして大ヒット

亀山 「亀っちの部屋」、今回はRIZAPグループ社長の瀬戸健さんに来てもらいました〜。ライザップってよく聞くけど、上場会社なんだね。
瀬戸 はい。RIZAPグループという持株会社です。2003年、24歳で起業したのですが、はじめは「健康コーポレーション」の名前でした。2006年に上場し、2016年7月、RIZAPグループに名称変更しました。
瀬戸健(せと・たけし)
RIZAPグループ社長
1978年福岡県生まれ。明治大学商学部中退。2003年、健康コーポレーションを設立。「どろあわわ」や「豆乳クッキーダイエット」などのヒット商品を生み出し、2006年、札幌証券取引所アンビシャス上場を果たす。M&Aにも積極的で、現在40社のグループ会社を擁する。2016年7月、RIZAPグループに名称変更。
亀山 へえ、知らなかった。もっと怪しい会社がやってると思ってたよ。俺に怪しいと言われるのは心外だろうけど(笑)。健康コーポレーションは、最初はどんな事業から始めたの?
瀬戸 最初は大豆を使ったサプリメントを販売しましたが、まったく売れませんでした。
ただ、サプリメントを少しでも売るために「豆乳クッキーダイエット」をおまけでプレゼントしていたのですが、これが意外に好評でした。おからは水を含むとおなかの中で広がるので、満腹感が得られるとの感想が寄せられたのです。
そこで、今度は「豆乳クッキーダイエット」を商品化できないかと考えました。機能性素材や各種ビタミンなど栄養分を配合し、ダイエット食として売り出そうと思ったのです。
クッキーなのに「お菓子」ではなく「ダイエット食品」。ポジショニングを変換して「ダイエット用豆乳クッキー」として販売すると、これが大ヒットしました。
亀山 それはいいアイデアだね。
瀬戸 「豆乳クッキーダイエット」はもともと1,000円程度で販売していましたが、栄養分を配合し、ダイエット食品として付加価値をつけ、5,000円程度に設定しました。
原価は栄養分を加えたぶん、上がりましたが、もともとお菓子工場の空いているラインを借りて製造していたので、利益は出ました。

「ビリー」に負け、時価総額が激減

亀山 売り上げはどれぐらいだったの?
瀬戸 設立1年目は2,400万円、2年目が8億9,000万円、3年目が24億円、4年目は100億円まで伸びました。
亀山 4年で100億円までいったんだ。販売方法はどうしたの?
瀬戸 すべてインターネットです。
店舗もなく営業社員もいないので、そのぶん広告をたくさん打ちました。売り上げ100億円のとき、広告費は69億円。これは2015年のライザップ事業の広告費を上回る額です。
亀山 上場はどのタイミングで?
瀬戸 売り上げが24億円に達した2006年です。当時は、売り上げのほとんどが「豆乳クッキーダイエット」でした。一つの事業に依存しては良くないと思い、上場したタイミングでM&A(企業買収)に乗り出し、グループ内に会社をいくつも作りました。
亀山 事業や買収のお金はどうやって調達したの?
瀬戸 起業のときは借り入れもできないので、自己資金で始めました。軌道に乗った後、金融機関から融資を受けて買収を行いました。
亀山 へえ。今どきのIT企業みたいにあちこちから資金調達したわけじゃないんだね。
売り上げが100億円に達して、その後はもっともっといけたんじゃない?
亀山敬司(かめやま・けいし)
DMM.com会長
石川県のレンタルビデオ店からアダルト、IT、太陽光発電、FX、英会話、3Dプリントと節操なく事業展開をする実業家。めったに人前に姿を現すことがなく、その正体は謎に包まれている。
瀬戸 さらに翌年は売り上げ300億円を目指して、広告費もさらに増やしました。しかしこの頃、「ビリーズブートキャンプ」やダイエットクッキーの類似商品が登場して、豆乳クッキーダイエットが急に売れなくなったのです。100億円だった売り上げは伸びるどころか、2年で10億円まで落ちました。
亀山 あらら。ビリーに負けたんだ(笑)。浮き沈みが激しいね。
瀬戸 はい、通販業界で成長率は1、2位を争っていましたが、下落率も1位だったのではないでしょうか(笑)。クッキーは1年間で200トン廃棄しました。当時は倉庫を見に行くのがつらかったですね。ただ捨てるのはもったいなくて、クッキーを牛に食べてもらったりもしました。
亀山 栄養いっぱいだもんね(笑)。でもそれだけ売り上げが落ちると、環境も激変したんじゃないの?
瀬戸 会社の時価総額は113億から7億円まで落ち、周りの人も、潮が引くようにサーッと引いていきました。さらには資金繰りにも苦しみました。それまで代引き通販で来た現金をすぐ商品の生産や広告に回していたので、資金が手元になかったのです。
亀山 融資した金融機関も青ざめただろうね。
瀬戸 ええ、上場した頃にローンを組んで家を購入したのですが、その家も売るつもりで部屋の写真を撮りました。
年末年始も、返済を待ってくれるよう金融機関にお願いに行き、猶予をもらう代わりに一日ごとの資金繰りを報告したりしました。
当時は常にお金のことばかり考えて、つらい時期でしたね。

美顔器が当たって業績復活

亀山 それだけのピンチを、どうやって乗り切ることができたの?
瀬戸 危機を救ってくれたのは、グループ会社が販売する美顔器です。
美顔器は通常、6,000~7,000円の原価で作って数万円で販売します。しかし私たちは、このビジネスモデルを変えました。
原価6,000~7,000円の美顔器を、980円で売ったのです。
亀山 えっ。どういうからくりなんだ?
瀬戸 その代わり、美顔器と一緒に使用する美容ジェルを2,980円で販売し、最低1年間は継続してもらうのです。
亀山 なるほど。携帯電話を1円で販売して、通信料で回収するのと同じビジネスモデルだね。ジェルは消耗品だから、定期的に買い続けるわけだ。
瀬戸 はい、定期購入ビジネスです。まだ10年も経っていませんが、美顔器と美容ジェル合わせて、累計で400億円を売り上げる大ヒットになりました。
亀山 いろいろ考えるねえ。ジェルだから原価も安いしね。一般的に化粧品なんて、売値の9割は広告費じゃないのかな。
瀬戸 もともと化粧品は利益率の高いジャンルですが、私たちは自社工場で製造し、問屋に卸さず直販なので経費も抑えられます。
亀山 この美顔器のおかげで会社のピンチを乗り切ったんだ。
瀬戸 そうですね、本当にグループ会社に助けてもらいました。クッキーの売り上げは10億円まで落ちましたが、その間もグループ全体で100億円の売り上げがあったのです。
亀山 そうなんだ。
瀬戸 それらで何とかつないでいる間に美顔器が当たりました。
亀山 会社が上り調子のときに借金して買収しておいてよかったね。
瀬戸 その後に開発した「どろあわわ」という泥で作った石鹸もヒットし、累計で300億円を売り上げました。他にもいくつもヒットし、追い詰められたときに必死になって考えた商品が当たりました。

教訓を生かし、借金は長期で

亀山 今の売り上げはどれぐらい?
瀬戸 RIZAPグループ全体で、前期の2016年3月期は550億円、今期である2017年3月期見込は1,000億円です。利益でいうと今期見込100億円になったので、来期は200億円を目指したいです。
亀山 その中では、やっぱりライザップのトレーニング事業が占める割合は大きいのかな。
瀬戸 いえ、ライザップ自体は全体の2~3割です。
亀山 そうなんだ。意外に大きくないんだね。
瀬戸 危機に陥った経験から、バランスが大事だと痛感しました。
だからグループ全体でバランスよく収益を上げるポートフォリオを描こうと、優良だけれど跡継ぎのいらっしゃらない会社や、上場企業にもグループに入ってもらいました。
亀山 ピンチを乗り切った後も新たに買収したんだ。そのお金はどうしたの?
瀬戸 借り入れです。
亀山 また借りたんだ!? 懲りないねえ(笑)。もう借金は嫌だと思わない?
瀬戸 教訓を生かして、前回とは違った借り方をしました。
前回は、3カ月や1年など、短期で借り入れていました。会社が調子のいいときは、金融機関も「すぐ返せなんて言いませんよ」という雰囲気なのですが、状況が変わると態度が一変しちゃいましたね(笑)。
そこで、多少金利が高くても、長期で借りるようになりました。もちろん今は、当時より細かく経営管理を行っていますが、やはり経済危機など何が起こるかわかりませんから。
亀山 ライザップをやった人が急にみんな太りだしたら困るしね。
瀬戸 そうなったら大変です(笑)。

コンセプトは「自己投資産業」

亀山 ところで、大豆やおからの食品、美顔器、石鹸、ダイエットと、グループ全体で健康系・直販型のビジネスを基本にしてるのかな?
瀬戸 はい。起業のときから「健康でいこう」と。市場が大きいですし、私たちはこれらの事業を「自己投資産業」と言っているんです。
亀山 自己投資産業とは?
瀬戸 「豆乳クッキーダイエット」も美顔器も、購入者はクッキーや美顔器そのものが欲しいのではなく、「クッキーを食べてやせたい」「美顔器を使ってキレイになりたい」と一歩先のなりたい自分を想像して買うのです。
衣食住の生活必需品ではなく、なくても生きていけるけれど、あると毎日が楽しくなる、自分に自信が持てる。そんな自己投資のための商品を扱うのがコンセプトです。
亀山 そのコンセプトが、ライザップのトレーニングにつながっていくんだ。よし、ビジネスモデルやマーケティング手法について具体的に聞いていこう。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)