[東京 12日 ロイター] - フィリップモリス<PM.N>が販売している加熱式タバコ「iQOS(アイコス)」が想定を上回って人気化している。キットの累計販売台数は100万台を突破、アナリストからは、従来型たばこの販売に影響を及ぼし始めたとの指摘も出ている。出遅れたJT<2914.T>も数百億円の投資を計画するなど、巻き返しを図る。

<iQOS、紙巻きたばこから移行>

フィリップモリス・ジャパン(PMJ、東京都港区)によると、「iQOSキット」の販売台数は4月に100万台を突破した。専用葉たばこである「ヒートスティック」の6月最終週の全国47都道府県でのシェアは推定で2.7%、4―6月期では2.2%(1―3月期は0.8%)にまで拡大した。

JTが6000億円を投じて買収した「ナチュラル・アメリカン・スピリット(アメスピ)」。成長ブランドと言われる「アメスピ」の4―6月期の日本でのシェアは1.6%だけに、iQOSの普及の速さがうかがえる。

こうした動きを受けて、6月の日本の紙巻きたばこ総市場は5.2%減とすう勢を上回る減少となっており「iQOSが紙巻きたばこ市場からシェアの一部を奪っていると明らかに言える」(クレディスイス証券リサーチアナリストの森将司氏)との指摘も出始めた。

「iQOS」は現在、日本を含めて世界7カ国で発売しているが、全国規模で販売しているのは日本だけ。例えば、スイス6都市での3月最終週でのヒートスティックの市場シェアは推定0.8%で、日本が先を走る。全国規模で展開している日本での普及が、世界展開のための、重要なステップとなっていることは確かだ。同社は、16年末までには、日本を含めて20カ国に販売国を拡大する計画だ。

<供給体制が整えば、さらなる普及も>

iQOSキットはスイスで設計された精密機械で、世界中の様々なサプライヤーから供給される多数の部品で構成されている。マレーシアにある業務提携先の工場で組み立てられているが、予想外の人気を受け、現在は品薄な状況が続いている。限定品の「ボルドーレッド」は、ネットオークションで5万円から8万円で取引され、キャンペーンで割引が行われている通常の商品でも、定価9980円に対して1万5000円程度の値が付くなど、価格が高騰している。  

PMJでは「部品供給・組立にいたるまで、現在生産体制立て直しに努めている」とするものの、予想を超える需要となっており「現時点では完全な安定供給の具体的な時期は言えない」と言う状況だ。 

品薄でこの浸透度合いであることを考えると「需要に見合う供給体制になれば、浸透率がより高まる可能性がある」(UBS証券アナリストの高木直実氏)。

<後れを取るJT、数年で反転攻勢へ>

「2019年にかけて数百億円投資しながら、この分野でも数年内にナンバーワンになりたい」―――。JTの宮崎秀樹副社長は、強い口調で話す。

JTは1日、2016年12月期の国内の販売数量見通しを1080億本から1070億本(前年比2.1%減)に引き下げた。喫煙人口の減少による漸減傾向に加え、4月に主力商品「メビウス」を値上げした影響もあるが、宮崎副社長は「iQOS」が広がっていることも「織り込んだ」と話しており、急激な広がりを認めざるを得ない状況だ。   

JTも異なる技術を用いた加熱式たばこ「Ploom TECH(プルーム・テック)」を発売したものの、品薄でいったん販売を休止。6月下旬に販売を再開し、15日間で10万件の注文が殺到したという。生産整備などを整え、早期に全国販売、海外展開に踏み切りたいとするが、「まず始めた福岡とオンラインに出来るだけ早く届けられるように進めたい」(宮崎副社長)と述べるにとどめており、全国展開のタイムスケジュールを示せずにいる。

UBS証券の高木氏は「日本での拡販時期を年内に迎えるのは難しく、17年以降になると思われる」とみている。

JTが行った喫煙者率の調査。今年は男性が29.7%となり、初めて30%を割り込んだ。日本の喫煙人口は年々減少しており、来年にも2000万人を割り込みそうな水準。小さくなるパイのなかで、勢いを増す「iQOS」は、着実に存在感を増していく。

英調査会社ユーロモニター調べによると、電子たばこ市場は2014年に80億ドルで、2010年からの5年間で8倍に拡大。2020年には、2010年比で約20倍に拡大する見通し。

朝日新聞によると、東京都の小池百合子知事は2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたたばこの受動喫煙防止について「何らかの制度を主催都市の

責任でやるべきだ」と述べ、前向きに取り組む姿勢を示している。今後、受動喫煙防止や分煙などの必要性が求められる中、新しい「加熱式たばこ」をどのように扱うかなどの議論が進むとみられる。

*誤字を修しました

(清水律子)