銀行の国債保有新規制、資本増強を見送り バーゼル委、監督を強化
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国債を資産として持つリスクは二つある。一つは国がデフォルトを起こしてお金が帰って来ないリスク。もう一つは市場の金利が上がって手持ち国債の値段が下がり、評価損、ひいては国債の売却損を蒙るリスク。
自国民の預金を引き当てにして銀行が買った自国通貨建ての国債は、理屈から言ってデフォルトしない、と割り切っても、金利変動によるリスクは残ります。このリスクを規制しようというのが今回の主眼かと。
100円の元本に10円の金利がつく10年物の国債を100円で買えば、得られるリターンは毎年10%です。これを買った直後に市場の金利が上り、100円の元本に20円の金利がつく国債が売り出されれば、10円しか利息のつかない国債を100円で買うバカはいないはず。この国債は、利回りが20%になる値段でしか売れません。つまり、手持ちの国債の値段が下がってしまう。このリスクをカバーするため、持っている国債のリスク量に応じて自己資本を厚くしろ、と単純な数値計算で言われると、大量の国債を抱える日本の銀行は大変です。
そこは魚心あれば水心。100円の元本に10円の利息が付く10年物国債を買ったお金は、100円の元本に9円の利息を払う期間10年の元手で買った、と説明すれば、金利変動のリスクは消え去ります。資産側で損した分は、調達側の利益で賄えるから。このあたりをしっかり見ながら、当局が適切に銀行を指導します、ということで許されるなら、裁量余地が大きくなる。欧州と日本のせめぎ合い、デフォルメすると、こんなところじゃないのかな。通称IRRBB (Interest Rate Risk in the Banking Book)で世界的に銀行業界が資本賦課に大反対していたものです。
ただ、長い目で見れば金利リスクを資本規制から外すのは不自然なので、いつの日にかは自己資本比率の計算に含まれる方向であることは変わらないと思います。
むしろ、足元の環境では金利上昇によってバランスシートが傷つくVaR的なリスクより、金利低下によって利益が傷つくEaR(Earning-At-Risk)的なリスクのほうが深刻かもしれません。まず、国債保有を規制するルールではなく、金利変動により影響を受けるすべてのポジション、すなわち、国債、住宅ローン、預金等を含むバランスシート全体が対象です。
また、記事では金利上昇時に国債の評価損が増えるリスクだけに言及されています。もちろん、低金利の中、将来の金利上昇により評価損が増えると資本に間接的にマイナスの影響はありますが、今ではずっと低金利のため、あまりそちらのリスクが指摘されなくなっています。
むしろ、金利リスクとしてのもう一方の側面であり、多くの金融機関が直面している、低金利下で、金利からどうやって収益を上げるか、これを併せて見るべきことが国際的に明確化されたことが今回の見直しの大きなポイントの1つです。
図らずも、日本においてもマイナス金利が導入される中、銀行が将来の金利のジャンプに備えつつ、当面の収益をどう稼ぐかという難しい舵取りが求められる中、非常にタイムリーな問題の投げかけです。