ファイターズの球団経営【9回】
会員継続率9割超。ファイターズファンクラブの強みと課題
2016/4/9
ファンクラブ継続率90%以上──。
北海道日本ハムファイターズが2015年から2年続けて残しているこの数字を聞いて、スポーツビジネスに携わる人はもちろん、テレビの有料チャンネルや雑誌の定期購読、スマートフォンアプリの有料コンテンツ、アミューズメント施設の年間パスポートなど、コンテンツビジネスを行う者にはそのすごさが特にわかるのではないだろうか。
会員継続率はサービス満足度やロイヤルティを表す数字で、ファンビジネスにおいて最も重要なデータとされている。
ただし、もっと驚かされることがある。
ファイターズのファンクラブ会員は2月末時点で11万7000人ほどいる中、そのうちの6万人くらいは札幌ドームに年間一度も来場していないのだ。
この事実には、良い面と悪い面がそれぞれある。
会員は2種類で、入りやすさ優先
良い面から言うと、ファイターズが北海道で親しまれている証しと言える。
ファンクラブ会員のほとんどは道内居住者だ。彼らの入会動機は特典目当てだと考えられる。
ファイターズのファンクラブは中学1年生以上が対象の「ルーターズクラブ」と小学6年生以下向けの「キッズクラブ」の2種類あり、年間費はともに3300円(税込)。
もっと複数の会員コースを設ける球団もある中、ファイターズは入りやすさを優先している。
会員はチケットを一般客より早く、さらにディスカウント価格で購入できるなどのサービスに加え、特典プレゼントをもらうことができる。
今年はマウンテンパーカ、トートバッグ、キッズグローブの3種類から好きなものを1つ選ぶシステムだ。
球場に来なくてもファンクラブに入るのは、このプレゼントが魅力的に映るのだろう。
球場に行かなくても十分に価値
さらに、年間最大5回発行される会報誌も入会要因だ。
286円(税別)、約40ページの冊子はオールカラーで、選手や監督、コーチのインタビュー、オリジナル記事などがたくさんの写真とともに掲載されている。
選手やコーチは会報誌だからこそ話す内容もあり、ファンにはお得な内容だ。
会報誌5冊、さらに特典プレゼントが送料なしで自宅に届けられることを考えると、球場に足を運ばなくても十分に入会する価値がある。
一方で球団側にとっては、遠方の会員に情報を定期的に届け、ファンを維持、拡大できる。
ファンクラブグループでディレクターを務める福田恵介氏は、「1年入って終わりになるのではなく、長い付き合いをしていきたいと考えています」と話す。
差別化で5年連続会員増
過去5年間、ファイターズはファンクラブの会員数を順調に伸ばしてきた。
2011年は9万7299人、2012年は10万1312人、2013年は10万4827人、2014年は10万5811人で、2015年は11万5671人。
とりわけ昨年、新規会員を多く獲得している。
チームがレギュラーシーズンで2位に入り、クライマックスシリーズではファイナルステージまで進んだ一方、ファンクラブ入会を促す施策も行われた。
入場ゲートで会員証をかざすとピンバッジがもらえるようにして、ファンクラブ会員と非会員の差別化を図ったのだ。
つまり会員になるメリットをわかりやすいかたちで伝え、ロイヤルティも高めていった。
「ファイターズを好きになってもらい、来場していただきたい。ファンクラブでいろいろなイベントに参加し、その輪がどんどん広がっていく。そういう楽しみがコミュニティとしての位置付けにつながっていけば、すごくうれしいと思います。試合だけでなく、家庭、友達同士でファイターズの話題になってほしいですね」(福田氏)
チームとファンを近づけて活性化
ファンクラブ会員になると、選手と触れ合えるイベントに参加できるのも大きな特典だ。
チケットやグッズ購入、来場時などに付与されるポイントをためれば、始球式や選手への花束贈呈などを行うチャンスがあるだけでなく、オリジナルグッズと交換することもできる。
こうしたイベントや特典を通じて球団側が狙うのは、チームとファンの距離をいかに近づけ、一体化させるか。
そうして熱心なファンを増やすことができれば来場回数が増え、ビジネス的には収益がアップし、球団や球場が活性化していく。
会員になる立場からすると、選手とのコミュニケーションは最も魅力がわかりやすく、スペシャルな体験となる。
29日連続で選手からプレゼント
そこで今年の春季キャンプ中、ファイターズはキャンペーンを実施した。
毎日抽選を行い、ファンクラブにウェブ入会してくれた中の一人に対し、ガッツあふれるプレーとユーモアなキャラクターがファンに支持される杉谷拳士選手がプレゼントを贈ったのだ。
キャンプ地のアリゾナ、名護の名産品や球団グッズ、選手によるプレゼントが29日間連続で当たるこのキャンペーンはヒットし、ウェブの新規会員は1カ月で700人ほどに達した。
ファン、選手双方にメリットをもたらせることが球団の狙いだったと福田氏は説明する。
「選手個人のファンをつくっていければいいですし、球団としてはファンに杉谷選手を応援していただきたい。
選手とファン、お互いのきっかけづくりをしていきたいと思っています」
来場促進のため、新制度導入
球団にとって、ファンに一度でも多く球場に足を運んでもらうことがファンクラブ最大の目的だ。
裏を返せば、約半数の会員が年間一度も来場していないのは、改善していくべき課題である。
そこで今年、マイスタープログラムを導入した。簡単に言えば、チケット購入などの際に付与されるポイント割合を見直し、より多く来場した者にたまりやすくしたのだ(詳細はファイターズのウェブサイトを参照)。
だが熱心に球場へ来るファンが優遇されるこの新制度には、批判もある。
昨年まではファンクラブ継続年数が増えるにつれ、会員証がレギュラー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ(勤続年数10年以上)と昇格していたが、これを廃止したことで「球場に来ない遠方のファンを軽視している」との声が寄せられた。
ファンクラブでは今年以降も継続年数に応じて特典プレゼントを贈る一方、会員証というわかりやすいロイヤルティの証しが制度変更となり、反発が生まれたのである。
継続会員へのサービス内容自体はこれまでと同様の内容だが、見え方が大きく変わった。新しいことをすれば、最初は反対も生まれやすい。
ファンクラブとして継続年数を重く見るのか、より球場に来てくれる者にサービスで応えるのか。ファイターズとしては、後者を選んだ格好だ。
あと一歩届かない200万人の壁
2年ぶりのリーグ優勝を果たした2009年、観客動員数199万2172人と大台にあと一歩まで迫ったものの、過去6年間、その数字を上回っていない。
2015年は195万9943人と前年から10万人以上増やしたが、200万人には届かなかった。
果たして、今回のマイスター制度は来場者を増やす一手となるだろうか。
2016年3月29日、火曜の夜に本拠地開幕を迎えた札幌ドームには4万1138人のファンが詰めかけた。
翌日には3万7269人が観戦に訪れている。ファイターズにとって前年の1試合当たり観客数が2万7221人だったことを考えると、好発進を切ったと言えるだろう。
半年間に71〜72試合が本拠地で行われるプロ野球では、いかにリピーターを増やしていくかがビジネス面での成功のカギとなる。
その根幹となるファンクラブの改革が吉と出るか、グラウンドの戦いとともに注目される。
(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)
<連載「北海道日本ハムファイターズの革新的球団経営」概要>
2004年に札幌へ本拠地を移転して以来、グラウンド内外で好成績を収めている北海道日本ハムファイターズ。チーム編成やスカウティングで独自の方法論を持つ球団は、SNS活用や女性ファン獲得など経営面で球界に新たなトレンドをつくり出している。
いかにして北海道でファン拡大しているのか、ビジネス面の取り組みを隔週金曜日にリポートする。