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ロードサイドチェーン店の出店戦略 丸亀製麺(1)

【丸亀製麺】外食チェーンの禁じ手で攻める「持たない経営」

2016/2/29
全国779店舗を展開する讃岐うどんチェーンの丸亀製麺。麺やだしから、店舗で手作りするという独自手法は、味へのこだわりだけではなく、店舗数の急拡大とも密接に関わっていた。丸亀製麺を運営するトリドールの出店戦略を2回にわたってリポートする。

ローカルから一気に全国区へ

2月の土曜日、昼どきの「丸亀製麺 足立加平店」(東京都足立区)。環状7号線に面し、首都高速6号三郷線の加平インターもすぐ。車の往来は激しい。足立加平店は60坪、86席、駐車場26台。丸亀製麺のロードサイド店の標準サイズだ。

店に入るとすぐ、製麺機と大きな釜が目に入る。麺作りから一連の調理シーンを見物できるオープンキッチンが売りだ。注文はセルフ式で、うどんは300円前後だが、天ぷらやサイドメニューを入れて会計は500円程度になる。

休日らしく3人以上の家族連れが圧倒的に多く、営業車のサラリーマン、トラック運転手風の男性1人客がちらほら。

食べ終わると自分で食器を片付け、出口から出る。ぐるりとひと筆書き、一方通行の動線だ。さっと引き揚げる客が多く、回転は速い。12時半を回ると行列は伸び、駐車場も満車で出入りが激しくなっていた。

ロードサイド店、ショッピングセンターのフードコート、最近はオフィスビルでも見かける讃岐うどん店「丸亀製麺」。運営するトリドールの2015年4~12月期の連結純利益(国際会計基準)が前年同期比2.3倍の40億円程度になったようだ。4~12月期として最高益を更新する見通し、と好調が報じられる。

トリドール社長の粟田貴也(あわた・たかや)は1985年、兵庫県加古川市に焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を開店し、その後起業。2000年セルフうどんの新業態として開店したのが、丸亀製麺の1号店となる加古川店である。

わずか11年で47都道府県すべてに出店しているのはもちろんのこと、店舗の数は国内だけでも2015年3月時点で779店と急拡大を続けている。

「トリドールは兵庫県のローカル企業。それがショッピングモール展開の波に乗り、短期間で全国展開することになった」と粟田は振り返る。

大規模小売店舗法(大店法)廃止などの規制緩和を経て、2000年代前半は巨大ショッピングモール計画が全国で進んだ。家族連れが一日を過ごすショッピングモールにはフードコートが付きものだ。大手デベロッパーからフードコート出店の話が舞い込んだ。

「丸亀製麺」がフードコートに初出店したのは2003年。複数業態での出店機会を逃すまいとトリドールは翌年に焼きそば、その翌年はラーメンと業種を広げ、ショッピングモールの要請に合わせて出店を加速させていった。

勢いに乗り、2006年には東証マザーズへの上場を果たす。

味の地域カスタマイズは不要なうどん

しかし時期を同じくしてショッピングモールなどの大型商業施設が近隣の商店街、自治体に悪影響を与えるとの声が上がり、法改正で大型モールの建築が抑制される事態となる。

「これからというときだったが、ロードサイドへの出店に転換した。トリドールの中で最も成功したのが丸亀製麺。これからは丸亀製麺中心でいこう、となった」

トリドールは2008年上場市場を変更し、東証1部上場企業となる。そのときには丸亀製麺が会社の顔となっていた。

なぜここまで一気に規模を拡大できたのだろうか。

「出店先を選ばなかったんです。お声がかかれば、どんな場所でも積極的に出していきました。北海道に出店の後は九州、といったショッピングモールのフードコート開店に合わせて、そのスピードに付いていっただけ」と、粟田は言う。

コンビニエンスストアや食品メーカーが関東、関西で商品の味を変えるなど、地域に合わせて味のカスタマイズをするのはよく聞く話だ。しかし丸亀製麺の場合、地方ごとの客の嗜好(しこう)などの調査をする間はなかった。

「どこでも同じ味にしていた、と気付いたのはすいぶん後。同時に、そもそも味のカスタマイズが必要なかったことも分かりました。お客様は『讃岐うどん』を求めて来店していた。それだけ讃岐うどんの味が全国区だったということです」

トリドール 粟田貴也社長

トリドール 粟田貴也社長 (撮影:下屋敷和文)

脱セントラルキッチン

外食チェーンはセントラルキッチンで同じエリアの店舗の下ごしらえをまとめて行うのが一般的だ。その方が食材を大量に加工できるので、味が均一で効率的だとされている。しかも、各店舗での調理スタッフの負担が減らせる。

ところが、丸亀製麺は麺からだしにいたるまで、すべてを店舗で手作りしている。製麺機、釜などの初期費用がかかる上に、11坪程度の厨房面積も必要になる。

実は、手作りへのこだわりは、味へのこだわりだけではない理由があった。

「セントラルキッチンが要らないので、出店計画が地域に縛られない。いい物件ありきで、北海道に1店、沖縄に1店といった出店も可能」(粟田)

急拡大の時期には、セントラルキッチン導入を検討したこともある。しかし、「味がぶれるのを恐れず、店で作っておいしいものができればいい」というのが粟田の出してきた答えだった。結果的に、セントラルキッチンに縛られることなく、出店戦略を優先できたという見方もできる。

“店舗作りのプロ”入社で大幅コストダウン

2010年11月、トリドールに“店舗作りのプロ”が入社した。現在、店舗システム部の部長を務める島田一彦である。

島田は大手ファミリーレストランに20年勤務の後、店舗設計建築を手がける企業にいた経歴を持つ。手がけた店舗数は3000を数える。

「大手ファミリーレストランが全国で70店舗の頃、建設部で年間100店舗以上を手がけました。飲食業がまだ水商売と呼ばれていた時代です」

店舗設計建築の企業にいたときにトリドールと出合った。「丸亀製麺の前身の『びっくりうどん』の設計、焼き鳥の『トリドール』も手がけたこともあり、粟田社長とは面識がありました」

その島田が入社後に最初にしたことは、「言っていいのかなあ・・・『普通の取引』に変えていったというか(笑)」。

飲食の店舗建築設計は特殊だ。建築、施工といった専門が分かれているので、島田のようなトータルで現場を知る人間はまれだ。

「建築から設備、厨房(ちゅうぼう)の原価に至るまで、値段が分かる。見積もりが不当に高いことも、工事がずさんなことも。業界には『普通に』と言われることで伝わる共通言語がある」(島田)

まけてくださいではなく、適正な仕事を適正な価格でしてほしいという宣言。これによって基準を満たせない業者は消え、3カ月で10億円のコストダウンをさせた。

不動産を持つ意味が分からない

セントラルキッチンを「持たない」のと同じく、トリドールは全業種、全店舗が賃貸だ。土地も建物も「持たない経営」を貫いている。

「持つことで価値が上がる時代でもない。あえて資産を持つ意味が感じられない」(粟田)

ロードサイド店舗も「後編」で触れる都心型、海外店舗開発も、物件探しはパートナー企業との協働となる。

ロードサイドの場合は「交渉はデベロッパーが行い、土地オーナーが建物を建ててトリドールが保証金を差し入れ、完成後に丸亀製麺が入るなど、オーナーの資産活用として役立ててもらっている。店舗経営が思わしくない場合、業態変更という最終手段もあり得る」(粟田)

一部店舗で「駐車場待ち」が客をとりこぼしている問題に対しては、駐車場シェアリングサービス「akippa(あきっぱ)」と契約し、混雑具合に応じて店舗付近の月決め駐車場、個人所有の車庫などに柔軟に駐車スペースを確保した。トリドールは「akippa」に対して現在出資も行っている。

「出店の方程式は『周辺人口と交通量』。どこのチェーンストアでも言っていることだ。しかし出店してうまくいく『いい場所』は日本中に700~800カ所しかない。日本全国500店舗出店は達成できても、1000店舗達成となるとハードルが上がる」(島田)

確かに、2015年度、1年の出店は16店舗、閉鎖は11店舗と、かつての出店ラッシュの勢いは収まっている。しかし2020年末までに東京、神奈川、千葉、埼玉など首都圏を中心に新たに300店開く計画をすでに発表済みだ。そのための準備も着々と進む。

「まだ準備期間。再来期から再び出店ラッシュが始まります」(粟田)

(後編に続く)(敬称略)

(取材・構成・バナー写真:阿部祐子、編集:久川桃子)

*本連載は毎週月曜日に掲載予定です。