山崎さんバナー.001

年収1000万円会社員が一番損な生き方か

「金持ち父さん」になりたい大学生、お金に働かせるにはどうすべき?

2016/1/27
NewsPicksには、さまざまな分野で活躍する有力ピッカーがいます。そんなスターピッカーに「ビジネスや人生の相談をしたい」という要望に応えて、相談コーナーを設けています。人生の悩みにお金の心配や不安はつきもの。長年ファンドマネージャーとして活躍したエコノミストの山崎元氏が、皆さんから寄せられた相談に、ユーモアを交えながらも深刻にお答えします。

【山崎先生への相談】

私はS大学で経営学を学んでいる大学3年生です。大学に再入学してから出会った一冊があります。それは「金持ち父さん貧乏父さん」です。この本を読んで、私は将来について悩んでいます。「中流以下の人間はお金のために働く、金持ちは自分のためにお金を働かせる」。この言葉が頭から離れません。

学ぶために働く、自分のビジネスを持つために働く。私は資産家や投資家になりたいですし、自分のビジネスも持ちたいです。起業したい気持ちもあるので、人脈を得ることやより深く学ぶためにMBA取得も考えています。

資本主義においては、真面目に会社で働いている人よりも自分の時間を多く持っている資産家や投資家の方が収入が多いと聞きます。また、特に年収1000万円プレーヤーの会社員は一番損した生き方だとも聞きます。

そこで、質問があります。お金の流れを理解するために、自分のビジネスを持つために、そして資産家・投資家になるためにはどのようなキャリアプランを立てるべきでしょうか? ご意見をお聞かせください。
(大学生・男性)

「上機嫌な貧乏父さん」からの返答

はじめに申し上げておきますが、相談者は相談相手を間違えているかもしれません。でも、ご質問が面白いので、答えてみる気になりました。

回答者は、明らかに「貧乏父さん」側のキャラです。あえて胸を張るなら、好きなことが言えて、経済的に困らなければそれで良いという、金銭経済的な向上心が乏しいけれども、気分良く働いている「上機嫌な貧乏父さん」が私です。

主として「理屈」と「能書き」を販売しており、給料、印税、原稿料、などで生計を立てています。貧乏なわけでもありませんが、働かなくても暮らせるようなお金持ちではありません(また、自分が成功者であるかのようにハッタリをかます「自己啓発の売人」でもありません)。

さて、回答者は、「金持ち父さん貧乏父さん」を、お金の運用指南本としては高く評価しませんが、一種の「空気」を伝える読み物としては、大変よく書けた本だと思っています。

MBA取得は金儲けの役に立たない

読み取るべきメッセージは、第一に、学校成績的な優秀性はお金持ちになるに当たって無関係であり、お金持ちになりたければ「お金持ちになることを直接目指せ」、第二に「資産を有効に働かせなさい」ということでしょう。

相談者のように、「起業したい気持ちもあるので、人脈を得ることやより深く学ぶためにMBA取得も考えています」などというひ弱で迂遠(うえん)なことを考えるのは、この本を誤読しています。

MBAの知識がお金儲けの役に立つとは思えません。それ以上に、MBAに行かないと人脈ができないような人物が、起業して成功できるはずがないとも思います。時間と学費の無駄です。

起業したいなら、さっさと起業すればいい。大学は、その学校に入る学力があったことの証明に使えば十分であり、起業して成功するためにという点では、時間の無駄です。ビル・ゲイツ氏、スティーブ・ジョブズ氏、あるいは堀江貴文さんのように、大学を中退して起業してしまう方が、合理的ですし、大物感があって将来に期待ができます。

また、マーケティング、金融、ブランド、などの知識を得るために、それぞれの業界を経験するというのも時間の無駄ですし、そもそも学ぶに足るような立派な会社の側では、相談者を雇ってくれないでしょう。

仮に、そこそこのレベルで妥協して、あちこちの業種を回ることができたとしても、おそらく、どの分野でも十分稼ぐ力のない、中途半端な人材になってしまうのではないでしょうか。

自己啓発本の罠とは

自分の得意な分野を作り、これを生かし、不得意な物事は他人に任せることで、お互いが他人を利用するために、会社という仕組みが存在します。はじめは、会社にせずに個人事業主でもいいのですが、不得意分野は他人に任せるのが多くの場合賢明です。

また、十分な収入を稼ぎ出すくらいの多額の資産を持っているお金持ちと、資産のない会社員を比べることは不適切です。「自分のためにお金を働かせる」ことに意味があるのは、働かせるお金があるお金持ちになってからです。

いきなり「金持ち」のやり方ができるわけではありません。なりもしないうちからお金持ちになったつもりで気分を高揚させるのは早い! やすやすと「自己啓発本の罠(わな)」に引っ掛かっています。

お金を最大限に働かせることが大事なのはその通りなのですが、まずは、お金を稼いで、働かせることができる「タネ銭」をためなければなりません。「欲張り父さん」的な不動産コロガシを行うためだけでさえも、頭金は必要です。

そもそも、相談者は、お金持ちになって何がしたいのでしょうか。

思うに、グーグル、アマゾン、フェイスブック、といった近年登場して成功している会社の場合、最初からお金を主目的として活動を始めたようには見えません。もっと言うなら、株主のために利益を最大化しようとしているというよりは、理想とする活動を行うために株主の資本を手段として利用しており、「利益」は「目的」というよりも、「必要条件」として扱われているように見えます。

「お金に働かせて、お金を稼ぐ」などといった強欲で観念的な夢をぼんやり見るのではなく、自分は世界に対して何をしたいのかを考える方がいいのではないでしょうか。そのための手段としてお金が必要であれば、必死に稼ぐなり、実力と信用を養って、誰かにお金を出してもらえばいい。

MBAに期待したり、分野別のスキルを学ぶために会社を利用してから、ビジネスを持ち、起業しようと考えたりするような、失礼ながら善良でひ弱な相談者は、明らかに「貧乏父さん」の体質だと思います。「優秀な貧乏父さん」を目指すのでは、どうしていけないのでしょうか。世の中の多くの仕事は、善良な貧乏父さんたちによって担われています。

「年収1000万円プレーヤー」はいい

ちなみに日本の多くの会社のサラリーマン仕事で、「年収1000万円プレーヤーの会社員」になれるのなら、その気楽さと安定感を考えると、大変効率がいいといえるくらいです。出世しようとさえ思わなければ、余計なプレッシャーもありません。それに、「優秀な貧乏父さん」なら、もう少し稼ぐことは、そう難しくありませんし、その過程で蓄財と運用に励むと、少しずつ「金持ち父さん」の側面が増えてきます。

仮に、「金持ち父さん」を最短距離で目指したいなら、今のところ特別な取り柄の無さそうな相談者は、「できるだけブラックな会社」に入って、商売のやり方を覚え、できるだけ性格の悪い人間になって、その会社のビジネスをコピーしてブラックな会社を起こすのがいいでしょう。

そこまでする覚悟を持てないなら、潔く、「優秀な貧乏父さん」を目指しましょう。そして、お金がたまってきたら、「金持ち父さん貧乏父さん」よりも役に立つ運用の本を読んで下さい。

山崎氏に相談をしたい方はこちらまでご連絡ください。

*本連載は毎週水曜日に掲載予定です。