生命科学の知識は汎用性が高い

「生命科学」は生命の謎を明らかにして、 それを活用していく学問です。私はこの生命の仕組みを学ぶことで、個人や組織の課題を解決する力が高まるという持論を唱えています。

生命の仕組みに則った大局的な視点で物事を捉えると、それまで近視眼的に見ていた世界が変わり、生きやすくなるのです。

私は医師だった父の影響もあり、幼い頃から生命に関心を持っていました。ただ、病気の治療だけでなく、予防なども含めた幅広い観点から生命に携わりたいと考えて、生命科学の研究の道に進みました。

そして、大学院の博士課程在籍中に、ゲノム解析のベンチャーを起業。研究成果を生かした事業を行うことで、結果的に研究が加速し、進化するというシナジー効果をもたらす仕組みをつくりたいという思いがありました。

しかし、私の挑戦に対して「なぜ新しいことをわざわざやるのですか」と変化を望まない人たちからいろいろな反発を受け、時には苛立ち、不安を抱えることもありました。

そんな葛藤の中で生命の仕組みに思いを馳せると、すべての人が急進的な考えを持つことは人類にとって危険であり、多様な考えがあるのは当然のことだと思えました。

こうした生命視点や人類視点は、 研究や事業に限らず、仕事や生き方にも生かせます。

生命科学の世界は、急速に発展し続けています。今日わからないことが、明日にはわかっているかもしれない。そこには、私たちの想像を超えるような可能性が秘められています。

一方、社会に出た一般のビジネスパーソンが生命科学を学べる機会はほとんどなく、とても残念に思っています。この機会に生命科学の世界に触れ、理解を深めていただきたいですね。

高橋祥子

初心者が手に取るべき入門の書

まず、生命科学の入門書として挙げたいのが、生物学者・福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』と『動的平衡』のシリーズです。

私がプライベートで主宰している読書会でも、お薦めの書として紹介しました。生命科学に縁のなかった人でも、面白く読めると思います。

次に、生命科学の世界を網羅的に知るのに役立つのが、『遺伝子』『ゲノム編集の衝撃』『ジャンクDNA』『エピジェネティクス』 です。遺伝子研究の歴史からこれまでの 軌跡、今注目されている分野までを把握することができます。

さらに、人類の進化を変えてしまうほどの可能性がある革命的な技術を開発した科学者による手記『CRISPER』も読むと、ゲノム編集の最先端を知ることができます。

これらの推薦書を読んでいただくと、未来を想像する力がつき、今の生き方を変える契機になるかもしれません。

「NewsPicks Magazine Vol.2」より抜粋