これから日本をアップデートし、日本を再興するためには、まず意識を改革しなければなりません。これまでの常識を捨てて、新しい時代を生きるための能力を育む必要があります。
では、新しい時代に磨くべき能力とは何でしょうか。
それは、ポートフォリオマネジメントと金融的投資能力です。
これからほぼすべての日本人は百姓になります。百姓とは100の生業を持つ人という意味ですが、ひとつの職業訓練を受けて永遠にその職業についていれば大丈夫という考え方はなくなるということです。
これからの時代は、あらゆる人が、職業のポートフォリオを組みながら、暮らしていくことになります。
僕の場合も、大学教員としての稼ぎだけでは研究に関わるお金を自分で払いながら暮らしていくのは不可能です。
そもそも僕は、大学教員としての賃金を自分の会社から大学に入金しています。それよりも本を書いたり、講演をしたり、自分の会社を経営したりすることから多くの収入を得ています。それでも大学教員をやることは自分のミッションとして大事なのでやっているわけです。
つまり、これからの時代は、複数の職業を持った上で、どの職業をコストセンター(コストがかさむ部門)とするか、どの職業をプロフィットセンター(利益を多く生む部門)とするかをマネジメントしないといけません。
たとえば、区役所で働いている人が土木建設の会社で同時に働いてもいいわけです。もちろん、区役所に在籍していることを利用して、入札の際に土木建設会社に便宜をはかったりすると、それは収賄なのでだめです。利益相反は避けなければなりません。
しかし、この人が、副業として、ある地域をどう開発するかについて地域振興のビジネスプランを考えたりするのは別にいいと思うのです。
今の教育スタイルは、ポートフォリオマネジメントの考え方がないので、どうしても専門家を育てようとしてしまいます。すると、コストセンターとプロフィットセンターを分けるような考え方が出てこないので、優秀な人はみんな医者か弁護士か金融屋になってしまうのです。
医者は重要な職業であり、価値を生みますが、優秀な人が医者にばかりなる必要はありません。弁護士は、社会制度を複雑にしたおかげで生き残った職業です。それは公認会計士や税理士も同じです。これらの仕事の給料は高いですが、社会に富も価値も生み出していません。制度を難しくこねくりまわしているだけなので、あまり意味がないのです。
今後、AIが進化していったら、弁護士や公認会計士は今後さらに不要となってくるでしょう。
これまでの価値観では、ひとつのことを専門家としてするほうがかっこよく見えていますが、今後は、いくつもの職業を掛け持ちすることが大切になってきます。
たとえばTシャツが1枚しか選べないとしたら、どんなに頑張っても個性的な格好にはなりません。アウターも選べるし、靴下も選べるし、靴も選べるからこそ、個性が獲得できるわけです。
僕が所属するコンピューターグラフィックスの業界であれば、専門家の人たちはみんな同じようなことを考えています。毎年違う問題に向き合っていますが、その問題というのはだいたいみんな同じです。
そこで、問題に向き合いながら、面白い解決策を見つけられた人間がイノベーターだと言われます。
トップ研究者になるためには、時代感覚をつかむことが大事なのですが、日本人はこれがすごく苦手です。時代感覚をつかむ能力は、実は投資能力と近い。だからこそ、ポートフォリオマネジメントの能力に加えて、金融的投資能力が求められるのです。
金融的投資能力とは、「何に張るべきか」を予測する能力です。たとえば、うちのラボでも、つねにどのテーマに張るべきかを考え抜いた上で決めて、ライバルとの戦いを繰り返しています。このサイクルで戦い続けるには、時代性を理解しなければならないのです。
一般的に、日本人は時代を読むのが苦手ですが、それは専門性に分かれたからだと思います。ポートフォリオマネジメントをしたり、いろんなところに行ったりしていないので、タコつぼでしかものを見られないのです。
タコつぼにならないようにするためのコツは明確です。横に展開していけばいいのです。ひとつの専門性でトップレベルに上り詰めれば、他の分野のトップ人材にも会えるようになります。
ただし、むやみに横展開すればいいわけではありません。横との交流は、トップ・オブ・トップに会えるようにならないとあまり意味がないですから、まずは一個の専門性を掘り下げて名を上げたほうがいいのです。
ニッチな分野でも構いませんので、とにかくまずは専門性を掘るべきです。せめてひとつは、トップ・オブ・トップの人と話すに足る何かを探さなくてはいけません。
トップ・オブ・トップの人たちに会うのは、とても刺激になります。たぶん、僕のトップ・オブ・トップの分野は研究やアートです。10代と20代は、コンピューターを土台にしながら、アートやリサーチにのめり込んできました。
そこでの実績があるからこそ、いろんな分野のトップ・オブ・トップに会えるのです。
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