シリコンバレー発ロボット最前線

子ども向け市場で、高まるロボット需要

ロボットはなぜ、自閉症児の治療に役立つのか

2015/2/23

自閉症児のコミュニケーション育成に活躍

ロボットが意外な方法で利用されているのが、子ども向けのマーケットである。

「ほとんどのロボットはおもちゃなのだから、子ども向けは意外でもなんでもない」と思わ人も多いだろう。だが、この場合はおもちゃでない使い方でロボットが子どもの役に立っているというケースだ。

ひとつは、自閉症児のコミュニケーション育成のための現場である。最近、こうしたトレーニングでのロボットの有用性に注目が高まっている。

自閉症児は、コミュニケーションが苦手である。自分の気持ちを伝えられないだけでなく、相手の感情を推し量ることも苦手だ。

それをどうにかして改善させられないかと、大人がいろいろな工夫をしてきたわけだが、どうも人間よりもロボットが役立つらしいということが分かってきた。

こうしたところで使われるロボットは、小さなヒューマノイド型のロボットや、ぬいぐるみのようなモジャモジャした外見のロボットである。後者の場合は、タブレットやスマートフォンにそんなカバーを付けているだけのものもある。

あるいは、簡単な生き物の形をして、それがちょっと動くというタイプのものもある。重要なのは、子どもがやることや言ったことに対して表情やしぐさで反応し、インタラクティブなやりとりができることである。

ロボットと子どもとのやりとりは他愛ないものだ。「どんな食べ物が好き?」とか「昨日は何をしたの?」といったような内容である。子どもがそれに対して返答すると、さらにロボットも答える。そうして会話が進む。あるいは、本を読んだり、つづり方を一緒に勉強したりもする。

会話自体は、そこにはいないカウンセラーやセラピストがリアルタイムで入力して、ロボットにしゃべらせるという方法をとる。ロボットにはカメラが付いているので、子どもの反応や言ったことがモニターできるのだ。会話から進んで、ジェスチャーを真似し合ったり、一緒に踊ったりもする。相手と自分の間でやりとりが成立し、何かが通い合っているという実感がそこで求められているポイントだ。

病院でのロボット。(http://www.rxrobots.com)

病院でのロボット。http://www.rxrobots.com

注射の際にも、ロボットが活躍

なぜ、ロボットがいいのか。

それは、ロボットに子どもは安心感を持つからだという。人間が相手だと、その表情や存在の複雑さを察して自閉症児は情報のオーバーロード状態を起こすと言われている。つまり、感じていることに対して自分の処理能力が追いつかなくなり、パンクしてしまうのだ。

一方、ロボット相手ならばそれがない。ロボットという作り物には限られた動作や表情しかなく、予想不能な行動は起こさない。それでいて、ちょっと楽しい会話ができる。それが子どもの関心を引き出せるのだ。

現在、ロボット会社と大学の研究室、病院などが協力して、自閉症児の診断と治療のためにロボットを使ったプロジェクトが世界各地で進められている。ロボットが子どもに何かを尋ねたり指示したりするだけではなく、子どももロボットに何かを教えたりするといった方法もある。そうすることによって、自閉症児は他人と関わったり世話をしたりするというソーシャル・スキルを少しずつ身につけることができる。

子どもを相手にしたもうひとつのロボット利用は、病院である。最近開発されたのが、病院で治療を受ける子どものためのロボットだ。

例えば、予防注射のために来院した子ども。注射が怖いので、泣いたり叫んだり、逃げようとしたりするのが普通だが、そこにロボットがいたら、こんなふうに変わる。

子どもが処置室に足を踏み入れるやいなや、「ハーイ!」と手を挙げて挨拶。子どもが「あれ?」と視線を向けている間に、すかさずしゃべり始める。「僕もさっき注射受けたんだけれどさ、一緒についていてあげるから怖くないよ」と言い、次に「息を深く吸い込むと、痛みもましだよ」などと続ける。

会話のスピードは、看護士が子どもの腕を取って注射をする速度に合わせられており、子どもは注射針から目をそらしている間に注射が終わるという次第だ。最後には、「あっと言う間に終わったね。やった〜。ハイファイブをしよう」といって、子どもと手を打ち合う。

会話の内容や速度は処置の種類によって変えることができ、時間のかかる処置にはもっと長いプログラムが組まれている。注射の場合は、ロボットのおかげで痛みを感じた子どもが半分に減ったという。

大人にはおもちゃに見えるロボットでも、子どもにとっては大切な「相手」。それを意味ある形でどう振る舞わせるかは、これからの開発者の知恵にかかっている。

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。