【動画解説】戦争史から、ウクライナの「今」を理解する
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近代戦争は、フランス革命によって本格化しました。民主制と義務教育、そして国民皆兵の導入です。史上初めて国民の軍隊を持ったナポレオンは、ヨーロッパ大陸を席巻しました。
明治維新後の日本を含めこの体制をつくれた国と、現代までできていない国があります。第1次世界大戦も第2次世界大戦も、国民皆兵を確立できた国同士の戦争でした。これは、短い期間でも膨大な死者が出ます。今のロシアとウクライナの戦争もそうです。
国民皆兵の近代国家が圧倒的に強い、と思われていた20世紀、遊撃戦論が登場します。毛沢東によって提唱され、中国共産党の勝利や、ベトナム戦争によって、民衆のゲリラ戦が近代国家の軍隊を翻弄して消耗させ、勝利できることを実証しました。
ゲリラ戦はアジア、アフリカ、中南米、そしてアフガニスタンやチェチェンなどにも普及していき、ソ連(ロシア)に大打撃を与えました。この延長上に、21世紀に入ってからの、「テロとの戦い」があり、米国はベトナムでの誤りを繰り返さないために深入りせず、昨年アフガニスタンから撤退しました。
こういうゲリラ戦は、今後も起きるかもしれませんが、近代国家同士の戦争は、もはやそう簡単には起きないのではないかと思われていました。犠牲者があまりにも多くなるのが、わかりきっているからです。兵器の破壊力は、第2次世界大戦の頃よりもはるかに強力になっています。
今、ロシアとウクライナがやっている戦争は、第2次世界大戦とそう種類の変わらない戦争です。そういう古い戦争をやっている、というところに、世界中の多くの人々は戸惑っています。
ウクライナ側が、組織的戦争指導ができなくなれば、ゲリラ戦に移行していくかもしれませんが、それも、ベトナムやアフガニスタンで何十年も前にやったことです。
ロシア政府はずいぶん「新しい戦争」を提唱してきたのですが、何かテクノロジーを駆使した画期的な戦術で圧倒的に迅速な勝利を収めるのかと思ったら、20世紀と変わりません。米国のイラク戦争あたりと比べても、明らかに古い戦争です。
結局、グローバル化しているのは政治と経済であり、経済制裁の効果が極めて迅速に、絶大に発揮されるようになった、という点は、20世紀とは大きく変わっています。ロシアは古い戦争をやって、現代の経済の敗者になろうとしています。今回のウクライナでの戦争で、改めて注目されている言葉があります。
それは「ナラティブ」という言葉です。
一般に”(心情的な側面を持つ)物語”、のような文脈で使われますが、戦争の世界では「大衆の共感を掻き立てる(戦争目的の)物語”を言います。
そしてより優れたナラティブを作り上げることが、時に戦争の勝敗を分けることになります。
例えばこの動画にもありますが、国民国家がなぜ強いのかといえば、何百万、何千万の士気の高い兵士を無尽蔵に動員できるからです。
なぜそんなことが可能かといえば”自分達の国を自分で守る”という強烈なナラティブが全国国民に共有されているからに他なりません。
この国民国家という概念はフランス革命が生み出したもので、それまでの欧州の歴史を塗り替えた、画期的なナラティブでした。
ヨーロッパの王家が皆親戚なのはご存知かと思いますが、それは逆に言えばヨーロッパのどの国でもフランク王国に端を発する少数のゲルマン系の支配層が、その他の、特にローマ以来圧倒的多数のラテン系住民を支配してきた歴史だということもできます。
つまりフランス革命で確立されたのは、ゲルマン系王族支配を覆し、圧倒的多数の国民が自分達の国を始めて持ったのだという”ナラティブ”であり、その物語に熱狂して次々と建てられたのが国民国家という最強のナラティブを共有する国家群なのです。
因みにその歴史が本当なのかどうかは問題ではありません。
そのナラティブにどれだけ多くの人が共感するかどうかです。
さて、その意味では今回のウクライナとロシアには異なるナラティブがありました。
今回の戦争におけるウクライナのナラティブは”ウクライナは独立した国家であり、国民はそれを守るために戦う”です。
逆にロシアのナラティブは”ルーシは民族的に兄弟であり、一つに統合されねばならない”です。
戦争の歴史はナラティブの歴史です。
その範疇においては国民主権も帝国主義も共産主義による世界同時革命も、なんなら大東亜共栄圏やマニフェストディスティニーもシオニズムも全部一つのナラティブです。
もちろん戦争の勝敗には個々の人物の能力、戦略、戦術、兵力など様々な要素が影響しますが、大きな流れの中ではより強力なナラティブを持つ方が勝利を収める可能性が高くなります。
それが人類の戦争の歴史なのだといえるかもしれません。今回、西側諸国は最初から軍事力でロシアを止めるつもりはありませんでした。その代わりに経済制裁を事前に通告していましたが、プーチンを止めることはできませんでした。
今回はあえて足元の侵略戦争から一歩離れて俯瞰し、今起きていることが長い歴史の中ではどんな意味を持っているのか、動画で解説します。
今一番必要なのはもちろん、プーチンを止めること。そして中長期でこの侵攻を失敗に終わらせることです。継続的、包括的にロシア経済を包囲してプーチンが心から「ウクライナに侵攻しないほうが得だった」と思うように仕向けないといけません。もしも本当にロシアがこの戦いに「勝つ」事があると、世界の秩序は取り返しがつかないくらい、崩壊してしまうでしょう。