ベンチャーキャピタルはなぜ大型化に向かうのか?
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投資銀行、ベンチャーキャピタル共に、発行体、起業家に対して付加価値と差別化をいかに提供していくかが今後ますます重要になってくると思います。
日本で言えば、未上場段階の資金調達時点から上場後を見据えたエクイティストーリーを描けているか否かはIPO後のIR戦略に大きく影響します。
プライベートラウンドでは相対、IPOではブックビルディング方式によるプライシングという事でプライシング方法が異なりますが、分断されている訳ではありません。
プライベートラウンドからIPO、IPO後のセカンダリーまでのシームレスなアドバイスはスタートアップにとって有用ですし、そのようなアドバイスができるプロフェッショナルが増える事が必要と考えます。日本のベンチャーキャピタルでもWiLやグロービスなど数百億円規模の大型ファンドが出てきたのは、大型調達が必要な未上場ベンチャーへのリスクマネーの供給という観点で大変良いことだと思います。
一方で日本でユニコーンが多く生まれているかというとそうでもなく、大型のM&Aもほとんどないため、大企業や機関投資家から大型のファンドレイズができるVCはかなり限られています。
大きなファンドはホームラン案件が出ないと運用成績を残すのが難しいため、現実的にパフォーマンスを出そうとすると、調達可能額の観点から言っても数十億円規模の特徴的なファンドが多く出てきていて、しばらくはこういったファンドがアクティブに活動する印象です。
なお、下記記事を読めばシリコンバレーでのベンチャーキャピタル大型化の一端を垣間見ることができます。
【伊佐山元】シリコンバレーを揺さぶる、10兆円ファンドの「破壊力」
https://newspicks.com/news/3468368/body/スタートアップに対して、十分なリスクマネーを提供するのは、VCの最も根源的な価値だ。なので、未上場の期間が長くなり、上場までの資金需要が大きくなる中(VCからの資金供給が総体として大きくなっていることと表裏一体だが)、ファンドの大型化、スタートアップ1社、1ラウンドあたりの投資額の拡大は、VCにとって一つの差異化にはなる。(だが、本質的に、追いつけない強みではないと言う意味では、持続可能な強みとしての競争優位にはなりえない。)
この差異化、ある意味資本力の暴力をうまく活用しているのが、SBビジョンファンドになる。「300億円の投資で30%欲しい。30%取れないなら、競合に投資する。今日この場で決めて欲しい。」というのは、強烈な強みだ。だから、その辺りを鑑みて、Sequoiaが同質化を図るべくUSD8Bのファンドを組成しているのなどは、競争戦略上興味深い。
対スタートアップ向かい合いでは、ファンド規模が強みになる。しかし、VCのビジネスモデルで忘れてはいけないのは、投資家向き合い。
ファンドが大きくなれば、なるほど、スタートアップ向き合いでは、競争力が増す一方で、投資家向き合いで投資家の期待するリターンは出しにくくなる。通常大型ファンドに出資しえる投資家たる機関投資家は、10年間のファンドライフを通じて、成功報酬、管理報酬控除後のNetで2x、すなわち投資原価に対するリターンのGrossでざっくり2.5x程度が、一つの目線となる。
VC投資市場=スタートアップ市場の市場規模に対して、適切なファンド規模を設定することこそが、VC事業の経営者にとって、最大のコントローラブルなパラメータとなる。
よって、「スタートアップ向き合いでの差異化->ファンド規模拡大」、「投資家向き合いでのリターン(倍率)の最大化->ファンド規模の縮小」という2つのバランスをとることが、VC事業の経営者にとって、クリティカルに大事になっている。