フランス大統領を追い詰める「反乱」はなぜ起こったか
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「黄色いベスト運動」はガソリン税の値上げが直接のきっかけであるとされています。しかし、ベルギーにまで広がっている規模の拡大、死傷者や逮捕者の数、暴力のエスカレートなどから、マクロン大統領の進退に関わるところまで来ている、というのは、多くの人々には意外な展開だったでしょう。今やフランスでは恒例である自動車への放火だけではなく、黄色いベスト側はシャネルから略奪したり、凱旋門やチュイルリー宮殿のような公共施設を占拠したりしています。
なぜこうまで広がったのか、という疑問が様々な憶測を呼んでいます。ガソリンの値上げというのはわかりやすいきっかけであり、インフレと生活苦が主な背景であろう、ということはいえます。マクロン大統領の自由主義的な改革への反発はあるでしょう。ただ、疑問が持たれているのは、この運動が左翼や右翼、あるいは労働組合のの党派的な動員によるものではないことです。むしろ左右両方が参加していると見られます。「自然発生」にふさわしい無秩序ぶりでもありますが、それにしても継続的に急拡大してきました。デモ慣れしたフランスだからかもしれませんが、ロシア政府が、これまでも続けているヨーロッパへの介入の一環として、情報機関による煽動を行っているのではないか、という見方もあります。
マクロン大統領は、旧来の保守や社会党に代わる選択肢として、極右や極左も退けて台頭してきました。しかし、彼の掲げる自由主義的な改革や、ヨーロッパのさらなる統合、中東外交への野心、などは、実現困難になるでしょう。マクロン氏でもダメだった、となると、フランス国民には極右の国民連合のような選択肢しかなくなっていきます。英国と並んで、ヨーロッパの混迷を印象づける事態です。マクロン大統領のフランス語は美しいけれどトゲがあるというところです。そこが傲慢(Arrogant)と思われる理由でしょう。以下、少々長いですが、フランスのニュースチャンネル「France24」で放映された、G20サミットでのマクロン大統領の会見内容です。
12月1日にパリで発生した「黄色いベスト」運動の暴動を受け、
Les coupables de ces violances ne veulent pas du changement, ne veulent aucune amélioration. Ils veulent le chaos. Ils trahissent les causes qu’ils prétendent servir, qu’ils manipulent.
「この暴動の犯罪者たちは変革も、どんな改善も求めていない。彼らは混乱を求めている。彼らは(自ら)奉仕していると主張し、彼らが取り扱う(黄色いベスト運動の)原因を裏切っているのだ。」
と発言しました。この中でも「trahissent(原型trahir)」は裏切りの他に「叛逆」の意味を含みます。自分たちが正しい(イコールフランスにとって正しい)と思う理由にも「反逆して」犯罪者が暴れているというロジックでしょう。マクロン大統領としてはこの暴動を最大限の強さで非難しようとしたのでしょうが、結果としてこのような言葉選びが火に油を注ぎ、政治リスクを高めていると考えられます。
右派でも左派でもない新機軸(見た目には右と左のいいとこ取り?)を打ち出して大統領に当選したマクロン大統領としては、早くその成果を世に打ち出したいというところでしょうが、若さゆえかその進め方に焦りが見えます。それでなくても議論好きなフランス人なのですから、より丁寧に言葉を選び、政策対話を進めていただきたいと思います。元投資銀行家のマクロンは政治家としての実績がないまま、事実上の不戦勝で大統領に当選した。落ち目の社会党を飛び出し(そもそも馴染んでいなかったが)、反政府勢力として出馬。主要なライバルと目された中道右派のフランソワ・フィヨン元首相はスキャンダルで自滅し、多くの有権者が、残された選択肢となったポピュリストのマリーヌ・ルペンには投票できないと考えた。
ここの選挙戦はかなり当時は話題になっていました。トランプ戦やブレグジット論争などに相まってルペンが勝つのではないかという予想も多かった中で、勝利したマクロン。
彼の評価が結局のところマイナスで終わってしまうことは、フランス国民にまた同じ危惧を与えてしまうことに繋がります。
トランプが選出されたことやブレグジットの評価がポジティブに受け止められた場合、これらと総合して国際的な世論が形成される可能性すらあります。