1円の水を100円で売る方法 - 人がミネラルウォーターを買う理由
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昔ヴィッテルとボルヴィックの判断がよくつかなかった頃、ボッテルと言ってしまい、派手に笑われたことがあります。それほど水は’水商売’とも言えます。実際タダのものからペットボトル1000円超のブランドまでありますから。
価格を決めるのはバリュー。産地や天然ミネラルの量といった属性的なものか、その水にまつわるストーリーとか。ここに後者のユニークな例を紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=RyjTg4w-J7A
NYでは水道局が腰を上げて2005年ごろから水道水(Tap Water)をそのまま飲めるまでに水質改善しました。でも人々はレストランでタダのTap Waterを頼むのはお金をケチっているようでかっこ悪いと思っていた。6−7ドル出して、エビアンやガス入り水を頼んでいたわけです。そこにUnicef Tap Projectが登場。2017年のとある1日だけ、レストランで1ドル出してTap Water を頼もうというキャンペーンです。当時SEX AND THE CITY で注目されていたサラジェシカパーカーを始めセレブがアピールしたところ話題になり、流行りもの好きなニューヨーカーが注文しました。翌年から開催期間が長くなり参加レストランも増えて、その後NYを超えて全米へ。今ではワールドワイドで実施されています。
問題はなぜみんなが水道水に喜んで1ドル払おうと思ったのか。それは払ったお金が、きれいな水を飲めない人々が生活するアフリカなどの途上国に寄付され水道施設を作る費用に回るから。チャリティーに貢献するという大義名分があるからです。ここに価値の付加があります。
この記事にある東京の水道水がどれくらい売れているのかわかりませんが、水が美味しく綺麗になったというデータ以外に何かがあると、なお売れるかもしれませんね。プライスアンカリングは、自動車やスマートフォンなどの耐久消費財でもよく使われる手だ。仕様によって価格が3種類ほどあって、その実、その価格差にどれだけ正当性があるか分からない、という。多くの場合、上から二番目くらいが最頻購入者価格になり、これにオプション付けたりで、結局は最も原価率低く買う人が一番多くなる(企業側から見ると最も利益率が高くなる)という仕掛けだ。
価格は購入者側が感じるベネフィットに対して「いくらまでなら出して良い」と思うかで形成される。そして「この価格なら出して良い」と思う人が増えて、供給が追いつかなくなると、中には追加でお金を払ってでも欲しい、という人が現れ、さらに価格は上昇する。購入者の心理次第で価格は変わるわけだ。
その心理を左右するのが「ベネフィット」で、それには本記事にあるようなイメージから来る安心感だったり、歴史やブランド価値みたいなストーリー性だったり、SDG的なチャリティによる社会貢献だったり、希少なものを所有する優越感だったり、個々人の価値観によって多種多様だ。
だからこそ、個々の消費者の価値観を見極め、定義した上で、彼・彼女が感じるベネフィットというものが何かを定義し、それに合わせて商品を作りこみ、位置づけ、訴求し、値付けし、販売していく、ということが、マーケティングそのものとなる所以である。P&Gをはじめとするマーケティング企業が、新人教育で最初に行うのが「水のとらえ方」だそうです。現職の方から聞いたわけではないので、いまは違うかもしれませんが。
コップ1杯の水を「コップ1杯の水」ととらえているうちは、マーケティングを行うことはできません。
それを「喉を潤すもの」や「アルコールの合間の一杯」と解釈してはじめて、水を売ることができます。
素人目線で見ると言葉遊びのように思えましたが、彼らは「マーケターの仕事は『コップ一杯の水』を売る仕事ではない。『コップ一杯の水』の使い方を提案する仕事だ」というのです。
記事中にあるように「錯覚」を軸に説明すると怪しく思えますが、ソリューションの提案だと言われれば、それはそれで納得できるものなのではないでしょうか。