すべて紙製なのに動くロボット、その秘密は「熱」にあり
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ポリ乳酸(polylactic acid, PLA)は、トウモロコシやジャガイモなどに含まれるデンプンなどの植物由来のプラスチック素材です。他の有名な樹脂に比べると、例えば「ポリスチレン(PS)樹脂」や「ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂」よりも優れた機械的特性(降伏点は49.5 MPa、弾性率は2346.5 MPa(■1))や高い成形加工性を有していることから、新たな汎用性樹脂として注目されています。
記事中の動画にあるような動きは、指で触れたときに移動する熱がグラフェンを通して熱可塑性樹脂に伝わることで、オジギソウ(sleepy plant)のような変形(元の形状に戻る)を生じます。
物を掴む力やその速度は、その形状記憶効果を有する材料(今回はPLA)の発生力等に依存するので、一部は機械的な構造設計によるものの、最大荷重に限界があるといえます。また、記事中ではあまり触れていませんが、一般的に、変形前後での変位ズレ(ヒステリシス)や、繰り返し使用による精度の劣化が問題になることから、機械部材への応用も制限が限られているのが現状といったところでしょう。もちろん熱の非効率さも課題なるかと思いますが、それはまだまだ先の問題になるはずです。
そのため、大きな荷重を受けず、精度が求められないこのようなインテリアチックな用途には、このような軽く成形性の高いポリ樹脂が今のところ最適化ではないかと思います。
■1 ポリ乳酸の脆性の改良
http://www.dic-global.com/ja/r_and_d/review/pdf/dic_r_and_d_2004_exposit01.pdf最近はポリマーがうねうね動くのがトレンドでしょうか。
より強力で応答の速いアクチュエータの実現に一歩ずつ近づいている感じがしてワクワクします。
ところで植物は思いもよらない工夫をしていて面白いですよね。
記事内のポリ乳酸に触れると思いきや以下(ほぼ)草の話。
🌿オジギソウ [含羞草]Mimosa pudica (マメ科ネムノキ亜科)
オジギソウの接触傾性は、葉沈付近のみのわずかな水分移動に伴う膨圧運動によって発現します。アクチュエータも、この部分までヒントにすればさらに小さいエネルギーで動かせるかもしれません。
植物に関する身近な疑問に本気で全力回答する、日本植物生理学会のQ&Aコーナーに、さらに詳しい原理が説明されています。
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=821
回答されている神澤信行先生のオジギソウ研究概要はこちら
http://sephiroth.mls.sophia.ac.jp/teacher/archives/000021.html面白い。
実用性の観点ではまだまだ課題が多そうだが、こうした「考え方/アプローチ方法」は思考に刺激を与え、様々なアイデアに発展していきそうだ。
熱(温度)による形態変更は、実はすでに4Dプリンティング技術で試行が始まっている。4Dプリンティングはがートナー社の「先進テクノロジーのハイプ・サイクル」でまだまだ黎明期に登場するに過ぎないマイナーな技術領域だが、生産後に形態を変化させる性質を予め組み込んでおくことで、例えば宇宙への物資運搬含めた物流の効率化を実現できるような技術だ。
第四軸は、本記事にあるような「温度」でも良いし、単純に「時間」でも良い。「湿度」や「気圧」を変数として想定するのも良いだろう。
本記事は4Dプリンティングの観点ではないが、従来的な材質や動力ではない新しいアプローチが興味深い。現在では紙は耐性等の問題で工業製品には向かないとされるが、一方で段ボールのように充分勝負できている製品もある。一般企業ではなかなか研究が難しいかもしれないが、人類としても様々な代替案をもっておくことは変化に際しての重要な要素になるように思う。