【現地レポート】国民10%強のゲノムデータを収集、エストニアのゲノム解析プロジェクトの狙いと現状
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エストニア国民ゲノムプロジェクトが大きな意味を持つと思う理由は、
①個別化医療による癌や生活習慣病の克服可能性
②高齢化と医療費増大への解決策提示
③国の学術研究力の底上げ
④国民のリテラシー向上
⑤新しいテクノロジーの社会普及時の倫理的課題の克服
など多大なメリットを国にもたらすだろうという点です。
このプロジェクトに投じられた数百万ユーロを「経費」ではなく「未来への投資」だと語っているのはまさにその通りで、その意思決定を国ができるのが素晴らしい。記事ではあまりフォーカスされていなかったですが、エストニア国家の遺伝子情報による差別禁止に関する法的枠組みについても、もっと勉強したいですね。このような施策が打てるのは「情報セキュリティに長け、信用できるソリューションと共に遺伝子情報の活用のされ方が理解できる"自国の"企業」と「遺伝子情報の保護法・差別禁止法」の2つが揃わないと成り立たないでしょう。その意味で日本は相当遅れています。
特に、日本は遺伝子情報によって差別を規制する法的手当が未だありません。https://www.sankei.com/life/news/180617/lif1806170014-n2.html
米国では2008年に遺伝子情報差別禁止法(GINA)が成立して久しく、この重要性は騒がれて長いにもかかわらず、法律としては対応できていません。これでは遺伝子情報をもとにした生物医学的研究と人々の医療へのアクセスを長く妨げる危機感が募るばかりです。
一方で、これらの情報に関しては健康保険会社などのビジネスモデルに今後ますます大きな影響を与えます。保険、例えば自動車保険はスポーツカーや若者相手には保険料が高くなったりとリスクモデルシュミレーションに基づいて適正に計算されて成り立つものです。生命保険、健康保険においては、遺伝子情報のリスクが正確に予測できるようになればなるほど調整、介入が必要になります。
よくお見本としてあがる上述のGINA法ですが、実は生命保険(健康保険じゃない)、所得補償保険、長期介護保険は対象外のため、労働者を完全に保護できない制度上の課題も抱えていたと思います。https://www.fastcompany.com/3055710/if-you-want-life-insurance-think-twice-before-getting-genetic-testing
いろんな側面がありますので一筋縄ではいかない問題ではありますが、遺伝子情報を活用できる社会の実現には避けて通れない問題です。逆に言えば、既に運用されているGINAの課題、電子国家としての運用のやり方など、先にある知見を参考にできるわけですので、ここまできたらせめてしっかりした法案が成立することを願っています。記事はエストニアの例ですが、これに先立ってアイスランドでも民間のdeCODE genetics社が全人口の3割にあたる10万分のデータをもっていて、今でもバンバン論文を出しています。
アイスランドは1000年以上前にノルウェー人とケルト人の移住によってできた国で、家系図もしっかりしていて遺伝的データや病気の家族歴をかなり正確に追跡できるメリットがあります。エストニアがこれに続くか注目です。
個人情報という観点から「ゲノム情報を使うべきか」という議論もありますが、話はすでに「ゲノム情報を『どう』使うべきか」というステージに移っていると思います。