筑波大教授ら心臓細胞のもと作製 再生医療への応用目指す
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美しいお仕事。Cell Stem Cell 誌は幹細胞研究専門誌ではトップジャーナルに位置します。最終的にTbx6の一つの遺伝子に絞り、Tbx6が確かに心臓中胚葉細胞を線維芽細胞から直接誘導する遺伝子であること、ES細胞やiPS細胞から心臓中胚葉に分化することを証明されています。今後、心臓系の分化誘導屋さんにおいては無視できない遺伝子になることは間違いないと思います。
今まで背骨の形成などに主に関わると考えられていたTbx6が心血管系の細胞誘導の調節にすごく重要というのがわかった事がインパクトです。2017年の末に論文を投稿されているので、約8ヶ月でのお目見えです。
論文を読んで思いますが、Tbx6は心臓中胚葉細胞のあとは逆に量が抑えられないと心血管系細胞に行かず、筋骨格系の細胞を作ってしまう事が明らかになったのも素晴らしいです。出っぱなしだと筋骨格系にいくから今まで背骨の形成などの作用しかわかってなかったのだと推察します。
長く乱暴になりますが、興味のある分野外の方だけには、この手の論文の面白さをくだいて伝えたいとおもいます。
(1) 心臓中胚葉細胞をつくりたい > なにが心臓中胚葉になるのに重要な遺伝子なんだろう??
(2) 遺伝子と言ってもすごくいっぱいあるので心臓中胚葉細胞と、他の細胞を比較して、心臓中胚葉だけに特徴的な遺伝子を絞ろう > 58遺伝子(既報)
(3) お互いがお互いに働きかけて重要な場合も多いから 1個ずつ細胞にそれぞれ入れてみて、心臓中胚葉になったときの目印の遺伝子(Msep1)が出てきたらそれが一番重要なんじゃない? > 58頑張った!Tbx6 が突出してMsep1を上昇させた!
(4) 実際になんにでもなるはずのES細胞やiPS細胞にTbx6入れてみよう > 心臓中胚葉細胞っぽいのできた!
(5) 心臓中胚葉細胞か確かめるために、そっから先の心血管系細胞も今までの方法と合わせてやってみた > 今までの方法で心血管系(の目印が出ている)細胞が全種類できた!
ES細胞やiPS細胞が不要という好きそうなタイトルをつけて報じるメディアもありますが、むしろ今日の段階ではES細胞やiPS細胞と組み合わせてスクリーニング用の細胞を作るのにすごく役立ちます。もちろんダイレクトリプログラミングも今後期待です。ES細胞やiPS細胞を経由せずに直接他の細胞に変化させることは「ダイレクトリプログラミング」といいます。
今回は遺伝子1つだけ入れる方法で、iPS細胞作成の手順をステップできるため、うまくいけば体外から遺伝子を注入するだけで心臓関連の病気を治療できるかもしれません(生体内ダイレクトリプログラミングということもあります)。
ただ今回の成果は、線維芽細胞にその遺伝子を入れても心臓中胚葉という心筋細胞の一歩手前までしかできなかったので、生体内ダイレクトリプログラミングを使った治療に直接につながるかどうかはまだ不透明です。マウスES細胞やヒトiPS細胞に導入すると心筋細胞まで分化できたとのことなので、使われるとしたらしばらくは基礎研究でしょう。
ちなみに日経新聞も似たような記事を掲載していますが、日経新聞は心筋細胞まで分化したかのような記述なので、かなり盛っています。ご注意を。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3403411010082018EA2000/iPS細胞を用いた発表が、京都大学に続いて今度は筑波大学からありました。
「心筋梗塞が起きた部分で増殖する線維芽細胞に、たった1種類の遺伝子を入れて働かせることで、心臓を構成するさまざまな細胞を生み出す「心臓中胚葉細胞」に変身させることに成功した」
今後ますますこの分野が日本で発展することを期待しています。