【証言】カンヌ受賞者が語る、映画監督が困窮する「3つの理由」
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芸術家と学者が困窮するのは、古代からあったことです。理由は、それほど多くの消費者が必要とするものをつくっているわけではないからです。より正確に言えば、多くの消費者は、量子力学も航空工学も哲学も、それが自分に必要だとは思っていないからです。例外はあって、歴史に名を遺すほどの芸術家や学者の半ばくらいは、かなりの所得を手にしています。もちろん、一握りで、ピラミッドの中のチロルチョコくらいの容積でしょう。どうしたって市場原理で儲かるはずのものではありません。
芸術家や学者が数多く富裕になれた例外的な時期が19世紀から20世紀にかけてありました。一つは大衆資本主義の発達で文化産業が巨大化し、それと結びついた芸術家や学者が富裕になったため。もう一つは、国民国家の権限が強大となり、国民の統合と動員のために芸術や学問を必要としたためです。中国のような後発の国を除けば、国民国家による芸術や学問の保護は収縮しつつあります。大衆文化産業の隆盛もピークを過ぎており、グローバル化の状況下では、多様性を保つことも難しくなります。頭脳流出のようなことも起こり、映画の世界でも、食っていくためにはグローバル生産拠点のようなところに人材が集まったりするのでしょう。
王侯貴族や国家といったパトロンでもなく、大衆文化産業でもなく、出資者を求める、ということでクラウドファンディングということになるのでしょう。やはり、なぜお金を出してくれるのか、がポイントで、同人活動でいいなら趣味が合う同好の人士ということでいいのですが、映画くらい多くの人たちが食べていける、となるとさらにお金が集める仕組みへの飛躍が必要に思えます。日本のクリエイターのレベルって、実はかなり高いと勝手に思っています。たとえば建築家でいうと、ヨーロッパで出版される「現代の建築家トップ100」みたいな世界的特集で日本人建築家が15人取り上げられるというくらい。
そのレベルに比して、クリエイターの収入が低く、「苦労を買ってなんぼ」的な価値観が前提となっている気がします。建築でもそうですが、徒弟制で20代は丁稚、30代は修行、40代で若手、50代で一人前、みたいな。
ぼくが学生時代に建築学科だったころに、大学の卒業設計なる全国設計競技で日本1位と日本2位になった同期の親友たちが、「アトリエ」と呼ばれる建築家の設計事務所に入って、初任給月10万円くらいという。
必要以上でなくても良いのでしょうが、もう少し、クリエイターが儲かる仕組みを社会として用意できると思います。
アニメや漫画なんか良い例で、韓国などにいいようにやられている気がします。たとえばクールジャパンの予算も、もっとうまい使い方があったのではないか。海外への販路拡大を中心とした投資より、クリエイター育成やしっかりとしたエージェントモデルの確立に向けた投資をすべきではないか。
社会の仕組みを変えることで日本のクリエイターの才能がさらに開花していくことを望むばかりです第三回は、2016年に、「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞された深田晃司監督です。
監督には、映画業界の、そして映画監督の知られざる実情と映画業界の課題について話していただきました。
最新作の公開直前にも関わらず、時間を作ってくださった深田監督は、
「こういう話だったら、3時間くらい話せますよ」と、熱のこもったトークをしてくださいました。