人工知能を利用して契約書をレビューするソフトウェア「ロー・ギークス」(LawGeex)が、人間の弁護士と勝負をした。結果は驚くべきものだった。

多大な時間を要する契約書レビュー

弁護士たちよ、警戒せよ。ボットが来襲し、君たちの仕事を得意分野にしつつある──。
弁護士にとって契約書レビューの作業はかなりの時間がかかるうえに、ひどく退屈な作業だったりする。
イスラエルのテルアビブを本拠とするスタートアップ、リーガロジック(Legalogic)の共同創立者たちが、2014年に同社を立ち上げた理由もそこにあった。同社は人工知能(AI)を使って契約書をレビューし、普通とは違うと思われる文言や条項を検出するソフトウェア「ロー・ギークス(LawGeex)」を作っている。
ロー・ギークスは、すでに2017年の早い時期にリリースされている。だが、最近になって同社は、このソフトウェアの真価について正確なところを知りたいと考えた。
デューク大学とスタンフォード大学の弁護士の監督のもと、同社は20人の経験豊富な弁護士に5通の新しい非公開契約書をレビューさせるいっぽう、AIにも同じ作業をさせるという研究調査を行った。
その結果、弁護士たちは85%の精度という、まずまずの成績をあげた。では、ソフトウェアはどうかというと、精度は94%だった。
それだけではない。弁護士がこのタスクを終えるのに平均で1時間32分を要したのに対し、AIはわずか26秒で作業を終えた。つまり、人間の競争相手より精度が高かったばかりでなく、仕事の速度は200倍も速かったのだ。

顧客リストに大手銀行や保険会社も

リーガロジックの共同創立者のひとりでCEOを務めるヌーリ・ビホールは、イスラエルで最大の法律事務所で弁護士として6年間をすごしたあと、この新しいベンチャーを追求しようと決めた。
「法律の世界がひどく非効率的なことについて、日々フラストレーションを募らせていた」と、同氏は言う。「繰り返しが多く、つまらない仕事ばかりだった。そして、弁護士がより良く、より効率的に仕事をするのに役立つような、本当の意味でのテクノロジーは存在しなかった」
パラリーガル(弁護士の補助業務を行う専門事務職)としてすごした職業生活の初期において、ビホールは多くの時間を文書のレビューに費やしたという。「特定の種類の契約書の例を何百通と見ると、同じコンセプトが何度も繰り返されていることがわかる。わたしは、これほど反復的なのだから、自動化は可能だろうと思った」
ある知り合いを通じてビホールは、テック業界のベテラン、イラン・アドモンを紹介された。そして、互いに協力しながら概念実証を行い、リクルートやエブリシングミーを含めたエンジェル投資家やベンチャーキャピタルから800万ドル以上を調達した。
ロー・ギークスは、受け取った契約書をユーザーがプリセットできる一連の基準と比較する。そして、その契約を承認する前に手直しが必要になりそうな条項を探し出してくれる。
この製品は、すでに多くの企業の社内法務グループによって積極的に利用されている。リーガロジックによれば、シアーズ、デロイト、スカイビューキャピタル、キーエナジーなどは初期からのクライアントであり、顧客リストには複数の大手銀行や保険会社も含まれるという。
契約書を調べて、注意が必要な文言や条項を検出できるAIの開発は、口で言うほど簡単なことではない。少しでも変わったところのある情報をすべて検出してしまうようなソフトウェアは、あまり使いやすいものではないからだ。
たとえば、シカゴで部屋を借りる契約をするとき、物件の所有者の住所がミシガン州であるという事実について、注意を促してもらう必要はおそらくないだろう。だが、中途解約した場合には家賃5カ月分を請求するという条項があるなら、それは知っておきたいに違いない。
この問題を解決するためリーガロジックは、弁護士たちの手助けを借りながらAIを「訓練」した。これはこのソフトウェアに数量的な観点のみならず、質的な観点からも普通と異なる情報を見分ける能力を与えるのに役立った。

創造的なタスクの時間を増やすため

ここでひとつの疑問が持ち上がる。これに協力した弁護士たちは、自分を不要な人員にすることに一役買っただけなのではないだろうか。ビホールの答えはノーだ。
「効率という点で、このソリューションが生み出す価値に注目してほしい。つまり、ビジネスをスピードアップして、お金と時間を節約できるということだ」と同氏は言う。
さらにビホールは、シリコンバレーでよく使われる論点を援用し、このソフトウェアは勤労者に対して、より興味深く創造的なタスクに振り向ける時間を与えてくれるはずだと述べた。
ただし、「もしわたしが、こうした単純な契約書のレビューだけで生計を立てているとしたら、状況の変化に適応せざるを得なくなる」ことは、同氏も認めている。
ビホールは、このソフトウェアは一般企業にとっても有用だと考えている。スピードあるいはコスト効率の観点から、企業が法律家によるレビューを省くことはしばしばあるからだ。「レビューを省略するのは、より大きな法的リスクを負うことにつながる」と、同氏は語る。
あらゆるテクノロジーがそうであるように、このソフトウェアにも限界はある。したがって、弁護士の大半についてはすぐに職を失うおそれはないだろう。
「いつでも、どんな種類の仕事でも、人間の弁護士より正確だと主張するつもりはない」と、ビホールは述べる。「わたしたちが示そうとしているのは、ありきたりで反復的で単純な仕事なら、テクノロジーが人間よりも良い仕事をする可能性があるということだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:Martin Barraud/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.