「新・バブル世代」誕生。究極の売り手市場がやって来た
2018/2/19
頑張らなくても大丈夫
「大丈夫、大丈夫。就活は余裕。早慶は、頑張らなくても、絶対に内定が出るから安心して!」
新卒採用支援を手がけるリンクアンドモチベーションのカンパニー長、高嶋大生氏は、早稲田大学で行われたOBとの交流イベントに出席し、2018年卒が2019年卒の後輩にそう言い聞かせている姿を目撃したという。
東大や早慶の学生の間では、「とりあえずコンサル」という言葉が、よく聞かれる。
希望業種を決めきれない学生の多くが、複数の業種の仕事を請け負うコンサルティング会社を“とりあえず”受けるのだという。
コンサルティング会社と言えば難関との印象があるが、「上から順に受けていけば、だいたいどこかには引っかかります」と、東大経済学部のある4年生は言ってのける。
新・バブル世代の誕生──。
2019年卒の就職の容易さ、そして価値観は1周回って“バブル回帰”したといっていい状況だ。
2018年卒の大卒求人倍率──民間企業への就職を希望する学生1人に対する、企業の求人状況を算出した数値──は、実に1.78倍。学生1人に対し、1.78社の需要がある計算だ。
実際、2018年卒の学生の内定を取得した企業の総数は平均して2.45社に達する(「就職白書2018」より)。
先輩が受けた会社を受ければ、どこかは受かる──。そんな認識の学生が多いせいか、学生の多くは、自身の「やりたいこと」や適職探しにさほど熱心とは言えない。
以下のグラフを見て欲しい。
入社後、「自分のやりたいことにチャレンジしたい」という学生は4割程度しかいない。
一方、「やりたいことがわからない」「評価されればやりたいことができなくてもいい」と答えた学生が57.3%にも及ぶ(i-plug 2018年卒学生対象 就活生の「働き方」に関する 意識調査アンケートより)。
実際、前出の高嶋氏によると、「企業が学生に内定を出す “ゲート”は明らかに緩くなっている。詰めきれていない志望動機や、自己PRでも通してしまう傾向が強くなっている」と言う。
こうして年々、内定の“ゲート”が緩くなった結果、「就職活動は厳しかった」と答えた学生は37.7%(2017年卒、キャリタスリサーチ調べ)しかいない。
同調査において、就職氷河期だった2010年卒の実に77.5%が「厳しかった」と回答したことと比べると、隔世の感がある。
下がる企業の学生への満足度
一方で、採用する企業側の入社予定者への満足度は年々下がっている。
「就職白書2018年」(就職みらい研究所)によると、2018年卒の入社予定者への満足度は「非常に満足」と「どちらかというと満足」を足しても59.1%にすぎない。4年前の2014年卒と比較すると8.3ポイントも減少している。
とくに、2018年入社予定者の「量」「質」ともに満足していると答えた企業は36.2%しかおらず、2016年卒の41.3%と比較しても5.1ポイントも減少している。
この満足度の低さが意味するものはなにか?
学生の傾向と欲しい人材の乖離
最近、大手を中心とする企業は、主に40代以上のミドル層を集めては「自律型人材セミナー」などを開いている。
また、好景気と言われながらも、中高年のリストラを検討する大企業もある。
昨年、みずほフィナンシャルグループ(FG)が1万9000人、三菱UFJFGが9500人、三井住友FGが4000人と3行合計で3万2500人の業務量削減を検討中とのニュースは世の中に衝撃を与えた。
さらに、経済産業省は昨年話題になった「不安な個人 立ちすくむ国家」(通称「若手ペーパー」)という資料を公表し、大胆にも、「正社員になり定年まで勤め上げる」という「昭和の人生すごろく」のコンプリート率は既に大幅に下がっていると認めた。
今や、多くの企業は、640万人を超すと言われる「社内失業者(企業に勤めながらも仕事がない人)」の存在を持て余している。
その中心をなすのが、大量入社させたバブル世代(1965〜1970年生まれ)なのだ。
そのため企業側は、新卒入社組に対しても、「キャリアオーナーシップのある学生が欲しい」「圧倒的当事者意識が高い人に来て欲しい」と強調している。
特集4回目に登場する伊藤忠商事の人事・総務部長、垣見俊之氏は言う。
「今、どの企業も今後のビジネスモデルをどう構想すべきかを模索している。今までの枠を超えたビジネスを作るためには、『指示待ち』では間に合わない。将来に向けて主体的に考え、切り開いていく『思考の自立人材』が必要」
つまり、「やりたいことが分からない」学生と、企業が欲しい人材像とでは大きな乖離が生じてしまっているのだ。
このまま売り手市場だからといって、ただ先輩が受けた会社を受ける……といった受け身型の就活をしていいのだろうか。
たとえ運良く内定が取れたとしても、入社後の仕事に身が入らず、かつてバブル世代の少なからぬ人数がそうなってしまったように、社内失業者への道を早々に歩まないとも限らない。
だからこそ就活生は、後で後悔しないためにも、企業がなぜ今「自律型人材」を求めるのかという背景や、最新の採用動向などを知っておいたほうがいいのだ。
高額初任給、多様化するインターン
今回の特集は、大きく分けて2部構成で展開してゆく。
本日からスタートする第1部では、「東大・早慶の就活 2019」と題して、今年の就活トレンドや2018年卒の就活必勝法を10話にわたり展開する。
そして第2部では、就活生に「会社選び」のヒントを提供するために、各界で活躍する経営者や著名人に、「今22歳だったら入りたい会社」について聞く。こちらは、3月12日から7話連続で配信する計画だ。
第1部の具体的なラインナップを簡単に紹介しよう。
特集1回目と2回目は、「東大・早慶の就活2019年卒、5つのビッグトレンド」を前後編に分けて解説する。
2019年卒は、1人が平均2.45社の内定を手にした2018年卒と比べて、さらに売り手市場が続くと見込まれるが、その状況とはどのようなものなのか。
そして、旺盛な人材需要に比例して、変化する学生の意識とは?
また、エンジニアを中心に高額初任給を提示する企業が続出する動きとともに、採用減が見込まれるメガバンクの状況や、年々増える「インターン採用」の実態、さらには多チャンネル化する採用方法などについてリポートしてゆく。
特集3回目と4回目は、大企業が今、本当に求める人材像についてフィーチャーする。
現在の学生は安定志向、大企業志向を強めている。しかし、従業員数別の採用倍率を見ると、5000人以上の大企業の0.39倍(2018年卒)で、やはり大企業は依然として「狭き門」だ。
その大企業がここへきてしきりと「自律型人材」を求める理由とはなぜか、前出の伊藤忠商事の垣見氏のインタビューなどから、その真意を探る。
特集5回目は、就活という学生と企業の建前が飛び交う不思議な世界において、誤解なく就職活動が進められるように、「企業の本音と建前 翻訳辞典」を掲載する。
インターンは採用に直結しないいうのは本当なのか? 「イノベーター人材が欲しい」と連呼する真意とは? 「フラットな職場環境です」とのうたい文句は信頼できるのか? などの実像に迫る。
特集6回目と7回目では、20時間以上かけて総力取材した、第1志望企業に入社予定の2018年卒が面接で語った20人の「学生時代頑張ったこと」エピソードを掲載する。
さらに、番外編として、2つの記事を用意。1つはプロさながらの実績や経験を持つ「プロ学生」の就活の最前線をルポ。
インターンではなく、SNSなどを介して直接「師匠」を見つけて弟子入りし、スキルを得る学生やハーバード現役大学生の就活、さらに最近増えつつある「事業提案型就活」の実際を報じる。
番外編2つ目は、「女子の就活」について論じる。
結婚、出産などのライフイベントを控える女子は、会社を選ぶうえで、仕事と家庭の両立が出来るかどうかという視点に敏感だ。本当に両立しやすい組織の特徴を紹介していく。
そして特集第2部の、各界で活躍する著名人が語る「もし22歳だったら行きたい会社」には、メルカリの小泉文明社長、SHOWROOMの社長の前田裕二社長、評論家の宇野常寛氏、Kaizen Platformの須藤憲司社長、READYFORの米良はるか社長、ハピキラFACTORYの正能茉優社長、日本テレビの土屋敏男氏らが登場予定だ。
特集の最後には、筑波大学学長補佐の落合陽一氏が登場。ワーク・ライフ・バランスではなく、落合氏が提唱する「ワーク・アズ・ライフ」時代の就活論を論じてゆく。
また、今年は就活特集にあわせて、就活アンケートに答えていただいた学割会員限定で、堀江貴文氏、落合陽一氏など著名人が登壇する就活イベントに合計5000人をご招待。
NewsPicksが、みなさんの就活に少しでも役立てば幸いです。
(デザイン:星野美緒)
東大・早慶の就活 2019年卒
- 【解説】東大・早慶の就活。5つのビッグトレンド(前編)
- 【解説】高額初任給エンジニアの登場と、大企業総合職の受難
- 【完全図解】大企業を受ける前に、知っておきたい3つのこと
- 【本音】伊藤忠人事部長が語る、大企業が本当に欲しい学生
- 【保存版】企業のホンネとタテマエ翻訳辞典
- 【直撃2018年卒】第1希望内定者20人の神エピソード(大企業編)
- 【直撃】第1志望内定者20人の神エピソード(外資・ベンチャー編)
- 【女子の就活】女子学生よ、会社に騙されるな
- 【チェックシート】本当に働きやすい会社、7つの見分け方
- 【番外編】ハーバード生、プロ学生。最先端の就活3つのスタイル
- 【メルカリ小泉社長】いま私が22歳だったら、官僚を目指す
- 【田端信太郎】22歳だったら、日銀経由で仮想通貨業界に行く
- 【須藤憲司】22歳だったら、中国のメガスタートアップに行く
- 【米良はるか】22歳だったら、創業期の楽天のような会社に入る
- 【日テレ・土屋敏男】22歳だったら、ライゾマティクスに行く
- 【宇野常寛】22歳だったら、就職しないでメディアを作る
- 【正能茉優】22歳だったら、トヨタかUHA味覚糖に行く
- 【前田裕二】22歳だったら、“好き”を見つける旅に出る
- 【落合陽一】ワーク・アズ・ライフ時代の就活論
この連載について
圧倒的な売り手市場が続き、エンジニアに高額初任給を提示する企業、中途と新卒の採用区別をしない企業などが登場。採用チャネルも多角化し、「インターン採用」のスタイルも百花繚乱の様相だ。
片や学生は、学生にしてプロさながらのスキルを持つ「プロ学生」が登場する一方で、安定志向の学生が主流派で、バブル時代の若者の価値観に逆戻り…との指摘もある。
東大・早慶なら、いつかはどこかに受かると気楽に就活する人が増える中、学生はこのまま、売り手優位を貫けるのか? その内実に迫る。
この連載の記事一覧
【落合陽一】ワーク・アズ・ライフ時代の就活論
1018Picks
人気企業ランキング2019年卒。首位はリクルート
422Picks
【保存版・スライド】就活を成功に導く、NewsPicksの使い方
543Picks
【前田裕二】22歳だったら、“好き”を見つける旅に出る
1982Picks
【正能茉優】22歳だったら、トヨタかUHA味覚糖に行く
432Picks
【宇野常寛】22歳だったら、就職しないでメディアを作る
575Picks
【日テレ・土屋敏男】22歳だったら、ライゾマティクスに行く
202Picks
【米良はるか】22歳だったら、創業期の楽天のような会社に入る
395Picks
【須藤憲司】22歳だったら、中国のメガスタートアップに行く
407Picks
【田端信太郎】22歳だったら、日銀経由で仮想通貨業界に行く
1259Picks