【高田繁GM】「僕がいなくても、ベイスターズはもう大丈夫」

2018/2/11
「フロントが主導し、従来とは違う形でチームづくりをやっていきます」
いまから7年前の2011年末、横浜DeNAベイスターズの春田真オーナー(当時)が球団経営を始めた際、そう言ってチームづくりのトップとして招いたのが高田繁GMだった。
高田GMは現役時代、巨人のリードオフマンや5番打者としてV9を牽引し、日本ハムが北海道に移転後には2005年から2007年までGMを務め、若手が育つ仕組みづくりに尽力した。いわば、“勝てる組織”を熟知した人物だ。
(撮影:中島大輔)
最下位が定位置だったベイスターズは過去6シーズンで着実に力をつけ、2016年から2シーズン連続でクライマックスシリーズ(CS)に進出、昨年は19年ぶりの日本シリーズまで駒を進めた。選手たちがグラウンドで結果を出した裏には、チームづくりが実を結んできたことも大きく関係がある。
「本当に少しずつですけれど、初めに春田前オーナーと約束したチームに近づきつつあります」
まだまだ発展途上という“勝てるチームづくり”について、高田GMへのインタビューを前後編でお届けする。

常に先を考えるのがGMの仕事

――2011年末にGM就任して、今年7年目のシーズンを迎えます。就任以来、目指してきたチームづくりはどこまで実現できていますか。
高田 当時のオーナーの春田さんからお願いされたのは、「1回は優勝するけれど、それから5年、10年、20年も優勝できないチームではなく、常にAクラスに入り、優勝争いに絡めるチームづくりをしてもらいたい」ということでした。「従来のように、監督がトレードもドラフトでも編成権を持ってやるのでは、監督が代わるたびにチームの方針がコロコロ変わってしまうので、フロントがチームづくりをする組織をつくってほしい」と。
当時の僕は66歳。プロ野球での仕事はもう終えて、アマチュアや子どもの野球に関わろうと思っていました。ところがDeNAは野球に全然関係ない会社で、プロ野球について全然わからない人が球団運営を始めるので、何としても手を貸してください、と。それで2年間の約束で引き受けました。
「2年やってもらえたら結構ですから、その代わり、後継者をつくってください」と春田さんに言われて、「チームづくりと合わせて組織づくりをやってほしい」というところからスタートしました。それから6シーズンが終わり、春田オーナーと約束したチームに少しずつ近づきつつあると感じています。まだ、完成されていないですけどね。
――完成されていないのはどの辺りですか。
いままではドラフトの上位指名で即戦力投手を獲ってきたから、今度はこのひずみや反動が野手の方に来ると思っています。うちはFA(フリーエージェント)などで大金で選手を連れてくるチームではなく、ドラフトでいい素材を獲ってチームで育てて、それが主力になるという形をとっています。即戦力で獲った選手は育っているけれども、本来の育成というところではまだまだこれからですね。
それには、特に野手。筒香(嘉智)以降、中心になるような選手です。
今季高卒9年目の筒香は推定年俸3億5000万円で球団野手史上最高額
これまでは即戦力のピッチャーを上位で指名してきて、まだこれからも戦力として出てきます。だから本当は去年辺りから野手を上位で指名して、2、3年かけて主力にしていくことができると、だいぶチームとして形ができてくる。そういう意味で、まだ一歩手前です。
――高田さんは巨人の選手としてV9に貢献して、日本ハムではGMとして選手が伸びる仕組みをつくりました。勝てる組織の秘訣はありますか。
そんなのがあったら、教えてもらいたいですよ(笑)。日本ハムもあそこまで行くまで、何年もかかりました。
うちでは「ミナト・システム」と呼んでいるけれど、全選手のスカウティングやメディカルについて現場の担当者が報告し、能力を数値化してクラウドシステムで一元管理するシステムをつくりました。いまはどのチームもやっていると思いますが、日本ハムの吉村(浩=GM)さんが考えたものを参考にやっています。
我々が手本にしているのは日本ハムや広島のチームづくりで、自前で選手を育てていく。FAになった選手にとんでもない条件で残ってもらって、それがチームのひずみになることはないように、次から次へと選手が出てくる体制をつくらないといけない。
筒香、梶谷(隆幸)が抜けたら大変なのはわかるけれども、彼らが抜けても大きな穴にならないように、常に先、先を考えておくのが僕の仕事です。それが軌道に乗っているのは日本ハムや広島で、うちはまだこれからというところですね。

うちの総年俸が安いのは当たり前

――GMという仕事は「マネーボール」以降、日本でも認知されるようになりましたが、実際に何をしているかはそれほど知られていない気がします。日本のGMの仕事は、アメリカのGMとは違うものですか。
全然違います。僕はチームづくりだけ。ドラフト、トレードでは普通は監督が最終的に決めるけれど、うちは僕が中心で進めて、池田(純)前社長の頃は2人で決めました。
いまの岡村(信悟)社長は編成に関わらずに球団、球場の経営に専念しているので、球団代表の三原(一晃)と一緒にやっています。僕が「監督はこの人にする」と勝手に決めるわけではなく、推薦するという形ですね。ドラフトでは僕とスカウト部長と三原球団代表の3人で、最終的に「こう行きますよ」と決めます。
アメリカではすべてGMが決めますよね? (ロッテのGMだった)広岡(達朗)さんは別だと思うけれど、私の場合はそういうのではない。編成の責任者という立場です。
――外国人選手を含む選手の総年俸について、2017年の金額を12球団別に計算してみたら、DeNAが最も少ないと推定されました。球団経営がうまくいっているのでもっと使えばいいと思うのですが、外国人にいくらまでかけるかなどを決めるのは高田さんの役割ですか。
時々、「あそこはカネがないんだろうね。厳しいんだろうね」と言われるけれど、僕が外国人選手を獲るとき、「この選手は高いからやめましょう」と言われたことは一度もありません。
野手ではロペス、投手ではウィーランド、パットン、エスコバーと活躍を期待できる選手が4人いるなか、今季野手のソト(左)と投手のバリオス(右)を獲得して層が厚くなった(撮影:中島大輔)
僕の考え方として、他の球団と競争して年俸が能力より高い選手を獲る気が全然ないわけ。それならどうぞ、という形です。コストパフォーマンスに合って、適正な価格でチームづくりをするのが僕の仕事なのでね。
そうでなければ、野球に詳しくない方がやってもいいと思う。FAになった選手で、「あの選手は打つよね」というのはみんなにわかることですから。
うちの総年俸が安いのは当たり前です。レギュラーを見れば、若い選手ばかりですから。年俸2000万円くらいの選手がレギュラーで出ていれば、下がるわけがない。ましてや宮﨑(敏郎)のように働けば、上がります。これから何年間かは上がっていき、来季は12球団の真ん中あたりに行くと思います。
2017年首位打者に輝いた宮﨑は5000万円増の推定年俸8000万円に
今度は、多くの年俸をもらっている選手が働いているうちはいいけれど、働きが下がってコストパフォーマンスに合わなくなれば、契約満了になります。その見極めをするのが僕らの仕事です。
――高田さんがGMに就任して以降の数年間でコストパフォーマンスに合わない選手が退団し、総年俸が下がりました。いまは伸び盛りの選手が多く、上がっていくフェーズということですね。球団として総年俸の上限は設定していますか。
球団の経営者は当然、考えているでしょうね。我々は選手をどんどん育成して、主力の代わりになれるような体制をつくっていくことが目標で、その形ができれば、安定して働く選手には契約を続けて、コストパフォーマンスに合わない選手は契約満了となります。
過去のプロ野球では年俸がそんなにボンボン上がらなかったけれど、いまは上がる時代だから、逆に年俸に見合った働きができない選手は厳しいよという状況です。
うちの球団だけではなく、よその球団で「なんでこの人がユニフォームを脱がないといけないの?」というのは、コストに合わないのと、ほかに代わりの人がいるということ。働いてくれたら、チームの戦力として役に立っていれば、「年齢だから」ということは絶対ありません。

人が育つ組織づくり

――2年間の約束でGMを引き受けて、今季で7年目です。ここまで続けている理由はどんな点が大きいですか。
投げ出せなくなっているわけです(笑)。僕自身は年齢も年齢だし。
ただ、「もう少しだね」というところまで来たので、今年は本当の集大成というか、勝負の年。チームづくりの形は出てきている。あとは野手の育成さえ形としてつくっていければ、いまの形でこの球団は動いていける。もう僕がいなくても大丈夫。その目の前まで来ています。
――後継者という話がありましたが、すでにつくられていますか。
ええ。大丈夫です。
――球団の中にいますか。
はい。はっきり言って、僕のようなのはいないんですよ。僕の代わりと言っても、ある程度年齢も行っていないといけないし、監督にものを言わないといけない。野球の経験も必要だし。そういう人材は、そうそういません。
でも僕のような形ではなくて、うちは球団主導でチームづくりをやっていきます。監督はいつ代わるからわからないから球団主導でチームづくりをやっていきますよという形では、やっていけると思う。それさえできれば、組織自体はでき上がりつつあるから大丈夫です。
――日本版GMに求められる能力や要素として、プロ野球選手としての経験は欠かせませんか。
日本の場合はね。(日本ハムの)吉村さんみたいに選手経験はないけれど、アメリカで野球のチーム作りを勉強して、飛び抜けた能力を発揮できる人がいれば、彼みたいなGMとして堂々とやっていけると思います。
――ラミレス監督は1年目の昨季素晴らしい起用を見せて結果も残しましたが、次期監督候補は高田さんの頭のなかにありますか。
ありますよ。常に考えています。
ただ僕の考えも、球団の考えとしても、監督になる前に指導者として経験を積んでもらいたい。いきなりポッと来て1軍監督をやるよりも、ヘッドコーチか2軍監督をまずやる。僕は2軍監督が一番いいと思いますけれどね。そこで最低でも1年やってもらう。そういう流れにするのが理想です。
この球団はそうするんじゃないですか。やると言えば、やる球団ですから。常にそういう話を代表とはしています。
*明日掲載の後編に続きます。
(写真:©YDB)